表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神使役《ネクロマンサー》、現世《うつしよ》に惑う  作者: マツヤマユタカ@ワンバイエイト第四巻発売中!漫画も第二巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/54

第三十七話 触れる

 すると間もなく、ソルスの千弦とそっくりな格好のダブルのスーツが、黒く変じていった。と同時に、裾が長く下へと伸びていく。その裾が、砂浜に着くか着かないかまで伸びきった時、再びソルスが踵を返してこちらに振り向いた。


 振り返ったソルスの姿は先ほどまでとは打って変わり、あまりにも異様であった。蒼黒いフードを目深(まぶか)に被っているため、その顔は(よう)として見えない。だがフードの奥の瞳が二つ、爛々と輝いている。仄かに見える下顎は、何やら焼け(ただ)れているように見える。だが最も異様といえるのは、その下半身であった。いや、下半身がなかった。ぶっつりと(へそ)のあたりで切断されており、しとどに血が滴り落ちていた。


「どうだ?本物の死神だぞ」


 ソルスが楽し気な声音で、千弦に向かって言った。


 千弦の顔は暗闇の中でもよくわかるほどに蒼褪(あおざ)めていた。


 驚愕に震える千弦は、喉を絞り出すように言った。


「これは……手品か何かか?」


 俺は感心した。いやあ、そうか。この手があったか。異世界人の証明は難しいが、死神の証明は至極簡単だった。


「手品じゃない。本当にこいつは死神なんだよ」


「しかし……いや、だがこいつは」


 千弦は、手を口に当てながら驚愕の目でソルスを見つめている。


 ソルスはそこであっという顔をした。


「これを忘れていた」


 ソルスは言うなり、何処からか巨大な大鎌を取り出した。


 雲間から覗く微かな月明かりに照らされ、長く鋭い刃がキラリと光り輝く。


 ソルスはそれを肩に担いだ。


「これで完成だ。おとぎ話に出てくる死神と違いはあるか?」


 千弦の喉仏が大きく動き、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。


 どうやら言葉にならないらしい。


 代わりに俺が言ってやるか。


「ほぼ一緒だよ。誰の頭の中にもある死神のイメージとかなり近い。俺が異世界でお前に初めて会った時、腰を抜かしたろ?つまりそういうことだ」


「そういえばあの時のお前は無様だったな。今でも大いに笑えるぞ」


「うるせえよ。昔の話を蒸し返すんじゃねえ」


「昔話をしだしたのはお前の方だ」


「うるせえな。そういうこと言ってんじゃねえよ」


 俺は腹立たし気に舌打ちをした。


 と、ソルスが思い出したように言う。


「そういえば、お前はさっき俺を異世界人ではないと言ったな?」


「言ったがどうした」


「それは違うだろう。俺も異世界から来ている以上、異世界人だ」


「お前は人じゃねえだろうが」


「おお、そういえば俺は神だったな。ならば異世界神か」


 実際こいつは神の眷属(けんぞく)ではある。冥界の神の一柱(ひとはしら)、それが死神なのだから。


 だが――


「なんかムカつくなあ」


 間違いではないとわかってはいても、何とはなしに納得がいかない俺は、腹の底からの本心を呟いた。


 ソルスがにまーっと口の端をクイッと上げている。


 この野郎、さらに挑発していやがる。これ以上乗ってやるものか。


 俺は話を変えようと千弦に向き直る。


「どうだ、信じたか?」


 千弦は、いまだ驚愕の表情でソルスを見ていた。


「その傷は……いや、傷というか下半身は……」


 ソルスが屈託なく言った。


「触ってもいいぞ」


 千弦はソルスの言葉に驚きつつも、恐る恐る手を伸ばした。


 しとどに流れ落ちる血に指先が触れて、千弦が再びごくりと生唾を飲み込んだ。


 次いで切断された部分を指先で触った。


「痛くはないのか?」


 千弦の問いに、ソルスが何事もないように答える。


「ああ、痛くないぞ」


「血が流れるままだが……」


「そうだな」


 千弦は伸ばした手をゆっくりと引いた。そして真っ赤に染まった人差し指を自らの顔の前に翳して、まじまじと見つめた。


「どうやら本物の血らしい」


「当然だ」


「死神も俺たち人間と同じ赤い血が流れているのか?」


「さあな。同じものかは俺自身もわからない。ただ、色や粘度はほとんど一緒だな」


 千弦はまだ目の前に翳した掌を凝視していた。


「……そのようだな」


 千弦はそこでようやく納得したのか、胸ポケットから取り出したハンカチで、血に染まった手を拭きながら言った。


「どうやら信じるしかないようだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ