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3話

――ドオォン……


 轟音が響いた。


 船が、浮かんだ。一瞬。そう錯覚するほどの衝撃。


 下から、“何か”が、船を掴んでいた。


 海が盛り上がる。波ではない。うねりでもない。もっと異質な、“普通ではない何か”が、海の底から這い上がってきている。


 叩きつける雨の中で船員たちが甲板で叫んだ。


「な、なんだ今のは!? 船が……沈む!?」

「おい! 見ろ、あっあれ!」

「な、なは!? !!」


 檻の中から、それを見た。

 ナナの血が染み込んだ甲板の、その下から――


 触手が這い上がってきた。


 黒々とした、ぬめるような肌。表面は滑らかで、見ているだけ悪寒がする。生臭い潮風の中、触手の表皮には無数の吸盤がびっしりと並び、血のような粘液を滴らせていた。





「おい、おまえら!今海に飛び込んでも死ぬだけだぞ!!クラーケンなら炎魔法に弱いはずだ。下がって魔法使いを囲め、陣形をとれ!」

 

サーベルを持った一際大きな男が声を挙げる。――的確な指示で、船員を励ます。

 叫び、走り、剣を抜く船員たち。

 魔法使いがその中央に立ち、両腕を広げて詠唱を始める。

 

「一気に決めるぞ!しっかり守れよ!!

 紅蓮の王よ、嵐を喰らいて怒りを焚べよ 炎奔流(フレアブレイズ)


 魔法陣から眩い巨大な炎が発生し、無数の触手へ向けて飛び、焼き払う。

 

 熱風と閃光が吹き荒れながら直撃――。


「やったか!?」

 

 煙を出しながら、船を掴んでいた触手の何本かは焼け落ちた。

 

熱いー

魔法が放たれた場所は結構離れているのに。ナナが燃える‥!


 

触手は健在だった。

 

「そんな……俺の最大火力なのに…」

 魔法使いはがくりと膝をつく。


ざぶん、と海の上で、巨大な存在が姿を現す。

 

クラーケンだった。タコのような、イカのような姿を持つ海の悪魔。八つの手足で、通りかかった船を奈落の水底に引きずり込むと昔おばあちゃんが読んでくれた絵本に描いてあった。

その話を聞いたとき、私は怖くて、夜に眠れなくなったことを兄に笑われたのを覚えている。だけど、兄は勘違いをしていたようだけどその話は別に怖くはなかった。

 似たような童話は何度も読んでたし、耐性はついていた。


目だ。

私が本当に怖かったのは、目が怖かった。あの黄色く、虚空のような双眼。初めて絵本でその目を見たとき、なにかを見透かされているようで怖かった。もう、克服したと思ったが”あの目”を見たとき、それは勘違いだと思った。


 その“頭部”の中央に――


 青白い光が、灯った。


「ッ、う……あ……っ」


 喉が震え、声が出なかった。

 あいつの目を見ると、くらくらする。声が出ない。呼吸すらうまくできない。

足が動かない。意識はあるのに、体が石のように硬直する。ナナの遺体に手を伸ばそうとしても、手足に力が入らない。


 檻の奥で、他の奴隷たちがうずくまり、嗚咽を漏らしていた。

 祈る者もいた。泣き叫ぶ者もいた。


 地獄の様相だ


 触手の先端が、船体を這う。船板が一瞬で裂け、帆柱が根元からへし折れた。

 そのとき、甲板でナナを殺した男が、叫びながら逃げ出そうとした。


「オォおっおおい、やめろ! ココこっちに来るなッ!!」


 別の船員が突き飛ばし、転んだ男が触手に飲み込まれる。

 ――バギュ。


まるで木の実を潰すような音がした。

骨と肉が混ざる鈍音が、甲板全体に響いた。肉が裂ける感触だけが海風に混じる。


「うわあああああああ!!!」

「やばい!! 沈むぞ!! 船を捨てろ!!」


 さっきまで意気揚々としていた船員たちは次々と海へ脱出船に飛び込む。だが、嵐の海に逃げ場などない。

 触手が、彼らを包み込む。


 「もう、終わりだ……」

力なく、檻の中で膝をつく。

 結局駄目だった。ここで、私は死ぬんだ。




 ――ドクン。


 何かが、沸き起こる気がした。


 恐怖ではない。怒りでもない。


 それは、ナナの声だった。


 《変わりたいって思ったんでしょ? その気持ちがあるなら。自分の船は、自分で出さなきゃ。自由に行ける海なんて、待ってたって来ない!!》


 耳の奥に焼きついたその言葉が、心臓を貫くように蘇る。

 涙が止まらないのに、身体の奥が燃えていた。


 動かなきゃ――

 船から、逃げなきゃ――


 檻の向こうの、海中に黒い触手がうごめく。

 檻の中で立ち上がる。ぐらりと視界が揺れる。

傾いた床が崩れ、檻の壁が裂けた。


天井が落ち、鉄柱が倒れる。あと一歩、動きが遅ければ押し潰されていた。


這うように通路を進み、砕けた階段を上った。

そこは――炎に包まれた甲板。


帆柱が燃え、黒煙が渦を巻いている。

空はまだ夜のはずなのに、まるで夕暮れのように赤黒い。


「――……っ!」


波に呑まれる悲鳴。クラーケンの触手が、それらを塵のように弾き飛ばす。



――ズシャッ!


巨大な一撃が船の中央を両断した。

甲板が傾き、足元が崩れる。


「――あっ!」


身体が宙に浮いた。


炎と破片の中、体が砕けた甲板ごと空を舞い――

そのまま、海へ。


――冷たい。


身体が沈む。


目を開けば、泡と血の混ざった濁流が、すべてを包み込んでいた。ナナの姿が海に沈む。胸元のペンダントの首飾りが淡く光る。

音も、声も、意識すらも、ゆっくりと底へ引きずり込まれていく


白い何かが近づいてくるのを見た気がした。


 

勢いだけで、書いてしまった。少しずつ修正していきます。

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