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死神使役《ネクロマンサー》、現世《うつしよ》に惑う  作者: マツヤマユタカ@ワンバイエイト第四巻発売中!漫画も第二巻発売中!


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第三十八話 取引

 完全に千弦は、ソルスが死神であることを信じたようだ。つまりそれは俺のことも異世界人だと信じたってことだ。ならもう死神の姿に用はない。


「おい、人間の姿に戻れ」


 俺がそう命じるも、ソルスは嫌そうな顔をする。


「疲れる」


「嘘つけ。お前、今日一日ずっと人間の姿のままでいられたじゃねえかよ」


「それで疲れた。疲れ切った。もう戻りたくない」


「いいから戻れよ。他の組員たちが起き出したら説明が面倒だ。早くしろ」


 ソルスは不承不承といった様子で踵を返し、再び人間の姿に戻った。


「凄いものだな。一瞬で元通りか」


 千弦はそう言って、血に染まったハンカチを胸ポケットに戻そうとしたところで、ギョッとした顔となった。


「血が……消えている」


 千弦が見つめるハンカチには、先ほど拭いて付着したはずのソルスの血の跡がなかった。


 ソルスは屈託なく答える。


「ああ、そうなんだ。俺も何故かはわからないが、しばらく経つと消えるんだよ」


 俺も何故かは知らない。だがいつも、しばらく経ったら滴り落ちる血は消えていった。


 あの血は、一体なんだろうか。


 そこで千弦が、決意のこもった眼差しを俺たちに向けた。


「取引をしたい」


「なに?取引?」


「そうだ。取引がしたい」


「どんな……ああ、そういうことか」


 俺は言っている途中でピンときた。だからそれを言った。


「来栖を引き取りたいってことだな」

 

 千弦は重々しくうなずいた。


「お前たちが何者であるかは、正直どうでもいい。重要なのは、俺ではお前たちに到底敵わないということだ」


「正しい判断だ」


「ならば、取引をすればいい。お前たちが来栖を警察に引き渡そうとするのは、懸賞金欲しさだろう?」


「その通りだ」


「確か八百万だったな?」


 俺は無言でうなずいた。


 千弦もうなずき、言った。


「一千万だそう。それで来栖を俺たちに引き渡してくれ」


 俺は片方の眉尻をピンと跳ね上げた。


「マジで?一千万?」


「なんなら二千万でもいい」


 な!なんだと!?……こいつ、初めから懸賞金より多い金額を提示したかと思えば、すぐさまその倍を提示しやがった。なんて奴だ。なんていう駆け引き上手だ。この提案は……痺れるぜ……俺の心の大事な部分をギュッと掴まれちまったような感覚だ。くっ!やりやがる。こいつやる奴だぜ!だが――


 俺は心の内を悟られぬよう、表情を引き締めた。


「二千万か。なかなかの金額だな」


「二十万で喜ぶなら、二千万は大喜びだろう。それで手を打て」


 あ、そうだった。今朝のことを忘れていた。俺、今朝がたこいつから二十三万円もらって喜んじゃってる。いや、待てよ。俺、その時本当に喜んだ顔見せたっけ。いやあ、どうだったかなあ。正直覚えてない。


「確かにもの凄く喜んでいたな」


 ソルスが横から余計なことを言った。


 俺は横目でソルスをねめつける。


 だがソルスはまったく気にしない。


 俺は握り拳を自らの口に当て、コホンとひとつ咳ばらいをした。


「まあなんだな。確かに二千万は大金だし、もらえるなら大喜びだ」


 俺はもうごまかしがきかないと悟り、正直に言った。


 千弦はにやりと口の端を上げた。


「今は現金を持っていない。だが必ず渡すことを約束する。それでいいな?」


 俺は天を見上げ、雲間に浮かぶ月を見上げながら少し考えた。


 う~ん、確かに悪い話じゃない。八百万円が二千万円になるわけだから、二倍以上の儲けだ。


 だが、ひとつ気になることがある。


 俺はそれを千弦にぶつけてみた。


「ちなみに、来栖を引き取ってどうするつもりだ?」


「決まっている。本宅へ連れ帰る」


「連れ帰ってどうする」


組長(おやじ)の前に引き出すさ」


「あの娘の父親か」


「そうだ。組長(おやじ)はあれ以来、ふざいじまってな。それはもう見ていられないくらいなんだ。だから、俺たちはなんとしても奴を、来栖を組長(おやじ)の前に連れて行かなきゃならねえんだ」


 春夏冬葉子の父親――つまりは被害者遺族か。先ほど一人娘だったと聞いた。ならばなおさら辛かろう。ふさぎ込むのも当然だ。だが――


「その後はどうする?」


「その後とは?」


「組長さんに会わせた後だよ。組員総出で来栖を殺すのか?」


 俺の問いに、千弦が全身に殺気を(みなぎ)らせた。


 こいつはなかなかの殺気だ。異世界で幾千もの修羅場をくぐった俺じゃなきゃ、ビビっちまうね。


「どうなんだ?」


 俺が再度の問いかけをすると、千弦はくいっと顎を上げ、鋭く目を細めて冷酷な表情を面に現して言った。


「当然そうなるだろう。(うち)にいる奴らはみんな、彼女を大事に思っていた。それを」


 千弦はぎろっと視線をめぐらし、俺たちの背後の小屋に送った。


「あの野郎は、奪いやがった!八つ裂きにしたって飽きたらねえ!指を一本ずつ斬り落とし、じっくりと痛みを味合わせ、いたぶっていたぶっていたぶり抜いて!たっぷりと死の恐怖を奴に味合わせてから、殺してやるさ!」

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