姥捨て山と言われたわけ
スポンサーと言うのは、金だけ出して好きにやらせてくれるのが一番ありがたい。だが実際は金を出せば口も出して来るのが世間の常識であり、むしろ口を出したいからこそ金を出して来る話も少なくない。それこそが株式会社であり、株主が株を持っているのは利益を得ると共に会社の方針に口を出せるからだ。金を出したの分だけ会社も恩があるし、支えられているからお互い様と言う話なのだ。
ちなみに女性だけの町を取り仕切る誠心治安管理社も一応株式会社だが、上場こそされてはいるがほとんど株価が上がりも下がりもしないため預貯金のような形で用いられているとか言う話もある。第三次大戦の直前に買って大戦後値段が下がったと後悔し、損切りに走った結果逆に上がって痛い目を見たとか言う話も聞いた事があるがそれについては横に置いておこう。
だが、金も出さずに口だけ出すような人間はどうだろうか。
「内輪の利益を守る事に逡巡とするような金儲け主義者たちとは違うんです。岡目八目と言う言葉をご存知ですか」
外の世界の意見を取り入れてこそ人は変われる、組織だってまたしかりであり、いつまでも自分の世界に閉じこもっていては発展できないから自分たちが外の世界の風を吹かせてやっているのだと言わんばかりの上から目線でかつて私に語った彼女は、JF党に所属して議員となるも第三次大戦にて二人の女性を殺し「ましあほ」と言う四文字名を与えられて死刑になった。
彼女は第一次大戦の最中から前線で活動していた兵と言うか指揮官でありその界隈では有名人だったらしいが、その末路は全く笑えないそれだ。それこそ第一次大戦の戦犯となった人間と違って実際に人を殺しているし、それより何よりかつての同志であった存在を手にかけた。で、それに対して外の意見は
「あーあやっぱりな」
「価値観がアップデートできなかった奴の末路」
「内ゲバから抜け出せた勝ち組を妬んだだけの結果」
と当然ながら全く容赦がなかった。
価値観のアップデートとか言うが、実際「第二次大戦」は女性だけの町の住民の意識を大きく変えた。
弱音を吐けばオトコたちにバカにされるとばかりに気合を入れて踏ん張った女性たちは町を作るために戦い、取引以外でオトコたちを頼らなかった。その結果極めて自律的で強く前を向く人間になり、過去を振り返る必要などなくなった。そしてそれにより女性だけの町が姥捨て山から真の意味で「女性だけの町」になると共に、彼女のような女性たちに「女性だけの町」での居場所はなくなって行った。
それでもなお自分たちの力で世界の全てを変えようとした彼女たちはJF党と言う名の秘密結社を作り上げ、数年かけて既存の女性だけの町へと入り込み自分好みのそれに作り替えようとした。結果はご承知の通りであり、その時を持って女性だけの町は新たなステージへと進んだと言う声は多い。
曰く、第一次の敗北で道を知り、第二次の勝利で自信を得て、第三次の勝利で真のそれになった、と。
だが、「彼女たち」が絶滅した訳でないことはご承知の通りである。
ガードマンの皆様は今回も、彼女たちからしてみれば悪の手先以外の何でもない存在を守っているらしい。
「私たちも真剣にふざけてますけどね」
女性だけの町の存在は一時トムトムさんを含む参加者たちにいい意味での刺激を与えていた。
女性だけの町ではオトコたちになめられないようにというわけで規律が非常に厳しく、その事を知った参加者たちが自分たちもまた規則を守れと徹底したらしい。
まずコスプレ衣装のまま移動せず、到着してから着替える。順番はきっちり守り必要でない物を持ち込まない。体調不良者が出たらすぐさまお互いに助け合う。それらの約束を守り、平和で規律を守った祭典にすると言う目標を掲げた。
だが最近になり、どうも規則の弛緩が見られるとトムトムさんは言っていた。
「一応三次までになった大戦の歴史は私なりに研究もしました。でもその結果女性だけの町の形は固まったかもしれませんけど、それでも本質はそう変わらないと思います」
女性だけの町とも馴れ合いと言えば体裁はいいがどこか気の緩みが見え、彼女たちが未だに探し求めているであろう隙を与えてしまっているのではないかと言う指摘だった。
「女性だけの町」の本質が「男に頼らず自分たちだってできると言う事を示す」であると言うのは理想論と言うかお題目で、実際は「オトコに頼ると自分たちに取って不愉快な存在が入り込んで来るから」である事は創始者たちさえも認めていた。
厳しい教育も付け込まれる余地をなくすためのそれでしかなく、結局戦いは全く終わってなどいないのかもしれない。しかし、現状が良いか悪いかで言えば、どう考えても良いと言える。
「もう黙っててくれ」
結局、コミケの参加者の大半が求めるのはそれなのだ。




