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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第七回 それでもボクはやるしかない
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セーギノミカタサマ

「ごめんね、私もあの女と同じだったわ……!」




 その一件を強く恥じた彼の母親は、その時から夫共々十年ほど前に流行った漫画本を買い集めた。生まれてから買った漫画の数倍の冊数のそれを中古書店で買い漁る中年女性の姿は何とも痛々しく、息子は息子でも彼が想起していたような引きニートのそれを思わせるような息子、でないとしてもブラック企業などに打ちひしがれてうつ病に陥った息子を甘やかす姿だった。

 実際、大学に入学して初めて参加した合コンに出た際にその漫画に載っているキャラの名前を出されて彼は何も言えずにいてから全く誘われなくなった事に関係があるのかないのかはわからないが、彼はその漫画を楽しく読んでいたと言う。

「と言っても、本当なら十年かけてやるはずだったそれを三ヶ月でやったんです。どう考えても付け焼き刃であり、すぐにかなわないと分かったんです」

 かなわないが「敵わない」であると言う願いを「叶える」かのように、彼はさわやかな笑顔を浮かべていた。

 同時に、彼女を真の意味で救い出す事が「叶わない」と言う哀しみも持ち合わせていたが。




 彼女は最後の最後まで、自分が正しいと思っていた。


 あの一件から後、彼女は今までの多弁さがなくなったと言う。笑顔は笑顔でも上っ面めいたそれになり、これまでそれなりに仲良くしていた同僚たちとも何となく離れ出した。仕事ぶりはむしろ良くなったが愛想は悪くなり、接客担当はまったく回って来なくなった。ある日接客担当の女性が体調を崩した時でも店長自らが接客に当たり、彼女はずっと裏で弁当箱にご飯を詰めさせられたりしていた。

「彼女にとっては本当に真剣で、私たちがどんなに諫めても聞こうとしない事がわかっちゃって。私たちにとっては小さな問題でも、彼女にとっては人生を左右した問題だったのね」

 店長さんの言葉に、全てが詰まっていた。


 女性だけの町を求めた住民の多くが、同じような感慨を抱かれていたのだろう。

 そして女性だけの町を作ってなお、多くの人間は何だまさかこの程度でぐらいの感情しかなかったのかもしれない。


 いわゆるDV被害者たちは、意外と女性だけの町に来ていない。いわゆる第二次大戦の際に多くの女性たちが女性だけの町にやって来ては自らのための町を作る事となったが、その時が比率からして七割以上であったのが現在では三分の一程度まで低下しており、それもまた外の世界の人間からしてみれば話が違うと言う事になるのだろう。私だって取材に行く前はそんな駆け込み寺めいた場所を想像していたから意外であり、離婚せず別居婚と言うか単身赴任のような形で住んでいる女性もいる事などは想像もしなかった。

 最近では職探しと言うか金儲けのための職人見習いたちの移住希望者も増えているらしい。また一部企業では女子工員の研修のために優秀な職人が集まるかの町に人材を派遣・養成しようと言うプランもあるらしいが、現状あまりうまく行っていないと言う。




 それはさておき結局一年間親の言葉通り「自分の務めを果たした」彼女は貯めた金を持って悠々と第二の女性だけの町へと向かい、今はそこで暮らしていると言う。それからについては便りがないのは良い便りと言う言葉を信じていますとの事だが、それはそれで元からの家族も自分が作ったも同然のはずの家族も忘れてしまうほどであったと言う事であり実に寂しいと言うか恐ろしい話だ。


 一方でその彼女に去られた父子は自分たちと彼女、両方の実家の助けを得て立ち直っているらしい。今では中学生であるがすっかり昔の面影はなく、友達とも仲良くしていると言う。現在では下手ではあるが好きなサッカーに興じながら、勉学にも頑張っているらしい。


 そして弁当屋にいた彼は中央省庁への勤務を諦め、民間企業への就職を決意。

 現在では第二志望であった室村社に受かり、持ち前の頭脳により本社内の会計を担当する事になったらしい。ちなみに第一志望は大水社であったらしい。




 彼女にもしその話をしたら、泣きわめくだろうか。


 室村社は彼女からある意味家庭を奪ったあのアニメの大元も大元と言うべき存在によって大きくなったと言うか経営が成り立っているような会社であり、ある意味で仇である。

 その仇を恨んで生きて行くのは傍目から見てすごく不幸であるが、本人にとっては以前も述べたようにアクノダイマオーに立ち向かうユウシャサマの気分になれるからそれが幸せなのである。その幸せを奪うのが悪でなくて何なのか。もちろんこれはどんな存在にも当てはまる話であり、実際私だって女性だけの町と言う全く未知の存在を調べて行くと言うミッションに幸福を感じて溺れてしまい、その間他の仕事をおざなりにしてしまい収入がそれまでの三分の二から半分にまで落ちた事もある。

 結果的にはその価値があったとは言えその時は本当に苦しかった。食費の節約と時間のためにいい年して一年で食べたカップラーメンの数は三ケタに達し、肌の荒れと内臓脂肪もたっぷり得てしまった。皆さんは何もかもあまりのめり込み過ぎないようにして欲しいものである。

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