オルゴール親父の馬鹿野郎!!
小林奏介が八才の頃。それは突然起きた。
『ミュージシャンになる!』
父・弦蔵はそうメモに書き残し、蒸発した。
それまでの父は、奏介にアコギを片手に歌を聴かせてくれた。粗削りだが心を掻き立てる。そんな父の歌が好きだった。
それがまさかの裏切り。
母は働き女手一つで家計を支えるも、奏介が十五才の時に身体を壊し入院した。
奏介は家族を捨てた身勝手な父を深く恨んだ。
――それから奏介はなんとか高校に進学した。
「奏ちゃんお疲れ、今日も客が沸いてたわね! これは世界狙えるわよ!」
軽音部の二年生の先輩、後藤遥の熱心なスカウトにより、奏介は入部を決意した。そして遥がボーカルを務めるバンドのギタリストとして、放課後はライブハウスの舞台に立つようになった。
「そんな志はないっすよ。もっぱら趣味なんで」
部活の事は母には秘密にしていた。『息子まで父のように育ってしまったら』と、不安にさせかねないからだ。そのせいか奏介はどこか、音楽に熱くなれないでいた。
ライブ後、奏介は遥を含む先輩達と、贔屓にしている古道具屋にやってきた。家計に極力負担をかけないために、通う習慣ができた。ギターや必要な機材も中古で揃えたくらいだ。
「奏ちゃんこれ見て! かわいくない?」
遥が手にしたのは、スパンコールと合皮で装飾された箱だった。
「ああこれ、底にゼンマイがある。オルゴールっすね」
「そうなんだ。ちょっと鳴らしてみよっと」
遥は店員の許可も取らず、カリカリとゼンマイを回し、オルゴールは動き出した。
「……っ!」
「奏ちゃん、どうしたの?」
奏介は肩をビクッと揺らした。
信じられなかった。オルゴールが奏でるそのメロディーは、幼い頃から幾度となく聴いた、父のオリジナルの曲だったのだ。
遥の手からオルゴールをぶんどり、様々な角度からみると、……アルファベットの「G.K」と書かれていた。
「まさか、|弦蔵の『G』と|小林の『K』か?」
そのオルゴールに父が関わっている可能性があると感じた奏介は、オルゴールを買い取り、出どころを探るために奔走する。
「親父にあったら、思いっ切りぶん殴ってやるんだ!!」
父に会いたい気持ちは、憎しみゆえか? それとも――。
家族の繋がりとオルゴールの音色が交差する、壮大なミステリー。
2025年初の更新です
第6回なろうラジオ大賞、応援ありがとうございました
3月に行われるであろう結果発表をゆっくり待つとします