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第8話 反逆者たち


砦を囲む闇の中、風が唸り、木々が騒めく。

森に潜んでいた反乱軍の兵たちは、松明のように赤い緊張を胸に灯しながら、低く息を潜めていた。


牢屋の塔を爆破したことで間違いなく、敵は襲撃に気づくだろう

だからこそ、ここからは敵が体制を整える前に一気に攻め落とす必要がある。


反乱軍の先頭を歩くヴランツは、かつての狩人の姿ではなかった。


レルゲンらが持ってきた王の服装に着替えており、

黒い外套。腰には家伝の剣。背には弓。


その背に掲げられた紋章――黒き大鴉。

ラヴェリア王家の象徴。


レルゲン、ヒューズ、マークが左右につき、村で鍛えた若者たち、市外から加わった者たちが列を形成する。


ヒューズが息を潜めて前へ出る。


「確認した。門前の巡回兵は二人。距離二百歩。射程内。」


ヴランツは静かに頷く。

ヒューズとヴランツが同時に弓を構え、月明かりに反射して矢が光る。


ヒューズが微笑んだ。


「こういう時だけは狩りと同じだな。」


「……ただの狩りじゃない。これは奪われたものを取り返すための――獣狩りだ。」


二人は、放った。


矢は音を立てず空を裂き、兵士二名の喉を貫いた。

倒れた兵士の甲冑が微かに音を立てて雪に触れる。


気づいた者はいない。


ヒューズが息を吐く。


「開幕、だな。」


ヴランツは剣を引き抜き、草むらより立ち上がり、声を張った。


「――突入!」



砦の正面に向けて走る反乱軍。

ヒューズが火矢を高く掲げ、息を吸う。


「風、良し……!」


放たれた火矢は一直線に飛び、二つ並んだ砦の見張り塔を繋ぐ縄橋に突き刺さる。

瞬く間に炎が走り、見張り台が騒然となる。


「敵襲だ!!!」


鐘が鳴り、兵士たちが武器を掴んで走り出す――が、すでに遅い。


レルゲンが火薬玉を投げ込み、短い詠唱のような笑い声を漏らす。


「ほらよ、“挨拶”だ。」


轟音。


炎と土砂が巻き上がり、砦の門と見張り塔が崩れる。


その瞬間、ヴランツが叫ぶ。


「――突入!!!」


反乱軍が土煙を巻き上げながら一斉に砦へとなだれ込む。


兵士と反乱軍がぶつかり、怒号、甲冑のぶつかる音、剣戟が響く。


 



ヴランツは最短距離で砦内部へと駆け込む。


兵士が盾を構え道を塞ぐ。


「止まれ!貴様ら何者だ!名を名乗れ」


ヴランツは足を止めずに目を細め、言った。


「そうだな――」


剣を振り抜き、盾ごと兵士を斬り裂く。


「名はヴランツ・ラヴェリア。ラヴェリア王家の正統なる継承者だ。」


倒れた兵士。その言葉を聞いた者たちがざわつく。


「嘘だ……ラヴェリア王家は全員処刑されたはず……!」


「亡霊か……!?」


ヴランツはその動揺を切り裂くように叫んだ。


「亡霊ではない――奪われたものを取り返しに来た者だ!!!」


兵士たちが怯んだ瞬間、マークが側面から斬り込み、レルゲンが背後から兵士を喉ごと刺し貫く。


戦場が動揺で揺らぐ。


 


砦の上からデュークの怒声が響いた。


「怯むなぁッ!!!相手はただの反乱農民だ!たかが小僧一人に遅れを取るな!!」


彼の鎧は豪奢で、剣には宝石。

兵士は彼の怒りに追い立てられるように再び向かってくる。


だが――


「甘い。」


ヴランツの声は静かだった。


マークとレルゲンが兵士を押さえ、ヒューズが高所を制圧し援護射撃を放つ。


戦場が徐々に――しかし確実に、反乱軍優勢へ傾いていく。


 



その時。


ヒューズの声が響く。


「ヴランツ!地下牢だ!!エルナを先に!」


ヴランツの胸が熱くなる。息が荒くなり、視界が強く震える。


――エルナ。


彼女の存在が、剣より重く、盾より強かった。


ヴランツは一言だけ返した。


「任せた。ここは頼む!」


そして――砦の奥へ駆けた。


 



地下牢へ続く階段は奴隷たちの牢屋のように血の匂いが濃く、鉄の扉の前には守備兵が三名。


「来るな!止まれ!」


ヴランツは止まらない。


血のような赤い激情が全身を支配し、獣のように踏み込む。


兵士の剣が振り下ろされ――


ヴランツの剣が火花を散らしながら相手の喉元を切り裂いた。


残る二人は恐怖で後ずさる。


「ひ……ひぃ……!」


ヴランツは言った。


「そこを退け。今なら命は捨てずに済む。」


震える兵士たちの目に――王の眼が映った。


二人は剣を落とし、逃げるように姿を消した。


ヴランツは斬り殺した兵士から鍵束を拾い、扉を開ける。


 




暗い牢。血と痛みの匂い。

鎖が鳴り、そこに――


エルナがいた。


痩せ、傷だらけで、視線を彷徨わせていた。

だがその瞳がヴランツを映した瞬間、世界が止まった。


エルナは震える声で息を吸う。


「……ヴランツ……?」


彼は言葉を返せなかった。

胸が締め付き、声が震え、涙が視界を曇らせた。


ただ歩み寄り、そっと鎖を外し、抱きしめる。


エルナの身体は細く、冷たく、壊れそうだった。


それでも――生きていた。


エルナはヴランツの胸元を掴み、震える声で泣いた。


「来てくれた……置いていかれたと思った……世界中で私だけが一人だと思った……!」


ヴランツは額を彼女の髪に押し当てた。


「違う。お前は一人じゃない。

……俺が迎えに来た。誰にも奪わせない。」


エルナは泣きながら微笑む。


「……遅い。」


「すまない。」


小さな声で、しかし確かな命の震えで。


二人の世界は再び繋がった。


 




しかし――重い鋼鉄の足音が階段を震わせた。


剣戟の音が止まり、怒号が響く。


デュークが現れた。


怒りに満ちた顔で剣を引き抜き、叫ぶ。


「貴様ァ!私の所有物に触れるな!!!」


ヴランツはゆっくりと立ち上がり、エルナを背に庇う。


目の奥には炎。声は低く――だが絶対だった。


「――所有物ではない。

これは俺が守る“人間”だ。」


デュークは嘲る。


「ならばその幻想ごと斬り捨ててやる!!」


二人は向かい合った。


剣が抜かれ、火花が散る。


 

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