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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第六回 「第二の女性だけの町」
56/96

先は長くない

「公務員」と聞いて何を想像するか。



 警察官、消防士、町役場の職員、教師、だいたいがそういう所であろう。


 

 だが第二の女性だけの町には、もう一つ巨大な分野が存在する。



 それが、「建築課」「道路工事課」「水道工事課」「ゴミ処理課」などをまとめる「町内整備部」だった。




 そしてそこに勤める彼女たちの給与は、あまりにも安かった。

 それこそ第一の女性だけの町の新米配管工を一人養うための金銭で、第二の女性だけの町のゴミ処理課の職員を四人養えた。文字通りの最低賃金であり、まさしく公(しもべ)だった。

 しかもその冊子に載せられている日程と来たら、それこそ有給休暇と書いて都市伝説と読むような過重労働そのものであり、休憩時間も仮眠か睡眠か移動で潰れそうなほどだった。公務員と言う事になっているが、それでもこんな給与、と言うか日程で働けるのだろうか。



「いいのです。第一の女性だけの町を見るに付け、彼女たちの肝の太さと言うか無警戒さに呆れ返りました。女性が一番恐れた物、それがオトコたちの膂力であり暴力なのです。その暴力に対抗するために女性だけの町を作ったのではないのですか、それなのに第一の女性だけの町のように膂力と権力を持った存在が同一であってはそれこそ膂力が全てと言う野蛮な世界が来るだけではないのですか」


 膂力と権力を持った存在を切り離す。確かにそれは間違いではないとは思う。

 古来より人間は戦争を繰り返して権力を得て来た以上、最高の武力の持ち主が権力を得て来たのは自然な流れだった。だが権力と膂力の両方を得た場合、腐敗した権力の持ち主は膂力を振りかざし暴虐を働き無力な民を傷つけ、それにより政権が崩壊した話は山とある。それと同じ事は国家とか王朝だけでなく家庭でもあると言う次第なのだろう。


 だがくどいようだが、DVは別に夫→妻とは限らない。ましてや軟弱な男と屈強な妻と言うパターンの夫婦がないと誰が決めたのか。

「存在するのは認めますが数が違います。ましてやそれならそれで夫用のと言うか男性用に施設を作ればいいだけです」

 追川恵美はまったく表情を崩すことなく言う。女たちがやったのだから男たちもやればいいではないかと言う事だが、それこそそんな施設など山とある。酒場とか言うような「男の社交場」はまさしく「妻にさいなまれた男たち」の傷を癒す場であり、それをも奪い尽くしてやろうとか言うならそれは完全な妻からのDVでしかなく離婚調停になっても妻が不利になる案件だろう。

 と言うか膂力の差がないとしても知力の差と言うのはある。詐欺を肯定する気もないが奸智に長けた方がそうでない方から搾取し続ければそれは立派な暴力であり、世間的に言って非道と言う烙印を押されてしかるべきそれだ。そして知力には男と女の差があるのかないのかはわからないが、少なくとも体力ほどの差はないだろう。民主主義と言うのは膂力より知力が物を言いやすい世界である以上、男女間の権力差は軍事国家とかよりも小さいはずだ。



「ですから、それでもなお女たちをあらゆる形でオトコは支配しようとしているのです。

 女々しくて、情けなくて、何ともみっともなくて。そんな事をやめろと言っているだけなのです。それは彼ら自身のためでもあるのです」


 と言うか元より第一の女性だけの町の創始者を含む女性たちが反発したのはDV男ではなくいわゆる美少女のイラストとそれを好むような男たちのはずだったのにと言うと追川町長はそう言い返した。

 力を持った女たちに向かってそんな奴に誰が振り向くか、俺の理想はこんなんだぞと見せ付ける姿の醜悪さを醜悪であると単純に言っているだけであり、なぜあそこまで反発されるのか。そう嘆く彼女に対し秘書らしき女性は背中をさすり、なかなかウンと言わない私を見下ろしていた。

 そっちが見せ付けるならこっちも見せ付けてやると言う事ですかと言うと追川町長はうなずき、その上で第一の女性だけの町の()()()()()()を批判した。これから町長挨拶とかあるんでしょうと言って逃げ切ったが、それでもそれから第二の女性だけの町に招待される事もなければ、正式に取材をした事もないしオファーすら出していない。あるいは出禁になったんじゃないかとか言われもしたが、この前連絡を入れた所谷川さんならいつでも歓迎しますと言われていたのでまあ大丈夫だろうと思う事にした。







 しかし、それから十年ちょっと後の現在も私は第二の女性だけの町に立ち入った事はない。

 私が第二の女性だけの町から帰って来て自分なりの見解をまとめていた所に先輩のノンフィクション作家から第二の女性だけの町についての話を聞かれ自分なりにまとめた簡易レポートを出した所、

「先は長くないだろうな」

 と言う見解をぶつけて来たのだ。


「インフラの崩壊ですか」

「それもあるだろうけどね。第一の女性だけの町が成功した理由はそっちのが詳しいんじゃないのか」

「閉鎖的だった所ですか」

「そう。だが第二の女性だけの町は違うんだろうね、谷川さんが言う通り」


 追川恵美と言う女性は字面こそおとなしいがその実かなり怒りっぽく、その上で押しつけがましい物言いの出来る人物だった。それが町長になったとして、誰がその権力を覆せるのか。それこそとんでもない数で膨れ上がっていた住民たちの中にそのやり方に不満を抱く存在が出るかもしれないが、出ないかもしれない。

「「第一の女性だけの町で暮らせない」女性たちが集合していたとしたら、」

「そうだよ。彼女たちはおそらく第一の女性だけの町の弱腰を批判する事を是としている。そうなれば民権党のような穏健派の政党は育たないだろうね」


 第二の女性だけの町とて二大政党を標榜している。

 だが政権与党である「真女性党」と野党である「誠心誠意党」の両者が第一の女性だけの町にて内部の治安を重視する「民権党」と女性だけの町の拡大を企図する「女性党」のようにはっきりとした対立軸を持ち二大政党として機能するか、その時の私には確信が持てず、その上でこの時の先輩作家の言葉を聞いて確信した。


 まだ「第一の女性だけの町」と言う形でしか、人類は「女性だけの町」を成功できていないのに他のやり方が通るのか、私にはとんとわからなかったのである。

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