第四話 悪党駆逐
俺の一言に、五人の顔色がどす黒く変わる。
中でも先ほどから煩く言ってくる手前にいたキツネ顔の小柄な男は、人相が変わるくらいに歯をむき出しにして、俺を睨みつけた。
「おい、おっさん、てめえ今うるせえって言ったのか?それってまさか、俺らに言ったんじゃねえよな?なあ?なあ!?そうだろ?そうだよなあ。まさか俺らに言うわけねえよなあ?」
俺はすかさず顎をクイッと上げ、小男を傲然と見下ろす。
「いやお前らにだし、特にチビ、お前に対して言ってんだよ」
途端に、キツネ顔の男がぶち切れた。
「てめえ舐めてんのか!」
「ああ、存分に舐めてるぞ」
俺の間髪入れない返答に、男たちの顔が凶悪に赤く染まりだす。
小男はゆっくりと足を前に繰り出しながら、呟くように言った。
「ぶっ殺す……このおっさん、俺が絶対ぶっ殺す」
まずはこいつだな。
男はぶつぶつと呟きながら、凶悪な面相で近づいて来る。そして俺との間合いを計りながら、右の拳を強く握り込んだ。
早いねえ。拳を握るのは、殴る直前がいいんだけどなあ。
そんなことを思っていると、小男が雄叫びを上げて殴りかかってきた。
俺は軽く鼻から息を吐き出すと、回避行動に移る。
男の握り込んだ右拳が、俺の顔面目掛けて押し寄せる。
それを、わずかに身体を反らすことで瞬間的に回避した。
小男は当たるはずの拳が空を切ったため、軽く前につんのめった。
俺はそのバランスを失った男の足を、右足で強く蹴り上げる。
すると男は、腰の辺りを中心に中空でくるんと半回転して完全にバランスを失い、無残にも顔面から地面に落ちた。
「ぐびゅっ!」
小男は、あまり聞いたことのない面白いうめき声を上げた。
それを聞いて、俺は思わず鼻をふんと鳴らした。
一連の動きを見てか、他の四人の男たちがざわめいている。
逃がすのも面倒だ。俺は中指をピンと立てながら左手を男たちに向けた。
次いで他のすべての指も立てると、親指を除いた四本の指をくいっくいっと手前に二度倒して挑発した。
その途端、男たちが雄たけびを上げて俺に襲いかかってきた。
だがすべての動きが、俺にはスローモーションに見える。
一番早く俺に到達しそうな男に向かって一歩前に足を踏み出すと、前に突き出していた左手の甲でパンと相手の顔を払った。
男は顔をぐしゃっとひしゃげ、折れそうなほど首を横にひねりながら、身体ごと吹き飛んだ。
次はその右の男だ。
俺は返す刀で同じく左掌で、右の男の顔を思いっきり平手打ちにした。
もの凄い破裂音が響いたかと思うと、右の男も首をぐるんとひねりながら吹っ飛ぶ。
するとそれを見てか、他の二人が足を踏ん張り、急ブレーキをかけて止まった。
顔には驚愕の色が浮き出ている。
だが俺は容赦はしない。こういう輩は好きではないからだ。
男女が仲良くいちゃいちゃするのは、正直あまり見たくないものではあるが、だからといって文句を言う筋合いのものでもない。なぜならここは夜の公園だ。そういうことをしたい盛りの男女にしてみれば、して当然の場所だ。
だからそこに居合わせたからといって、絡みに行くなんていうのはもってのほかだ。
そもそも俺は、こういう暴力を身体にまとわりつける輩が嫌いだ。それも徒党を組み、人数を頼みにデカい顔で町をうろつくような輩は、ゴキブリ並みに大っ嫌いだ。
こいつらは、存在そのものが悪だ。
あー腹が立つ。あーどんどん腹が立ってきたぞ。
こいつらぶちのめそう。いや、もうすでに三人ぶちのめしているけど、他の二人もぶちのめすこと決定。
そちらが暴力を振りかざすなら、さらなる巨大な暴力でもって完膚なきまでに制圧してやろうじゃないか。
俺はぐいっと前に出ると、逃げようとする右の男の頬を思いっきり左手で強烈にひっぱたいた。
案の定、男は首がもげるかという勢いで吹き飛んだ。
最後のひとりはもう完全に戦意を喪失していた。
だが俺はやる気満々だ。気力も充実している。
這う這うの体で逃げようとする男の右腕を掴むなり、力強く手前に引っ張った。
腕がちぎれんばかりの勢いで半回転し、男の顔がこちらに向く。
はい、ラスト。
俺は最後も左手を自らの顔の前にもっていき、その掌でもって男の右頬をパンッとはたいた。
「ぶぼっ!」
男は口内に溜まった唾を撒き散らしながら吹き飛んでいった。
あ、ちょっと待てよ。
そういえば最初のキツネ顔の小男は、足を払っただけだった。
それじゃあ他の四人に対して不公平だな。
俺は踵を返すと、小柄な男を見た。
男はやはりダメージがそこまでないらしく、完全に気絶している他の男たちとは違い、今にも立ち上がりかけていた。
まあでも一応こいつも顔から地面に落ちてはいるんだよな。じゃあ他の四人に対する平手打ちより、少しだけ弱めに叩いてやるか。
俺は方針を決めるなり、キツネ顔の小男の前に立ちはだかった。
男がふらふらしながらもようやく立ち上がり、睨みつけてくる。
俺はにんまりと微笑んだ。
小柄な男は憤怒の形相となり、叫んだ。
「てんめえ―――!」
男がこぶしを振り上げるモーションを開始する。
だが俺はそれを許さない。
素早く左手を前に出すなり、掌で男の右頬をはたいた。
「ぼっ!」
先ほどの男同様に、キツネ顔の男も口内の唾を吹き出しながら吹っ飛んだ。
うん。こいつら相手には左手一本で充分だ。それに、実にいい塩梅の力加減だった。これなら五人平等に全治三か月ってところだろう。
これくらいの小悪党には、それくらいがふさわしい。
俺は満足げにうなずくと、絡まれていた男女をちらと見た。
男女は今起こった出来事に震えながらも、俺に向かって会釈をした。
うん。やはりいいことをした。
俺は満面の笑みを浮かべながら男女に会釈を返すと、さっと踵を返した。
悪党は駆逐され、一組の男女が救われた。
めでたしめでたしだ。
月が煌々と照る中を、俺は気分よく歩きだした。
だが途中で思い出した。
あああああああ帰る場所がないいいいいいい。
俺はまたひとつ大きなため息を吐いた。
はあ……どうすりゃいいってんだ。これから先、どうやって生きていったらいいんだよ。
俺は不安な先行きを思い、ため息を何度も吐き出しながら丘の上の公園をとぼとぼと後にした。




