第二十二話 ポツンと一軒家
十分くらい畑の中を歩いていると、ソルスが少し先にポツンと建つ一軒家を指さしながら唐突に言った。
「あの家の中に入ったようだ」
俺は急なことに驚いた。
「あそこに来栖京介が?」
ソルスは無言でうなずいた。
俺は驚き、そのポツンと建つ一軒家を眺めた。
近づくにつれ、なるほどそういうことか、と俺は納得した。
その一軒家は周囲を塀で囲ってあり、そこにたくさんの落書きが描かれていたからだ。
その文言は「人殺し」「死んじまえ」「犬畜生」などである。
俺は一軒家の門前にたどり着くなり、掛けられた表札を見た。
そこには太い文字でしっかりと『来栖』と書いてあった。
「表札が出ている」
「そのようだな」
「来栖って書いてある」
「そのようだな」
「お前、読めるのか」
「そのようだな」
「おい、答えに横着するなよ。なんでお前が日本語を読めるんだよ」
「死神だからだ」
それ言っとけば、何でも済むと思うなよ。
だが、確かに人智を越えた存在ではある。そういうこともあるのかもしれない。
ならば話を元に戻そう。
「来栖って書いてあるし、壁の落書きを見れば、ほぼ間違いなくここは来栖京介の実家だ」
「そうだな」
「てことは、たぶん犯行後に一旦ここへ立ち寄り、その後何処かに逃げたはずだ。でなければ警察にとっくに捕まっているだろうからな」
「そうだな」
「そうだなって、お前」
「俺は何もここにいるとは言っていない。この家の中に入ったと言っただけだ」
ああそうかい。ああ言えばこう言う。腹の立つ死神だ。
「てことは逆戻りか」
だがソルスは俺の予想とは異なる回答をした。
「いや、まっすぐだ」
俺は眉間にしわを寄せた。
「まっすぐ?どういう意味だ」
「この道をまっすぐという意味だ。一旦この家に立ち寄ったのはお前の想像通りだ。だがその後は来た道を戻ったのではなく、この先に向かって進んでいるようだ」
駅に戻ったのではない?この先に何がある?
とその時、俺は何処からか視られていると感じた。その方角は、来栖の実家と思われる家の中からであった。
俺は気取られぬように家から顔を背けつつも、視線だけをゆっくりと家の中に向けた。
何処だ?どのあたりから視線を感じている。
玄関ではない。もっと右だ。視線を右にゆっくりと向ける。それに上だ。つまり二階の部屋からだ。
と、二階右側の部屋の窓が目に入った。窓の向こうは黒い厚手のカーテンで見えない。
だがカーテンには、わずかに隙間があった。
その隙間から、光る眼が覗いていた。
来栖京介ではないはずだ。さすがに警察も馬鹿ではない。実家に隠れ住めるわけがない。
ならばこの視線の持ち主は――
俺は意を決してその光る眼に顔を向け、真正面からしっかりと視線を合わせた。




