第二十話 初めての電車
俺たちは残留思念を追って階段を昇った。この先には電車のホームがある。
俺は階段を昇り切るなり、掲示板を見る。
なんかわかりづらい……四十年前に比べて複雑怪奇になっている。
だがなんとか進行方向を把握し、目指す進路が何処であるかを理解した。
「下氷方面のようだな」
ホームを見ると、すでに電車が止まっている。
俺は、電車を見て不可思議な顔を浮かべているソルスをうながした。
「あの電車に乗るぞ」
「あれが電車というものか。ずいぶんと長いな」
「そうだな。車に比べると一両でもかなり大きいし、それが何両も連結しているからだいぶ長い」
「あれが一斉に動くのか」
「そうだ。あの大きい箱が幾つも連なって滑るように動く。見ものだぞ」
「それは楽しみだ」
ソルスは八両編成の長く連なる電車を興味深そうに先頭から最後尾まで何度も視線を往復させて観察すると、ようやく満足したのか俺の後に続いて乗り込んだ。
そして先に、奥の長椅子に座った俺の横に腰かけた。
どうやらこちらの方面は、市の中心から外れていくらしい。車内はかなりすいていて、俺たち以外には四人しか乗っていなかった。
だがホームには、相変わらずソルス目当ての十数人もの女性たちが列をなして、車内を覗き込んでいた。
さすがに邪魔くさいな。いや、別に邪魔はしていないかもしれないが、正直目障りだ。
と、発車のベルが鳴った。
女性たちはさも残念そうな顔を浮かべている。だが俺としては助かる。これであの目障りな女性たちとおさらばだ。
傍らのソルスを見ると、心なしかウキウキとしている。だがその理由は女性たちの視線から逃れられるからではないようだ。
「ついに動くのか?」
ソルスが目を輝かせて言った。
「ああ」
俺が素っ気なく応じた次の瞬間、電車のドアが閉まり、次いでゆっくりと動き出した。
「おお……」
ソルスが驚いたように声を上げた。
そしてすぐに横を向いて隣の車両との連結部分を凝視する。
「な?一緒に動いているだろう?」
「うむ。面白いな」
ソルスはタクシーに乗った時よりもかなり興奮しているようだ。電車がデカいからか?かなり不思議なものを見るように左右両隣の車両を見比べたり、外の景色との速度差に興味津々な様子であった。
「先程のタクシーと比べて最初はずいぶんとゆっくりだったが、今はだいぶ速いな」
「そうだな。電車はデカくて長いからな。重さで最初はスピードが出ないんだ。だが線路は比較的まっすぐだし、信号もないから、走っているうちにタクシーよりもかなりスピードは速くなるし、目的地に着くのもだいぶ早い」
「ふむ、便利な乗り物だな」
「長距離の場合は特にな。それよりも残留思念は追えているのか?」
「問題ない。見えている」
それならよかった。しばらくはこのまま電車に乗っていればよさそうだ。
俺は久しぶりに乗った電車の心地よい振動に身を任せつつ、まぶたをゆっくりと閉じた。




