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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第十回 成功例か失敗例か
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「人材派遣業」

 そんな女性だけの町の産業は決して太くはない。

 いわゆる第一次産業の製品を町外に出しているが収益は知れており、内需で回しているに等しい状態だった。

 そんな女性だけの町で最近耳目を集めているのが、誠心治安管理社肝入りだと言う一つのビジネスだった。



「人材派遣ですか」

「ええ。かねてより行われてはいましたが誠心治安管理社自ら乗り出す事としています。この町でのエリートによる出稼ぎです」


 この町のエリート、と言うか高所得者と言えば第二次産業従事者である。ゴミ回収などは肉体以上に精神面の強さが要るため指導とか言っても難しいが、それでも建築現場や配管工事などの作業面では数倍単位の競争を勝ち抜いた強者たちがいる。


「もちろん人材教育も行いますがそちらは正直期待薄です。谷川さんの本によりこの町の生の姿が見えてしまったので夢を見る人は減ってしまいまして」

「それは平謝りする他ありません」

「悪い意味で夢を見てしまっていたのがJF党である以上、一向に構わないのですけど」

「JF党の傷跡はまだあるのですか」

「私たちの町にはありません」




 —————私たちの町には、ありません。

 水谷さんと言う秘書の言葉をより正確にすればそうなるだろう。


 その第二次産業の強みを消そうとしたのが、JF党だった。

 女性だけの町を作った人間が望んだ、女性がやりたい仕事が冷遇されている現状を変えようとしたと言う目的そのものは悪くなかったが現実を無視した政策を行おうとし、それを必死に止めた女性だけの町の住民には正直何らかの賞を与えるべきではないかと思う。

 第三次大戦と言えるテロ事件を支持したとも取れる行動によりJF党は選挙でも九十四議席から一気にゼロ議席になると言う外の世界でも歴史に残りそうなほどの破滅的大敗を喫し、女性だけの町から消えた。



 だがそれは、あくまでも「女性だけの町から消えた」に過ぎない。

 女性が本来したい事をするために女性だけの町を作ったはずなのに、結局したくない事をやらされる。その挙句そのしたくないはずの事をやっている人間が高給取りと言うか勝ち組になるように女自らルールを作っているとなれば話が違うとなるのはわからないではない。

 と言うより、むしろ増えたかもしれない。第一次大戦の最中に声にこそ出さないにせよ彼女たちを支持していた層からしてみればその後の動きは裏切りでしかなく、さらにそれから過激化の方向へ進んだ表現を歯噛みしながら眺めざるを得なくなり敵意を増幅させたとしても一向におかしくはない。五十年も経てば世代交代などとっくに済んでいるしと思うかもしれないが、世代交代とかではなく262の法則とかで一定数以上何かを絶対に好きにならない存在はいる。

 もちろん過ぎた表現の過激化により反発する層はいたしそこからの逃避のために今の「女性だけの町」に合わせようとしている人間はいるが、実際に合う存在になれるかは別問題だし合ったとしても受け入れてもらえるかは別問題だ。それこそ女性だけの町に生まれて女性だけの町の中の富裕層になるべく努力しているような存在と張り合うのは困難であり、多くの人間はその事を知って断念するか知らずに飛び込んで挫折するかのどっちかになってしまう。しかし現状、本当に女性だけで町を作りかつ回すとなるとどうしてもそうなってしまうのはどうにも抗いがたい現実だった。


 なればこそ自分たちの味方を増やすべく外の世界に出て立派な姿を見せ、「女性だけの町」の住民は決して恐れおののかれ敬遠されるような人間ではないと示す—。

 その平和的な拡大方法をこれまで取れなかったのはどうしても自縄自縛的とは言え敷居の高さとようやくと思った所に発生した第三次大戦が原因ではあるが、いずれにしてもかなり時間がかかる。



「そして女性だけの町の住民を傷つけるのは男性だけでない事を証明してしまう話は決して少なくない……」

「野川の一件は残念ながらそれほど珍しくもないのです」



 男性どころか女性にも傷付けられる。女性だけの町の住民は男性と言う未知の存在を求める悪い意味で好奇心の固まりだったり、逆に大真面目に振舞えば野川拓海のように不要な嫉妬心を買ったり、そうでなくとも色眼鏡をなかなか破り切れない。

 小学校時代からさえも刑務所に入れると言う事がまかり通るこの町であってさえもそういう所から来る犯罪は起こる以上、どうしようもない運命なのだろう。




 とにかくそういう風に女性だけの町の住民がまだまだ異物そのものの扱いをされているのに、女性しか入れない町に入るのはかなりハードルが高い。そこまでして建築や水道などを学ぼうと言う人間は普通に外の世界のそういう所に行く物であり、人を集めるためには授業料の減額などそれなりの措置を取らねばならない。そしてここ最近そのと世界では女子たちに工学部ブームが起きており、ますます競争相手は強くなっているのだ。

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