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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第六回 「第二の女性だけの町」
53/96

「原罪」

「これは贖罪なんです」


 贖罪。


「まさか、自分たちに取って見るに堪えないそれを垂れ流しにしている」

「自分たち?いえ公共の安寧を脅かす危険物です。その危険物を排斥すべきだとずっと私たちは言い続けているのです」

「ですがいわゆる第一次大戦にて暴力行為と言うか殺人未遂事件が発生してしまい、現状表現の流れは過激化の方向をたどっています。むしろ第一次大戦の顛末がこの結果であり、その思想そのものがコンテンツの過激化を招いているとも言われています」

 

 何百回と言われてきた論争であるが、彼女を含め同様の思想を抱いている人間はまだまだいる事は「第一の女性だけの町」が作られた経緯からしても明らかだろう。

 その中で積極的に動いた存在が第二次大戦を経て変質した事は住民たちからも幾度も聞いており、彼女たちは未だにその手の存在への嫌悪感は消えないながら受け入れていると述べていた。無論それがサンドバッグのような使い方であったとしてもだ。

 彼女もその話は聞き飽きましたとばかりに水を口に含み、飲み干すと深々とため息を吐きながらコップをテーブルに叩きつけた。ガラスの百均製だと言うコップはヒビも入る事なく彼女の一撃に耐え、その上で彼女の次の言葉をじっと待っていた。


「古今東西、誰が戦争を起こしたのです?言うまでもなく、男性の為政者たちではありませんか」

「私は別に政治学者でも何でもないので」


 誰が戦争を起こしたのか。いきなり変わった話題について私が言及を避けようとすると、彼女は右ひじをテーブルに付き頭を抑えながらため息を空のコップに吹きかけた。

「いいですか、かつてよりオトコたちにより戦争は行われ、兵器は開発され、実際に人殺しも行われた。これは紛れもない事実です。それはあなたもご存じのはず」

「私はその過程に女性が絡んでいなかったとは思いませんが。女性の為政者とて戦争を行い、また男性の為政者の周りの女性たちは何もしなかったのでしょうか」

 そして政治学者でなくとも卑弥呼やヴィクトリア女王など女性の君主がおり、彼女たちが戦争を敢行した事を知っている。いやそれ以前に、為政者の母や妻、姉妹や娘たちがその方向に向かわせないために全く無力、と言うか怠惰であったと言うのだろうか。


「私はですね、オトコは決して戦いを諦めていないと思っているのです。女たちがどんなに平穏に治めようとしてもオトコは戦いたがる、力を振るいたがると」

「DVは夫から妻へだけではありませんが」

「DVなどではありません、谷川さんはまさか町中で現在進行形で横行しているオトコの刃をご存じないと」

「やはり、そういう絵ですか」

「はい。オトコはいつも女たちを脅すのです、自分の言う事を聞かないような女なんか知らねえよと。でなくばあんなに自分たちにとって都合のいい女たちを並べようとしません」

「乱発と言う事であれば私も同意しますが」


 直接的な暴力行為をしない代わりに、自分が求める理想のイセイ様を並べ立てお前なんか要らねえよと誇示している——————————それがDVと言う事になるらしい。

 だとしたら正直、空威張りにしか思えない。


 私の事をその手の趣味に理解があると言う人もいるが、それならそうと勝手にやっててくださいと言うのが私の方針だ。平たく言えばどっちでもいいと言うかどうでもいいのであり、不愉快に思っていないと言うだけの話に過ぎない。確かにあまり多すぎるのも味気なく感じるが、別に適度ならばあってもなくてもいいではないか。

 

 もちろん空威張りだと言う事自体が私のそれとは違う見方であるが、彼女は得たりとばかりに手を叩くでもさらに反発するでもなく、椅子から立ち上がってコンビニで買って来たような小さな麦茶のペットボトルを置いた。私が軽く頷いてペットボトルのキャップを開け口を付け喉を潤すと、ロボットのような顔になった彼女がそこにいた。




「わかりました。

 男性の貧民救済はどうなるのかと言う事でしょう?我々はちゃんと貧困男性にも職を与えているのです。その事を皆いずれ分かってくれるはずです。ではいずれ私たちの町に来てくださいね、本当にありがとうございました!」




 最初から別れのフレーズは決まっているとばかりに彼女——————————追川恵美は、話は終わったばかりに席を立った。


 いったい何をしたかったのか、何を聞きたかったのか。


 その答えもわからないまま去って行った彼女がその言葉通りに第二の女性だけの町の頂点として君臨したのは、それからわずか三年後の事である。

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