「女性だけの町」の問題
「自分でやれ」
女性だけの町に対する意見の中で、一番多かったのはこれである事は幾度も述べて来た。
理想の存在を求めるならば探せ、探してもないのならもっと探せ、どう探してもないなら自分で作れ。必要は発明の母であると言う言葉を持ち出すまでもなく、その存在を求めた人間たちの多くが他力本願であった。
—————女性だけの町を持ち出す連中はただお姫様ごっこをしていたいだけなのでその町を作る存在の事を考えていない。
—————ジョーキューコクミンである自分たちがのほほんと生活したいだけでありそのためのインフラを作っている人間の努力なんぞ顧みない。
—————女性だけの町だからもめ事は起きないとか言うが実際そんな簡単な訳あるか、大奥とかでも女性たちの争いは激しかったではないか。
他にも、いくらでもケチの付けようのあるほどには、女性だけの町とは非現実的な産物だった。
言うまでもなく現存する女性だけの町はインフラ整備に携わる人間に絶対的とまでは行かないが高い地位を与え町を守り、さらに教育を厳しくした結果女性と言うより人間として成長させ女性ならではの争いは起きないようにされている(もちろんゼロではないが)。
無論第二次産業偏重主義や厳格な教育に伴うその反動は無視できないが、それでも半世紀に渡り町を保ち続けていると言う事実は消えない。
だがそれほどまでに成功しているのに、第二例がなかなか出なかった。
曰く
—————これまで外の世界で女性が主に担当して来たような仕事の待遇が悪い。
—————あまりにも禁欲的過ぎて女性たちの本当に求めるそれとは思えない。
—————スポーツも含め「健全な」遊戯もない。いやあるが勝負を付ける事が是とされず、あくまでもなあなあで終わらせるのが美徳とされる。
それらは紛れもない事実であり、女性だけの町が抱える課題である。
ただそれらに女性だけの町が真剣に向き合っているか否かと言うと別問題であり、公平に言って女性だけの町においてそれらの問題が解決されるかと言うと疑わしい。
最近になりようやく宝くじが売り出されるとか言うニュースもあるが、それらも一世帯当たり百枚とか一人当たり三十枚とか射幸性を極力削ったような形にしかできないとも言われている。
そして三番目のそれに通じるが、女性だけの町の中の「娯楽」は実にレベルが低いと言わざるを得ない。
海水浴場や山歩きなどの場所はあるし動物園や水族館も存在するが、それらを娯楽施設と呼べるかどうかと言うと疑わしさも残る。遊園地もない訳ではないが外の世界のそれと比べると数分の一の規模であり、遊興施設としての色合いと言うより体裁を整えているだけとも言われている。もっともそれは十年以上前に話であり現在はやや拡張されたらしいが、それでも残っていたスペースを考えるとそれほどの期待も出来ない。正直アトラクションも観覧車やメリーゴーランドなどごく一般的なそれしかなく、女性だけの町の住民の事しか考えていないと言わざるを得ない実に内向的な施設だった。
さらに言えばドラマやバラエティと言った放送及び漫画なども実にポテンシャルが低く、たまに優秀に見えるのがあっても何十年単位で再放送されているような外から見る分にはともかく住民からしてみれば使い回しもいい所のそれだった。
そんな調子だから給料も安く、芸能プロダクションとか言う代物は経営が成り立つ訳もない。現在は誠心治安管理社の傘下のそれによるほぼ寡占市場であり、競争もないので余計に質は落ちる。一応市民劇団的なそれは存在するが、そこに優秀な役者が埋もれているかと言うと埋もれていない。その劇団で看板であった役者が外の世界に飛び出して全く芽が出ずエッセイストとして人気になったと言う話もある以上、これからもその手のそれが発展するかと言うと困難だと言わざるを得ない。
ではなぜ解決しないかと言うと、以上の理由を解決しようとした際に人類はまだ「男性的」要素を使わずに解決する答えを持っていないと言う事だ。
少しでも競争が発生すれば、それは争いとなる。
争いは戦争を産み、悲劇を産む。
なればこそ電磁バリアを張る代わりに警察官以上の軍事力を持たず、決して外に手を出さない代わりに出させないようにする。
無論ある程度の制限こそあれど立ち入りは自由とし、あくまでも融和的な姿勢を取り続ける。
これが「差別主義者」たちと戦うための最善の方法であり、女性だけの町を作り上げた基礎の一つである。
だがそのために一分たりとも隙を作らず振る舞わねばならぬのだとしたら、人類は未だ発展途上な種族であると言わざるを得ない。
それこそ、少しでも隙を作れば徹底的につついていたぶるような下賤な存在であると言う証明でもあるからだ。もっともそれをどんな時でも生き延びられるようにせねばならぬ生存本能の奇形化の一種だとする説もあるが、それはいじめを肯定するそれであり理性が未発達な証拠である。
ましてや女性だけの町の住人にかつて外の人間が抱いていたイメージはその「少しでも隙をつついてほじくり返して責め立てる人間」、いや「何の瑕疵もないのに無理矢理瑕疵を作って責め立てる人間」であり、これについては現在の女性だけの町の住民も必死に払拭しようとしているがうまく行っていないのも事実だった。




