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第二十一話 唐舘駅

「起きろ」


 ソルスの鋭い声が聞こえた。俺は寝ぼけていたため、一瞬何のことやらわからなかったが、すぐに今の状況を思い起こした。


「残留思念か?」


 ソルスがすかさず答える。


「ここで降りている」


 俺は咄嗟に腰を浮かせた。


「降りよう」


 そう言ってすかさず、開いているドアから飛び降りた。


 見たことのない景色だ。


 俺はわずかに上を見上げて、掲示板を見た。


 ――唐舘(からたち)駅――


 聞いたことがない。傍らのソルスに尋ねる。


「電車に乗ってからどれくらい経った?」


「一時間半ほどだな」


 どうやら俺は結構ぐっすりと寝ていたってわけだ。どうりで寝ざめがいい。たっぷり寝たからだ。


「残留思念を追ってくれ」


 言われたソルスが、すぐさま歩き出す。


 俺はその後を追いつつ、辺りの景色を眺めた。


 かなりのどかな景色だ。ちらほらと民家も建っているが、駅前だというのにずっと畑が広がっている。


 電車に乗って一時間半だからな。田舎の風景が広がっているのも当然か。


 先を行くソルスはスタスタと歩いていたものの、ホームに隣接している改札口でピタと立ち止まった。


「どうした?」


「差し込み口がない」


「ああ、ここは無人駅みたいだから、素通りしていいぞ」


「そうなのか?」


 ソルスはそう言って、怪訝そうな顔をした。


「ああ、大丈夫だ」


 俺はそれだけ言ってソルスを追い越し、改札口を出た。


 ソルスは軽く首をひねったものの、無言であとについてきた。


 こじんまりとした駅舎を出ると、駅前とは思えないくらい何もない。


 俺は立ち止まり、ソルスに先を行かせようと声をかけた。


「残留思念を追ってくれ」


 ソルスは怪訝そうな顔のまま歩き出し、しばらくしてから口を開いた。


「それはいいが、何故この駅は無人なのだ?それで成り立つのか?」


 どうやらこいつはそういうことも気になるらしい。俺は仕方なく説明した。


「一応成り立っているらしい。都市部では改札で切符やらをチェックして料金を確実に取るんだけど、田舎はそうもいかないんだよ」


「何故だ」


「電車の利用者が少ないんだ。だから駅員を配置しておくと、その人件費で赤字になってしまう。だから無人なんだ」


「だがそれならタダで乗り放題じゃないか」


 俺は肩をすくめた。


「そうだな。実際今の俺たちがそうだしな。だが大抵は田舎から都市部へ移動するから、ちゃんと切符を買っていないと都市部の駅で不正がバレるんだよ。それに確か、車内で抜き打ちによる切符の確認をしたりするんじゃなかったかな」


「ふうむ。では運がよければ、やはりタダ乗りが可能というわけか」


「そういうことだ」


「お前たち人間の世界には法というものがあって、それを破れば犯罪者になるのだよな。こちらの世界にもそれはあるのだろう?」


「あるよ」


「なら、このタダ乗りはどうなのだ」


 俺は思わず肩をすくめた。


「残念ながら、立派な犯罪だ」


「ふむ、では俺たちは犯罪者か」


 一応一駅分は買ったものの、一時間半も乗っていたわけだから、かなりのキセルだ。


「まあな。だが仕方がないだろう。行先が何処かわからなかったわけだしな」


 俺は自分自身への言い訳のように、にやりと笑っているソルスに言った。


「ふむ、それは面白い。しかし、それにしてもそれで成り立つというのが、さらに面白い」


 ああそうかい。まあ、なんでもいいよ。納得してくれたのなら。


 ソルスはぶつぶつと呟きながらも、歩き始めた。


「残留思念はちゃんと追ってくれよな?」


 ソルスはまだぶつぶつと呟いていたものの、コクンと無言でうなずいた。


 うん。追っているならいいよ。たとえいつまでもぶつぶつ言い続けたとしても。

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