オトコに作らせる意味
「まったくとんでもない事をしてくれたものだ。一度成功をするとそのやり方に味を占めてしまうと言うのは世の中の定理だが、本人以上に世界中が味を占めてしまったのは予想外だった。
だいたいの話、どれほどまでに女性と言う存在がその手の仕事に適していないかなど少しでも考えればわかるだろう。それを極めて無理くりに、それこそ大時代的な努力とか根性とか言う存在によって耐え抜いて成就してしまったと言う現実は、後続の存在を全く考えていないある意味もっとも乱暴でもっとも危険なそれだった。
大体の問題として昨今の、いやずーっと前から女性たちの心を逆なでして来たのは一体誰なのか。それはオトコであり、そのオトコに迎合するメス共ではないか。私は以前からそういう存在に対し税金をかけ被害者である存在に対し補償金を支払うべきであると幾たびも言っていると言うのに、理屈で圧せられるとか言う幸運にすらめったに出会わない。こんなにも自分は真剣なのに、なぜそれをわかろうとしないのか。
だからこそ、その連中とこれ以上関わらないようにするためにも「第二の女性だけの町」は必要不可欠なのだ。しかもそれは、決して「第一の女性だけの町」とか言う失敗都市ではなく、あくまでも女性が望んで得たそれでなければならない。」
この論文の著者と会ったのは、ちょうど「女性だけの町」が人気となって私が浮かれ上がっていた時分だ。
先にも述べたように折しも「第三次大戦」の最中であった事もあり、外の世界でも第二の女性だけの町についてかなり関心が集まっていた。平和とか安全を気取っているのに結局テロ事件が発生し、かなりの犠牲者が出ていた時分である以上「第二の女性だけの町」が「そんな失敗」を起こさないか否か関心が集まっていた。
「なぜ、JF党は失敗すると思ったのです?」
「JF党の政策は極めて他責的であり、かつ依存的です。女性だけの町が成立したのは創始者たちが自己責任により動き自立していたからです。その上で外の世界の存在に作る手助けをしてあげたいと思わせたのが成功の要因です。
女性だけの町に住みたがる住人と言うのはどこか浮世離れした、自分たちと相入れない人種かもしれないと言う不安はかなり根深くありました。そんな中で第二次大戦中に発生した事件は、むしろ外の世界の人間の気持ちを和らげるそれだったのです」
私はインタビューを申し込んで来た彼女に対し、自分の本に書いた自分なりの見解を述べた。
誇り高く自分たちの正義のために戦うとか言えば体裁はいいが、自分たち俗人の楽しむそれを享受しない姿勢は例え拒否反応を示さないとしてもどこか近寄りがたい印象を与えてしまい、厄介払いの烙印を押されてしまうにふさわしい物だった。そんな中で起きたレイプ事件は彼女たちがただの人間だと言う事を思い知らせるそれであり、逃げ出した女性のそれ以上に外の世界の空気の軟化に伴う人員その他の増加は大きかったとされている。
「JF党の政策はその過去を否定する物であり残念ながら独善と言うに値するそれでした。女性だけの町が外の世界に受け入れられた理由を理解しておらず、自分の正しさだけを追及したそれであり女性だけの町の住民には受け入れがたい逆行、と言うか急進的政策でした。実際JF党の支持者は女性だけの町に来て日の浅い第三次産業の従事者、と言うかいわゆる貧困層だったのです」
「そういう女性を救うのが女性だけの町の意義だったのではないですか」
JF党の政策はレイプ事件を受け入れると言うより秘匿するためにあると言ったのは誰だか忘れたが、いずれにしてもJF党の思想は現在でさえも女性だけの町に存在する禁欲的な町の色をさらに濃厚にするそれであり、それでいて女性だけの町を守ろうとする第二次産業従事者を冷遇する政策であった。その事に気付いた民権党・女性党の議員たちは必死に支持を訴え何とかJF党に対抗し、その結果JF党は自滅の形で消えてしまった。
「貧困層は女性だけではありません」
そして、貧民救済と女性救済は全く別物である。
町がある以上、どうしても富裕層と貧困層は産まれてしまう。
残念ながらと言うべきか、現在の第一の女性だけの町にそれほど真剣に貧困層を救済する気はない。即飢えるとかホームレスとか言うほどまでには落ちぶれる人間にはさすがに養護施設を作るなどしているが、それでも低所得者層に対する処置はあまり良くない。
貧民救済より、女性主導が第一。
そのために女性には向かないとかやりたがらないとか言う仕事に高い給与を与え優遇するのが優先的な金銭の使い方であり、それをやる気のない女性への待遇はどうしても冷たくなる。そして外の世界から「女性だけの町」を求めた層の多くが、この町における富裕層がやる仕事の適性のない存在だった。
無論志願すれば安価で訓練も受けられたが、ご存知の通り生え抜きのエリートたちがあふれ返っている中大した経験もないにわか仕込みの人間たちが出来るのは誠心治安管理者の下請けの作業員かそれとも小さな工務店の店員かだった。もちろん外の世界でそういう仕事の経験があればかなりの好待遇で迎えられたが、そんな女性が来た事は少ないと言う。
ましてや、
「女性だけの町に貧民救済の意味があると言うのならば、なぜ女性自らの手で町を作ろうとしないのです」
と言う当然のはずの疑問に対し
「これは贖罪なんです」
彼女はそうキッパリと答えたのである。




