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キタナイココロ

作者: サクラソウ
掲載日:2026/01/10

最低な人間とただの親友

「こいびとができました」

急に飛び込んできたこの文に私のスマホとあたまは支配された。


 特にすることもない冬休み。女子校の人間には彼氏とか恋愛とかそんなすてきな予定がある人は希少だ。予定といえば部活の練習でクリスマスを学校で終えるくらい。ようやく入った年末休暇も特に予定があるわけでもなくダラダラと過ごす。ホントは来年の受験のために勉強しなきゃいけないが実感がわかなくてそんな気分にもなれない。あとで後悔するとわかっていながら本日何度目かのインスタタイム。眺めてからあっという間に1時間。何の前触れもなく機械的な通知音がなった。親友がXでポストしたらしい。なんとはなしにひらく。


こいびとができました


たったそれだけの文。ひらがなで書かれたそれに、あいつの恥ずかしさが混ざった嬉しそうな顔と声がありありと浮かぶ。インスタにとどまらずほぼ推し活のためのSNSを交換するほどの信頼、文章だけであいつの顔が想像できるほど気心のしれた仲。休みのたんびに遊びに行って、一緒に推し活をして。お互いが楽だと感じる距離感でお互いにわかりきっている話しをする。やっと出会えた一生の友と呼べる存在。私はあいつのことを―なんでもといったら傲慢かもしれないけど―誰よりも知っていた。

 冬休みに入ってたったの10日しかたっていない。たったそれだけ会わなかっただけであいつとの距離が一気に遠くなったように感じた。知らないところであいつは私を追い越した。


悔しい

一番最初に感じた。

別れたらいい

一番強く感じた。

いつからだろう

一番前向きに感じた。

不思議と、親友の春の訪れには素直に喜べず、真冬の雪よりも冷たい感情が牙を剥いた。…最低。私はこんなに非情な人間だったんだ。理性に伴って親友として喜んであげなきゃいけないことを思い出す。自分の汚さを自覚してからはもう遅い。あいつのために喜ぼうとすればするほど自分にウソをつくようで嫌だった。ウソを親友に向ける私が汚い。そして、人の幸せを喜べない私がもっともっと醜い。なんで…なんで私はこんなにも身勝手なんだろう。


「その話詳しく!」

ただ興味本位で。この気持ちを消し去るために。あいつにDMした。

「クリスマスにできた!」

嬉しそうな返事が返ってきた。目の前にいなくてよかった。

…ふと引っかかった言葉を文字に起こした。

「相手って女性?

   なんか、こいびとって言い方が気になった」

あいつは彼氏ができました、とは言わなかった。もしかして女性なんじゃないか?そんな淡い期待を抱いた。同性であってほしいと思った。…自分より親友が先に彼氏を作るのが許せなかったのかもしれない。うらやましかったのかもしれない。

「流石だわ。よく分かったね。」

あぁ、よかった。彼女ができたんだ。彼氏じゃないんだ。…やっと、たったそれだけであいつのことを少し喜べた。どんどん汚くなっていく私の内側はもうあいつに何を思っても罪悪感を感じない。取り返しがつかなくなった。

 新学期が始まって直接会ったら聞いてみよう。あいつが自分の推しを語るのを聞きに行くように。興味がないように。悟られないように。あいつが喜ぶのが目に浮かぶ。あいつは自分の好きなことを共有するのが好きだから。はまっていることをたくさんたくさん話してくれる。そして私はあいつの話についていけるように話してくれたやつを家で見てみるんだ。

 …なんだ、私がやってること、恋人と一緒じゃん。私はあいつが好きなのかな?―いやそうじゃない。恋愛感情はまったくない。ただ、あいつと一緒にいると楽しいだけ。あいつとずっと一緒にいたい。大学へ行ってもずっとずっと。今の関係が壊れてほしくない。親友としてのあいつが好きなだけ。…だからなおさらこんなこと思うのおかしい。


 またXの通知が鳴る。こいびとのDMのスクショ。どうやら遊びに行く予定を立てているらしい。…ムカついた。2人のいちゃつく姿が私の中で少し煮えた。ほんとにちょっとだけ。見たくもない。誰得だよ。なぜ会ったこともないこの人をこんなに恨めるんだろう。人間ってこうも簡単に軽蔑できるのか。もし。もしあいつが私と遊ぶことよりこいびとと過ごすことをとるのなら。もしあいつが恋人との時間で私との時間が減るのなら。もしあいつが私をどうでもよく思うなら。そんなことを考える。

 だってそういうもんでしょ?恋愛はしたことないから分からない。けど、きっとあいつはこいびとと時間を過ごしたいって思うはず。

つらい。

あいつにとって一番過ごす時間が長かったはずなのに、取られるのか。

やだな。

あいつともっともっと時間を共有できるのか。

ずるいな。

―どうやら自分は思っていたより独占欲が強いらしい。気持ち悪い。少女漫画の主人公かよ。


 年を越した。ずっと渦巻いているあの気持ち。ちょっとだけ落ち着いたけど。顔には出していないけど。ずっともやもやする。また急に、元旦の朝、あいつから連絡が来た。

「1月空いてる日は?」

これだけでわかるほどの仲。あいつの業務連絡のように聞いてくる顔が思い浮かぶ。

「再来週日曜いける。今度はどこ遊びに行くのさ」

「推し活」

「よしいく」

…なんだ変わらないじゃん。あいつは変わんないじゃん。予定表に丸をつけた。

 いつまで続くかな。大学生になっても社会人になっても高校からの親友って続くのかな。いつ終わりを迎えるのだろう。きっと。いつか自然消滅するとしても。ケンカ別れしても。あいつはきっと変わんない。



こいびとさんへ

 私はあいつの親友です。あいつのことはよく知ってます。あいつの短い文だけで貴方のことをめちゃくちゃ喜んでいることがわかるくらいには仲がいいです。 

 私は貴方のその座を取る気はないですが許せません。もしかしたら私にいい人がいないことが悔しいだけかもしれないけれど。私との時間が少なることが嫌なだけかもしれないけれど。貴方には申し訳ないけれど勝手に敵視しています。

 だから、あいつとたくさん話してください。あいつとたくさん遊んでください。いつか私が貴方を敵視しなくなるまで。心からあいつのことを喜べるまで。あいつを泣かせても許しません。私は貴方のことをあいつが嫌いになってくれたら喜んでしまうかもしれないけど。

 そして最後に。私はあいつの親友だから。あいつは私に貴方のことをたくさんたくさん話してくれると思います。私は全力であいつの話を聞きます。そこで私があいつや貴方のことをキタナイココロで感じることは許してください。私は最低な人間だから。

 貴方に多分会うことはないけれど。私は貴方を応援します。

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