第三十一話 第三種戦闘態勢
そこへヤクザたちが血相を変えて殺到する。
さすがは本職、街のチンピラ風情とはわけが違って、中々に迫力がある。だが所詮は人間。魔王とやりあった俺の敵ではない。
「死ねやコラッ!」
先頭のヤクザが、物騒な物言いで殴りかかってきた。
おいおい、殺すなって言われたんじゃなかったっけ。まあいいや。
俺は男が右腕を大きく後ろに振りかぶることで顔を前に突き出しているのを見定めるなり、右手の甲で素早くその顔を払った。
「びゅっ!」
顔面がひしゃげ、聞いたこともない面白い声を上げつつ、男が吹き飛んだ。
まずは一人。だがヤクザたちはひるむことなく、次々に襲いかかってくる。
平手打ちだけではちょっときついな。
俺はそう思い、ついにそこで第三種臨戦態勢に入った。これはまあ一番下の、ちょっとした警戒態勢のことだ。
さっと少しばかり腰を落とし、集中して敵を見定める。
左の男が両手を広げて身体ごと飛び込んでくるのがスローモーションのように見える。
こいつ、タックルして俺を押し倒すつもりだな。
そう読んだ俺は左の拳を軽く握り込み、左脚を前に一歩踏み出した。
と同時に左手を下から上に振り上げるようにして、タックルを仕掛ける男の顎を強く殴りつけた。
インパクトの瞬間、強く拳を握り込むことでダメージは倍増する。
案の定、男の歯と歯が強く当たって砕け散る音と共に、男が半回転しながら後方に勢いよく吹き飛び、後ろから迫ってきた男たちもろとも地面に倒れ込んだ。
だがすぐに右から別の男が鬼の形相で飛び込んでくる。
俺はすかさず男の顔面に、右の拳でカウンターを当てる。
破裂音が炸裂し、次いでぐしゃっと骨が砕ける音を立てるなり、男はやはり後ろにいた数人の男たちと共に吹き飛んだ。
だがヤクザたちの突進は止まらない。
俺はそれらの攻撃を次々に軽いフットワークで躱しつつ、左右のジャブを的確に繰り出して撃退していった。
ざっと半数の十人ばかりを地面に転がした頃、ついにヤクザたちの突進が止まった。
柴崎が怒声を張り上げたのだ。
「おい!何をしている!そいつを取り囲んじまえ!」
ようやくガムシャラな突進では俺を仕留められないことに気付いたか。ヤクザたちは柴崎の号令に従い、間合いを取って俺を取り囲もうとする。
いいぞ、別に構わないから好きにするといい。
俺は余裕の笑みを浮かべつつ、ヤクザたちが陣形を整えるのを待ってやった。
すると、俺を取り囲む陣形を整えた途端、正面のヤクザが一歩前に足を踏み出した。
それに呼応するように他のヤクザたちも前に一歩足を出す。
次いでもう一歩、十人ばかりのヤクザが一斉に前に出て、俺を囲む輪を狭めていく。
いいねえ。いっせーのせで俺に襲いかかろうって寸法だな。
俺は軽く首を左右に倒し、こきこきと音を鳴らした。
準備は万端。いつでもかかってこい。
俺はさらに口元の笑みを深めた。
と、正面のヤクザが静かに腰を落とした。
周囲のヤクザたちもそれに倣って腰を落とす。
それを見ても、俺のニヤニヤは止まらない。楽しくてしょうがないからだ。思えば魔王との戦いは三か月も前のことだ。それ以来、戦いはしていない。つい昨日、チンピラたちと小競り合いはしたものの、さすがに相手が弱すぎた。準備運動にもなりはしなかった。正直、このヤクザたちも大した相手ではない。だがチンピラよりはマシだ。
俺はさらにニヤニヤと笑い続け、ヤクザたちがしびれを切らすのを今か今かと待ち望んだ。
するとついに正面のヤクザが咆哮を上げた。
「いくぞっ!てめえら!」




