第三十三話 体感
来たねえ、久々に。このヒリヒリする感触が懐かしい。
ヤクザといえど素手なら俺の敵じゃない。だが拳銃となれば話は別だ。異世界に拳銃はなかった。だから拳銃と対峙するのは、俺も初めての経験だ。俺の記憶が確かならば、拳銃から放たれる銃弾の速度は相当なものだったはず。もっとも、その記憶とやらも映画やドラマなどでのことだ。実際に俺自身が体感したわけじゃない。だから正直、銃弾の速度がどの程度なのかはわからない。ソルスには先程、異世界におけるAクラスの攻撃魔法と同等だと言ったが、それもなんとなくの話だ。もしかすると、それ以上かもしれない。
だから、楽しみだ。この生死を賭けた、ヒリつくような感覚が心地いい。
俺は口元をクイッと上げて笑みを浮かべるなり、ヤクザたちを睥睨した。
ヤクザたちは、ほぼ横一列に並んで銃を構えている。
「どっからでも撃ってくれていいぜ」
俺の言葉を合図のように、ヤクザたちが自動式拳銃の撃鉄を一斉に引いた。闇夜に冷徹な金属音が染み渡る。
ヤクザたちが拳銃の照準を少し下げた。どうやら俺の足を狙っているようだ。それも当然、柴崎から殺すなと厳命されているのだから、上半身は狙えないだろう。
しかしこれは、俺にとって好都合だ。なにせ銃で撃たれるのは初めてだからな。まずはどの程度の速度なのかを体感したい。その意味では、身体を狙われるよりも足の方が躱しやすい。
俺は意識を集中させ、その時を待った。
ひとりのヤクザが突然口を大きく開け、大音声の咆哮を上げる。
「喰らえやっ!」
同時にその男の指が、引き金を引くのが見えた。
俺は拳銃の銃口から放たれる銃弾を見極めようと、極限まで意識を集中させた。
それにより、目に入るすべてのものがスローモーションとなった。
銃口の奥で、火花が散った。
俺は全身の筋肉を爆発的に躍動させて回避行動に出る。
銃口から射出された金色の銃弾が闇夜を切り裂き、俺に向かって迫り来る。
速い!だが!
俺の動きの方が速かった。銃弾は俺の足には当たらず、後方の砂浜にわずかな音を立てて砂を巻き上げ、消えてなくなった。
よし!これなら問題なくいける。
初弾が外れたのを見て取ったヤクザたちが、それぞれが引き金にかける指に力を込めて次々に引いた。
いくつもの銃口から、火花と共に銃弾が放たれる。
だが俺はそれらを、すべて俊敏な動きでもって躱していった。
俺の目測は正しかった。銃弾の速度は、異世界におけるAクラスの攻撃魔法と同じか、少し劣るくらいだった。
これならば容易というほどではないが、充分に躱せる。
俺は、ヤクザたちが闇夜に物騒な音を鳴り響かせながら放つ大量の銃弾を、次から次へと軽やかなステップワークで躱し続けた。
するとついに、ヤクザたちの弾が尽きた。カチャッカチャッと乾いた金属音が寂しげに響く。
ヤクザたちは信じられないものを見たという顔つきで、俺を唖然と見ていた。




