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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第八回 一流の女
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「誰もが憎しみを買っている」

男の子の日ですが、女性だけの町です。

 野川拓海と言う人間は、エリートではあっても富裕層ではない。


 女性だけの町の社会的ヒエラルキーの頂点は議員及び誠心治安管理社の本部職員だが、収入的ヒエラルキーで行くと彼女らはむしろ下位に属する。女性だけの町を収入的に支配しているのは、第二次産業従事者及びトイレ掃除やゴミ収集などを行う「第二次産業」従事者たちだった。その次に第一次産業従事者が続き、第三次産業従事者は最下位となっている。議員や本部職員は、第一次産業よりやや下の立ち位置でしかなかった。当然高等教育のための費用は安く、大学四年間の学費は道路工事の現場担当の年収一年でお釣りが来ていた。ちなみに女性だけの町に短大はないが、一~二年の二年分となると誠心治安管理社の新米職員の年収で足りる。


「外の世界のオトコたちは体力があります。ゆえに第二次産業はそれほどまでハードルの高い仕事でもありません。もちろん体力は必要不可欠ですが、女性だけの町の第二次産業従事者は町の中でもエリート中のエリートであるのに対し外の世界では中間層の仕事です」

「いずれにしても軽視などするなと、公平に見るべきだと」

「まあもちろん、女性だけの町の住人として最大限に敬意を払っても一向に構いません。ただその場合でも、決して第三次産業従事者を蔑んではなりません。職業に貴賎なしと言う言葉を忘れないで下さい」

「私も、本当は建築作業員になりたかったんです」


 そんな富裕層に憧れる女性は、女性だけの町では全く珍しくない。大卒で設計担当者になった所で給料袋の中身は現場の人間よりも軽く、そのためなり手が少ない事もあり多くの建物が男性から金で買った設計図のままに作られている。この事を女は建物を設計できないとバカにする向きもあるが、金での取引と言う男でも女でもできる仕事には寛容な女性だけの町の方針もあり誰も気にはしていない。

 ただそのために、幼少期から学問ではなく体力の増進を目的とした教育プランを施す親も多い。アスリートと言う存在が職業足り得ない女性だけの町では体力のある人間はそちらに行くしかなく、才能の無駄遣いだと言われる事もある事もあるがやはり気にする人間はほとんどいない。


「露出の多い装束を見せられた時、少し動揺もしました。しかしそれが普通であり、彼女たちにとって理想のそれだと分かった時には少し驚くと共に嫉妬もしてしまいました」

「驚きと嫉妬、確かにそれが正しい感情かもしれません。そしてその正しい感情を正しく飲み込めないだろうと言われたのが女性だけの町の宿痾であり、始まりなのです」

「始まり……」

「その点もまた女性だけの町の住民が外に出た際に言われやすいのです。自分たちがそういう魅力がないから妬んで足を引っ張ろうとしたのだと」

「それは!」

「無差別を貫いた所で残念ながら差別は生まれます」


 差別をどんなに控えた所で、差別をする人間を差別してしまっている。どうにもならない無限ループであり、人類が永遠に解決できなさそうな課題の一つだった。


「何が良くて何が悪いか、その問題の答えは永遠に分かりません、と言うか変わり続けます。私たちは普段から男性の危険さを説いていますが、女性だって同じぐらい危険です。と言うか男女に差別がないのならば、女性だって男性と同じぐらい悪い所があってしかるべきです。この町では相手の個性を認め、その上で仲間はずれをしてはいけないと言う女性的な悪の抑制も行っています」

「はい」

「人は誰もが、誰かから憎しみを買っているのです。自分ではその憎しみを制御で来ているつもりでいてもそうでないかもしれませんし、他者があなたと同じように憎しみを制御できていると断定してはいけません」

「でもそれは見下しにつながるのではないのですか」

「JF党は我々を自分の理想を実現するための道具としてしか見ていなかったと言うのが見解です」


 そして、JF党。

 JF党こそ独善と言う言葉の体現者であり、自分が憎しみを買っていると気付かなかったと言うか気付こうとしなかった存在の代名詞。

 その挙句その思想が自分たちが当初追って来たそれに近いと思われ自分たちの中の一部と言う印象を外の世界に植え付けてしまった最悪の集団。今は反面教師として役に立てようとしているが、そんな集団など歴史どころか外の世界にいくらでもいる以上女性だけの町の評価が上向く事はない。

 

 彼女たちのような存在をどう抑制して行くかが、行政の課題でもあり住民一人一人の課題でもあった。

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