ユートピアはそこにある。ただし、ユートピアと思えれば
ハコモノの町。
そう女性だけの町を非難する人間もいる。
そして私が調べた所、実際この町には持て余された建物が案外ある。
「最近になり沢山の人が移民してくれたので埋まっているのですがねえ」
マンションの管理人の女性はつぶやいていた。
最近になり外からいっぺんに住民がやって来たおかげで財布は潤い賑やかにはなったものの、それまではかなり空室があったと言う。
もっとも無闇に数を増やしている訳ではなくハコモノばかりきれいにしていると言う意味ではあるが、言い方を変えれば何も中身の入っていない箱を磨いているだけだとも言えてしまう。もちろんその箱は実に奇麗ではあるのだが、中身については別問題だった。
「これ、今でも動くんですか」
「回線を切っているのでウィルスの侵入もありませんから」
「経費でどうにかなるでしょ」
「一応なりますけど、結局は上が優先ですからね。たまにいいのがあっても防衛システムとかに回されます」
「それ壊れたら」
「一応バックアップはありますが、それこそまたお下がりが回って来るだけですね」
誠心治安管理社の傘下の書店を管理するPCを見た時は驚いた。
ざっと二十年前に最先端として使われていたそれだ。
一応それなりにブラッシュアップされてはいるようだが、少なくとも外観はかなり古めかしい。と言うか動くのが奇跡かもしれないほどであり、それこそハッキングでもされれば簡単に乗っ取られそうだ。一応セキュリティソフトは入っているようだが、とうの昔に期限は切れているだろう。
そしてこの書店に本を運んで来る車も、四ケタキロ以上の走行を経験して来た二ケタ年前のそれ。もちろん整備はしっかり行われているが、パーツがあるのかないのか疑わしい車も少なくないと言う。
要するに、最新鋭のきらきらしい物体はここにはなかなかないと言う事だ。
一応ファッションだけは最新鋭っぽいそれが並んではいるが、女性だけの町と言う特異な空間で流行っているファッションが外の世界のそれと一致するのかと言うもっともな疑問に対してはどうもYESと言う返事を出せない。一応最新流行ファッションのデザインを許可を得て販売しているようだが売り上げ面はどうも振るわず、その間に型落ちしてタンスの肥やしならぬ在庫の肥やしになってしまう。そして投げ売りされてようやく在庫がはけるとか言うある意味負のスパイラルであり、だんだんとそれらの量も少なくなっている。女性だけの町が出来た時にライセンス契約を得たはずの工場も生産数は停滞気味で、撤退まで視野に入れられているとか言う話もある。
第二次産業が中核ゆえとか言う意見はあるし、実際作業服の売り上げは好調で輸入産業にもなっているほどだがそれとこれとは別問題だ。
「女性だけの町ならば天下を取れる」と言う枕詞が皮肉であったのは第一次大戦の以前からだが、現在でもその皮肉は死んでいない。ただそれは女性だけの町を好むような住民に迎合しているという意味ではなく、単に低レベルと言うか時代遅れである事を指すと言う意味になっている。
勝負事は争いを生むと言ってスポーツは全く発展せず、そのスポーツと言うか運動が楽しめる施設でも勝負を付けずなあなあにするのが是とされ、外の世界からそのせいで逃避せざるを得なくなったんだろと揶揄された漫画は数種類のパターンがぐるぐる回るだけ、また漫画と同じかそれ以上に敵視されているとされたゲームはこれまた半世紀前のそれが王者を気取り、子ども向けのキャラもドドラちゃんと言う半世紀前のデザインが未だに大手を振っており、俳優はとても食べられる職業ではない—————。
それが女性だけの町のまごう事なき現実であり、こう書くと実に退屈に思えて来る。
このエンタメの未発達と言うか発達に制限をかけている状態でも人類は半世紀も存続できる程度には丈夫であると言う証明であると共に、改めてこの町が模倣する事すら困難かもしれないそれであると知るには十分だと言う事でもある。
そう、そういう事なのだ。




