「第二の女性だけの町」の完成
その日、私は招待もされていないのに厚かましく足を運んだ。
無論男して生まれなければフリーパスだったので平然と立ち入る事も出来たが、それでもあんなことになった以上敷居が低くないのもまた事実だった。
第一の女性だけの町と同じようにゲートをくぐり、入った私が見た物。
それは第一の女性だけの町と比べて、ずいぶんと町らしい町だった。
第一の女性だけの町に入った多くの女性が思うのは、やはり女性しかいないからゆえの穏やかな空気以上に、第二次産業が中心となっているゆえの良くも悪くも熱い空気が漂っている事。
そしてそれ以上にどこか機械的、と言うより計画的と言うべき所である。京都のように碁盤目状になっている訳ではないが、それでもほぼひし形に作られた第一の女性だけの町は北が農・漁業区、西が工場区、東が商業区、南が玄関と言うか集合体とでも言うべき場所で中央が行政区とはっきりと分かれている。南側が雑然としているが後の三方向はかなりきっちりと分かれており、〇端ともなるとそれこそ完全にその色に染まっていた。
一方で第二の女性だけの町は、見た瞬間何があるのかわからなかった。第一の女性だけの町の南区は雑然としていると言ったばかりの口で何だが、そっちのほうがいかにも普通の町だと言う気もした。
実際問題、町境だからと言って急に何か変わったりするわけもない。都道府県をまたぐ場所でさえも、そういう標識でもなければただの道路である事が大半だ。これが国境とかとなると話は別かもしれないが、普段生活していて特段町の境を気にする事もない。実際、その町も第二の女性だけの町になるまではごく普通のそれに過ぎなかったのだ。
ましてやこの場合、全くゼロからではなくあらかじめ存在する施設その他を修繕するような形で作られたのだからどうしても旧来のそれの形状を受け継ぐ事となり、独自性がないと言う独自性が存在していた。
「どうです、きれいでしょう?」
「追川さん」
「一応、私が町長です」
私に不意に声をかけて来た女性。黒みがかった紺色なのにやけに光るスーツを着た彼女こそ、第二の女性だけの町の初代町長である追川恵美だった。
「あなたにもわかってもらいたいのです。本当の女性だけの町の素晴らしさを」
「はあ?」
「こちらをどうぞ」
追川恵美町長が私に渡した一冊の冊子。
そこには、「第二の女性だけの町のマニュアル」と言う文字が躍っていた。明らかに身内用としか思えないタイトルだが、恵美町長は全くためらうことなく渡して来た。
——————————二大政党制による小選挙区比例代表並立制。七十の選挙区で二年交代で選挙を行い、同時に比例代表で三十の議席を争うと言う形式を取る。つまり、町議会議員は第一の女性だけの町と同じく二〇〇人である。
第一の女性だけの町もそうだが二十万の都市で議員二〇〇人と言うのはあまりにも多いが、その分生活はかなり厳しいらしい。それではまともな志の人間は議員になれなくなるとも言われているが、現状少しでも腐敗すれば即オトコに突かれると言う自制心と良くも悪くも富裕層優遇と言うべき第二次産業優遇政策への支持が圧倒的なためかこの体制が保持されている。
もちろん人口にふさわしい四〇人前後にまで削減すべきだと言う案もあるが、現状あまりうまく行っていない。どうもJF党のとんでもないなだれ込みぶりに四〇人程度では一挙に覆される危険があると判断し、そこまで減らすのならば半数交代どころか一年ごとに選挙をやり四分の一ずつ交代とか言う事にしようとまで言われているほどにはハードルは高いのである。
他にも男性として生まれた存在は例え性転換手術を受けようとも入町不可。
オスの性を持つ存在はペットだとしてもやはり入町不可。
婦婦と呼ばれる同性婚の仕組み。
産婦人科のマニュアルと16ケタの数字。
第一の女性だけの町と変わらない文ばかりが並び、私の手はどんどん雑になる。張り付いた笑顔でそんな私をにらむ町長様に急かせられる訳でもないが私は半ば家に帰って後で確認すればいいかとばかりに次々にめくり、適当に目を通した。
そんな私の手を止めさせたのは、十枚ほどめくった先にあった文章だった。真っ白な紙に黄色で書かれているせいか読みにくかったその文章は、私にここまで足を運ばせた甲斐があったと思わせると同時に、第二の女性だけの町が第一の女性だけの町の模倣などではない事を示すに十分だった。
「追川恵美」と言う事は…。




