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5話

数日間、眠ったり、吐いたり、苦しんだりを繰り返していた。


 だが、その度に、あの老婆——シェナは、根気強く傍にいてくれた。


 煎じた薬草を飲ませ、体を拭き、冷えた手足を火鉢で温め、何度も汚れた寝具を洗ってくれた。文句一つ言わず、時折口ずさむような優しい声で、知らない童謡を口ずさんでいた。


 不思議な人だった。何の見返りもなく、こんな獣人をここまで看病してくれる人間など、今まで出会ったことがない。


 気がつけば、歩けるまでに回復していた。


 だけど。


 ——心は、何かが抜け落ちたようだった。


 ナナを助けられなかったこと。家族を殺した騎士に似た男にであったこと。船の上で起きたすべてのことが、霧の奥でこだましているようで、現実感がなかった。


 何も食べたくなかった。目を合わせたくなかった。呼吸をすることさえ、億劫だった。


「ちょっと、散歩でもどう?」


 朝、シェナが小屋のドアを開け、白い日差しの中で笑った。


「市場に行くの。塩と干し果物と、ちょっとした薬草もね。……ついでに、あの騎士様のところにも寄って、謝っておいで」


「……別に、会いたくない」


「うん、でも、あの人はあなたに害を加えようとはしてなかったでしょう。何かに怯えてるように見えたのよ」


 その言葉に、答えられなかった。


 けれども、シェナが外出の支度をはじめる音を聞きながら、ふと、あの騎士の姿を思い出した。黒く、見たものを威圧させるような大きな鎧、派手過ぎず均整の取れた兜。背中の両手で持つようなよく手入れの行き届いた大剣(ハルバード)


あの男、ギルとは似てもにつかない姿だ。謝りにいかねばいけないと、頭の隅では思う。


でも、体は動かない。布団の上で丸くなり、膝を抱えていた。


 ——変わりたいって思ったんでしょ?

 その気持ちがあるなら。自分の船は、自分で出さなきゃ。自由に行ける海なんて、待ってたって来ない。まだ生きてるんだよ、ルミア。


 手元の石に目をやると、遠い海の上で笑った、ナナの声がよみがえる。胸の奥に、冷え切ったはずの心臓に、かすかな火が再び灯った気がした。


 気がつけば、体が動いていた。


 ドアを開けると、白い光が一気に流れ込んだ。

 外では、シェナがしゃがみ込み、白く清らかな花を摘んでいた。





ーーー


 



 数日ぶりの外気は、ほんのりと湿っていて、草と土の匂いがした。


シェナの家は、小高い丘の上にあった。木々に囲まれた質素な小屋で、軒先に吊るされた薬草が風に揺れていた。麓にはノルムの街が見え、さらにその向こう、青く広がる海が視界いっぱいに広がっていた。

 

朝霧が葉を濡らし、雫がぽとりと壺の蓋を打つたび、涼しげな音が響いた。まるで目覚ましのように、森の音が一日の始まりを告げる。


 街へと続く細い山道は、ところどころ苔むした石段が埋もれており、足を踏みしめるたびにしっとりとした土の感触が靴底に伝わってくる。

 

 道の脇に、小さな石造りの祠がぽつんと佇んでいた。屋根は木の皮で葺かれ、雨風に削られた石像が中に祀られている。像は人の姿をしており、両手で小剣を握って胸の前に構えていた。しかし顔はほとんど風化しており、目や口の輪郭は失われ、ただ凛とした立ち姿だけが残っている。


足を止め、その像をじっと見つめた。

「……これ、何?」

隣を歩いていたシェナが振り返り、短く笑う。

 

「ずっと昔、世界を支配した悪魔を討った勇者様だよ。この祠、私が来たときにはあまりにも傷んでてね……見ていられなくて、作り直したの」


「……ふーん」


こういうのは村にもあった。

“村を見守ってくれてる”――あいつが、ギルが教えてくれた。

……思い出したくもない。




 ーーー




ノルムに着いた。


 ノルムは、この地方ー センクリーベ地方では一番大きな港町だとシェナは教えてくれた。そのわりに

大きな道は広場に続く一本だけで、古びた木造の建物が軒を連ね、入り組んだ細道と平屋の屋根が、灰色の地面と継ぎ接ぎのように重なっていた。昨日の雨に洗われた石畳はどこか 寂しく、海風が潮の匂いを運んでくる。

 

しかし朝市となれば、街の雰囲気は一変した。


 港で水揚げされたばかりの魚や蟹、山から採れたばかりの薬草や茸、肉が屋台に並び、街はにわかに活気づいていた。

 羊毛や乾物を売る農家の女たちがざっくばらんに値段を張り合い、威勢のいい声があちこちで響いている。街を流れる細い水路の上には小さな橋が幾つも架かり、その上を荷車や行商人が忙しなく行き交っていた。



何気なく人の流れを見ていたらふと、視線が一点に留まる。

 青いマントを羽織った男が、革鎧の手入れをしていた。背中には長剣。街角の掲示板には、羊皮紙の依頼書がびっしりと貼られている。


 冒険者――。


 その雰囲気は、どこか空気が違って見えた。殺気立ってはいないが、常に気配を読む者の眼だった。


「この街にはね、ダンジョンがあるの」

 橋を渡っているとき、シェナが何気なく口にした。


「ダンジョン……」


 その言葉に、思わず思い出す。迷宮ダンジョン

 突然地上に現れた魔物の巣窟。聖海教の神官が昔、村に来ては「神の怒り」だとか「汚れた土地」だとか、そんな説教をしていったのを思い出す。それに、冒険者に昔、ダンジョンで肉壁役にされたことがある。そっちのほうがトラウマだった。


「ノルムの近くにね、竜骨山っていう珍しい鉱石が採れる場所があったのよ。他にも東に霞灰の廃坑、西に赤潮の浜があってね。最近はその二つに冒険者が集中しているらしいのよ。あなたも、街の広場に冒険者ギルドがあるから気晴らしに行ってみるといいわ。あっ、そうだ。広場は夕方になると屋台が立ち並・・・、。」

 

シェナは水路を覗き込みながら続ける。

 小魚が跳ね、薄い影が水の底に揺れていた。


「ノルムは、昔はもっと活気があったんだけどねぇ」とシェナが笑う。


「でも、最近は……ほら、あの“静尾の窟”がおとなしくてねぇ」


 言われて、耳をぴくりと動かした。


「静尾の窟……?」


「さっき言った町の北の断崖にある古い魔窟よ。……まあ、今は“静尾”って名前の通り、本当に静か場所なのよ。昔より魔物がぜんぜん出てこないから。昔は一番冒険者たちでにぎわってたんだけどね、最近はめっきり行く人がいなくなったわ」

「ふーん」





ーーー




そんなこんなで、シェラと街で一番大きな広場 《潮風の棚(シェルブランシェ)》市場にやってきた。

 市場は、予想以上に活気があった。

 干された魚が軒先に吊るされ、香ばしい香りが風に乗る。露店も出ていて、商人たちの威勢のいい声が響いていた。


「おはようございます。バラスさん。」


「おお、シェナ!おはよう。今日は活きのいいトゲツキガニが入ったんだ。ちょっと見てってくれよ。!」

 

「まあ、おいしそう。一匹くださいな」

 

蟹だ。両手で持つほどのとげとげしくバカデカい蟹だ。私、蟹の味はあんまり好きじゃない。


「おはようございます。グラベルさん。」


「おはよう、シェナさん。今日、竜骨山で、雪鹿が捕れたんだ。1つどうだい?」

 

「あら、きれいな赤色ねえ~。1つください。」


蟹と鹿、組み合わせ最悪だ。何の料理を作るんだよ。


店主と話すシェラの隣で聞いていたが、やっぱり聞きなれない食材ばかりだ。やっぱりここは私がいた地域ではないのだろう。

 

そう思った瞬間、景色がほんの少しだけ遠ざかった気がした。

それぞれの屋台の活気も、すれ違う人々の会話も、どこか自分とは隔たっているように感じる。音が、輪郭を失って、膜越しに響くような。

 

世界地図なんてものがあれば、自分のいた場所と今の場所を比べられるのだろう。

でも、あれは高かったはずだ。

貴族の家の書斎の棚に並べられ、手を触れるだけでも怒鳴られるような……そんなものだったと思う。


そもそも、私は一体どこから来たのか。


村の名前が思い出せない。思い出そうとすると、頭痛がする。海に投げ出されたときに、頭を打ったのかもしれない。

地図を見ても、もう何も見つからないかもしれない。もう帰る場所なんてないのに。


シェナに手を引かれながら、私は大きな買い物袋を持って歩いた。いつのまにか袋はずっしりと重く、乾いた草や瓶のような硬い感触が腕に食い込む。奴隷として当然のことだ。シェナに何も持たせられない。持たせちゃいけない。

それなのに――



前を歩いていたシェナが、ふと立ち止まって振り返る。軽く指先を動かしながら、小さな声で呟いた。


囀り鳴け、黒と白(イービエフ・ミゼーラ)


その瞬間、どこからともなく羽ばたく音が響いた。見上げると、空から二羽のカラスが舞い降りてくる。一羽は艶やかな黒、一羽は滑るように白い羽根をまとっていた。


 二羽はシェナの肩と腕に止まり、彼女の指示を待っているように、首をかしげて見上げた。

「ルミア、こっちの袋、少し持たせて?」


 シェナがそう言って手を差し出したとき、私はとっさに身を引いてしまった。


「……だめ。わたしが持つ」


「でも、重そうだよ。無理をすることはない」


 声は柔らかいのに、それが逆に不安だった。何かを試されている気がした。


「私は、奴隷だから!役立たずだから!!みんなを、ナナを、助けられなかった!! このぐらいでしか、私の存在している意味なんかない!」


 口にしてから、自分でもその言葉にぞっとした。


 それを聞いたシェナは、ほんの一瞬だけ、悲しそうに目を伏せた。


 けれど次の瞬間には、いつも通りの微笑みに戻って、そっと私を抱きしめた。


「私は、あなたを奴隷だと思って連れてきたんじゃないのよ。……大切な子だと思って、ここに一緒にいるだけなの」


 そう言いながら、シェナは私の頭を優しくなでた。黒いカラスが私を見てほほ笑む。もう一羽の白いカラスも、それに合わせるように軽く翼を震わせた。


「罪滅ぼしなんて、そんな若いときに考えちゃだめよ。今を生きなさい」


 シェナは私の目をまっすぐ見て、優しく言葉を続ける。


 その言葉に、どう返せばいいのか分からなかった。信じていいのだろうか。またナナみたいに私の前からいなくならないのかな。


 私はそっと袋の取っ手を緩めた。カラスたちが、器用に荷物をつかみ、ふわりと飛び上がる。落としもせず、左右の翼で上手にバランスを取りながら、軽やかに空を滑っていく。


「さあ、行きましょうか。ルミア」


シェラの手が優しく包み込む。


「この町、あなたはきっと気に入ると思うわ。あなたがいた場所とは全然違うかもしれないけど。」

「……うん!」



袋の中の食材たちが、こすれ合って乾いた音を立てた。



ーーー

 


二人は屋台が立ち並ぶ広場を歩く。

広場の一角の大きな石像の前では、大道芸人が軽やかにジャグリングをしていた。赤と金の布をまとい、陽射しを浴びてキラキラと光る球を三つ、四つと宙に放っている。子供たちが歓声を上げ、大人たちも足を止めて見入っていた。芸人はにこやかに一礼すると、次は帽子の中から鳩を取り出して見せ、再び拍手が起こる。



「…ん?」


魚の匂いばかりの通りで、不意に甘いような、香ばしいような香りが鼻先をくすぐった。


広場の一角、煤けた布屋根の下で、中年の恰幅のいい女性が黙々と何かをひっくり返している。

黒い石板の上で、丸い団子がこんがりと焼けていた。端が少し焦げ、香ばしい油がじゅうじゅうと染み出す。


「…これ、なに?」


「あら、嬢ちゃん。『貝餅焼き』さ。熱いから気をつけなよ。中は貝が入ってるよ」


「これ餅に貝が入ってるの…?」


「あんた、よそから来たんか。はい、ひとつどうだい」


シェナが銅貨を3枚取り出して、店主に渡す。

見た目は、鳥もちだ。虫を兄と妹と取っていた時に使っていたあれだ。


かぷ、と一口かじると、ぷしゅっと水がはじける音がした。

もちもちとした皮の中から、熱せられた小さな二枚貝が丸ごと顔を出す。

磯の匂い。肝のほろ苦さ。餅の甘みが意外なほど合っている。


「…あつっ…、でも…うま……」


「うまいだろう、運が良ければそいつ鳴くよ」


「な、鳴…く?」


ぐちっ、ブブちぶっち。プププちちち、ごっごっごっごブリュシャチッチッチッチ‥‥‥‥‥ボっフゥーン。


口から食べ物とは思わえない音が出てきた。


「ハハハハハ~。あんたのは盛大に鳴いたね。きっといいことがあるさ!」



屋台の女将が手を叩いて笑うと、近くの通りからくぐもった声がした。


「おい、そこの猫獣人(フェリノス)の嬢ちゃん。ちょっといいか」


振り返ると、槍を脇に抱えた衛兵が屋台の陰に立っていた。

革鎧に粗削りな鉄の篭手。20代半ばの、片方は無精髭を生やし、眠たげな目でこちらを見ている。


「おまえ、ミャルグだな?」


無精髭の衛兵がそう言って、口元をゆがめた。


「……え?」


思わず背筋を伸ばすと、屋台の女将が身を乗り出した。


「おやまあ……誰かと思えば、ガル坊じゃないか!」


無精髭の衛兵――ガル坊と呼ばれた男は、わずかに目を細めて苦笑した。

「ああ?、‥‥っ!、あんたか・・ 坊はやめろよ、女将。もう子どもじゃねえ」


「ふふん、あんたが帝都に出てから何年経つと思ってるんだい。立派になったと思ったら、またノルムで衛兵かい?」


「衛兵、か…………………まあ、似たようなもんだ」

ガルドは言葉を濁し、槍の石突を地面に軽く打った。


女将は鼻を鳴らす。

「まったく、勝手に帝都の騎士学校に行ったきり戻らないと思ったら。あたしもあんたの親も心配してたんだよ――それがまた街中で会うなんて‥‥。」


ガルドはきゅっと肩をすくめた。



「……あんた全然変わんねえな、そういうとこ。俺が探してるのは“ミャルグ”だ」


「ミャルグ……?」

女将は首をかしげる。


「2か月前に起きた、帝都での大量失踪事件を知っているか?。今日の朝刊にもあっただろうよ。三百人前後が行方知れずになったやつだ。あの事件を引き起こしたのは、帝国に仇なす「鵺骸」の連中だと俺らは考えてんの。その首謀者は、ミャルグていう、白色の毛並みの獣人で、首の後ろにあざがあるんだ。」

ガルドが短く補足する


「特に最近じゃ、商隊を襲って子どもまでさらうって噂だ。見かけたら通報しろ、と内王府からもお達しが出てる」

ガルドの口調は淡々としていたが、その奥には殺気めいた硬さがあった。


「まったく……坊のそういうところ、昔から変わらないねえ。疑う前に腹ごしらえでもしてきな。あんた、顔色悪いよ」


「……心配してくれるのはありがてえが、俺の腹の心配より、この町の平穏を心配してくれ」


そう言い捨て、ガルドは再びルミアに視線を向けた――。

その眼差しは、眠たげに見えて底の読めない色をしていた。

射抜かれるような感覚に、ルミアは思わず胸の奥で息を詰める。


「……な、なに」


小さく声を漏らすと、ガルドは鼻で笑った。


「いや……お前、やけに怯えた目をしてるな。白猫族ってだけで人違いなら悪いが……最近は疑ってかかるのが仕事でな。違うんなら、すまねえな。嬢ちゃん」


そう言って槍を肩に担ぎ直すと、群衆の間を抜けていった。

背中が遠ざかるにつれ、周囲のざわめきがゆっくりと戻ってくる。


しばらくその背を見送っていたが、ようやく安堵の息を吐き出る。

背中に冷たい汗が滲んでいることに気づき、袖でそっと拭う。


シェナはそんな私の様子を横目で見ながら、少し声を落としてつぶやいた。


「……あの人たち、詰め所の衛兵ね。こうして町を見回ってるのよ」






 


ーーー




風が強くなってきた午後、市場を出て街の衛兵の詰め所に向かおうとしたときのことだった。


 角を曲がった先の石畳に、小さな影がしゃがみ込んでいた。ぐすぐすと鼻をすすりながら、擦りむいた足を抱えて泣いている、幼い子ども――。


「どうしたの?」


 そう言って駆け寄ったのはシェナだった。彼女はしゃがみ込み、子どもの顔を覗き込む。


「どこから来たの? お母さんは?」


「……わかんない……ころんで……あしが……」


 子どもは涙をこぼしながら、膝を差し出した。怯えた目をした男の子は、彼女の顔を見た瞬間、ふっと緊張を緩めたようだった。

 「あ……お婆ちゃん……シェナおばあちゃんだ……!」


 子どもは涙をにじませたまま笑った。


「うん。大丈夫。ちょっとだけチクっとするけど、我慢できる?」

傷口には小石が刺さり、血がにじんでいる。普通なら、布で巻くか水で洗うだけだろう。だが、シェナはすっと手をかざした。


彼女の手のひらに、淡い光がふわりと灯る。

 やわらかな風が吹き抜けたかと思うと、金色の魔法陣が宙に浮かび、傷口に重なる。次の瞬間、血が引き、皮膚が静かにふさがっていく。

 「すごい……ほんとに、いたくない……!」


 男の子が驚いたように目を見開き、ぱっと笑った。その姿に周囲の通行人たちも足を止める。     近くにいた通行人たちがそれを見て、「あの人がノルムの魔法使いの……」「やっぱりすごいな」などとひそひそ声を交わし始める。


「大丈夫。もう歩けるよ。ちゃんとお母さんに会えるからね。……迷子の時は、兵士さんに声かけてね?」


 優しい声。頭を撫でられた男の子は、安心したようにうなずいた。


ルミアは、少し離れた場所からその様子を見ていた。


 ――シェナは、みんなに知られてる。好かれてる。


 わかってはいた。最初に出会ったときから、彼女は自分とは正反対の存在だった。優しくて、明るくて、周囲に溶け込むことができる。


 だからといって、こんな気持ちになるのは、ちょっと違う。


 どうしてか、胸の奥がじくじくとした痛みに包まれる。小さな火種が、言葉もなく、心の中でくすぶる。



 シェナが子どもを立ち上がらせ、その手を軽く握るのを見て、視線を逸らした。

沈んだ視線で市場の方へ歩き出す。

 

やるせない思いを抱えたまま、気づけば小さくため息をついて、商店街の一角へと一人で足を向けていた。


「ありがとう、シェナさん!」「またねー!」

子どもが手を振って駆けていき、大人たちがシェナに軽く会釈していく。

 



 屋根が連なるその場所は、夕暮れの光を受けて少し赤みがかっていた。

角を曲がると、石壁の前にぽつりと露店が立っていた。


色とりどりのアクセサリーや香草袋、乾いた果実を封じた小瓶などが並んでいる。華やかさこそないが、丁寧に磨かれたそれらはどこか懐かしさを帯びていた。


 品物を並べていたのは、黒衣をまとった人だった。


 細身の体。肩までの髪を後ろに結い、銀縁の眼鏡越しにこちらを見ていた。



色々混ざっていて読みづらいですね。頑張ります。

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