第三十話 一触即発
俺は横のソルスに向かって言った。
「来栖を守ってくれ」
ソルスはすかさず唇をめくり上げて歯をむき出しにし、死んだ魚のような目をして、俺を見た。
俺はそのあまりにも嫌そうな顔を見て舌打ちをすると、さらに言った。
「いいから守れよ。絶対に殺させるなよ」
ソルスが心底嫌そうな顔のまま返す。
「守るのは趣味じゃない。俺、死神だし」
「うるさい。お前の趣味なんかどうだっていい。とにかく守れ。わかったな」
俺の念押しに、ソルスはなにか得体のしれないエクトプラズムを口の中から吐き出すかのようにうめき声を上げた。
「がはあああっ……」
「がはあって何だよ。ちゃんと返事しろや」
「ばあぁぁ……」
ちっ、この野郎。
「おい、次はちゃんとした言葉で返事しろ。でないと契約発動するぞ」
この俺の脅しに、ソルスは恨めしそうな顔をしつつも、ようやく意味のある言葉を発した。
「……わーがっだあ……」
「まったく気持ちのこもっていない棒読みの返事をどうもありがとう」
こいつにやる気があろうがなかろうが関係ない。とにかく承知をした以上、来栖はもう問題ない。あ、いやひとつあった。
「そうそう、こいつらたぶん拳銃を持っているから気をつけろよ」
俺の忠告に、ソルスが興味津々で聞き返して来た。
「ケンジュウとは?」
「まあなんだ、魔法みたいなもんだ。いわゆる飛び道具だな」
「攻撃魔法と同じようなものか?」
「まあそうだ。あいつらが懐から取り出す金属製の武器から弾が放たれるんだ。速度的にはAクラスの攻撃魔法と同じくらいだ。一直線に飛んでくるから気をつけろよ」
するとソルスの目が爛々と輝き出した。
「ほう、それは楽しみだな」
やる気になってくれてよかったよ。だがこれで来栖の心配は、一億パーセント完全になくなった。
俺は意を決してヤクザたちに向き直る。
「よし、相手になってやる。どっからでもいいぜ。かかってこいよ」
月明かりの元、四度の怒声が四方八方から沸き上がる。
柴崎が、千弦に対して言う。
「若頭、やっちまっていいですね?さすがにこれだけコケにされたら、黙ってられません」
黙ってねえじゃん。俺が心の中でツッコミを入れるていると、千弦が鋭い眼差しでこくりとうなずいた。
「いいだろう。だが、気をつけろ。あいつらのあの自信は何か裏がありそうだ」
「そいつはさすがに買いかぶりすぎってもんですよ。あいつらは、ただ単に頭がイカレているだけの連中ですって」
千弦は相変わらず俺たちを計るような目つきで見つめながら、低く抑えた声で言った。
「だといいがな」
しかし柴崎は気にせず、後ろを振り返って大音声で号令を下した。
「おい、てめえら!若頭のお許しが出た!殺さねえ程度にぶちのめせ!」
柴崎の怒号に、組員たちが呼応した。
凄まじい怒声を上げながら、俺たちに向かって殺到する。
「おい、来栖を連れて下がれ」
「拳銃を見たいな」
ソルスは緊張感の欠片もない言い草をしつつも、来栖のお腹周りを片手で小脇に抱えて持ち上げた。
来栖が持ち上げられた振動で、叫び声を上げる。
俺はそれを無視して、ソルスに言う。
「そのうち出すさ。楽しみに待ってな」
「わかった。楽しみにしておこう」
ソルスはそう言い残すと、来栖の上げる叫びとともに、軽やかな足取りで素直にサッサと後ろに下がっていった。




