買われない運命
「ダサピンク現象」と言う言葉がある。
「いかにも女の子が好きそうなものを取り入れてみました」と言う安直な思考で作られた物を指す言葉であり、言うまでもなく蔑称である。
商品など売るターゲットを見極めねば売れないのは当然の話であり、それを考えずに作った商品が売れるはずはない。まあ私の本は正直特にターゲットなど考えておらずとりあえず「女性だけの町」について確固たるそれがないので一冊物してみるかと言うかなり適当な気持ちで受けたそれだがたまたまバカ当たりしただけである。
「まあ半ば承知でやってるんでしょうけどね、いかにも女性だけの町の住民がある意味で好きそうに作ってるんですよ、そういう事は谷川さんのが詳しいと思いますけど」
「確かに……」
第一次大戦の時代からの歴史を調べるに当たり、彼女たちがもっぱらの敵として来たのがその手の女性だった。
煽情的であり、風紀紊乱であり、目の毒であり、教育に悪影響である。そんな言葉を並び立てて排除を願い、公共の場からの排除を求めた。不謹慎ながらもし殺人未遂事件がなければ、その戦いは成就し今頃このコミケすら存在していなかったかもしれないと言う理屈で皮肉を込めて殺人未遂犯を英雄視する人間もいるらしい。
だが現実にこうしてコミケは未だに行われているし、彼女たちは未だにその手の女性に対する暴力行為をやめていない。
いや、暴力行為と言うより、もはや儀式なのかもしれない。
女性だけの町へと移住する人間たちの内、第二次産業に従事して儲けようとする存在が増えたのは最近である。それ以前は男性嫌悪及びこの手の文化を嫌悪するゆえにそれらのない女性だけの町へと逃避しようとしてと言うケースが多く、その手の施設はほぼ彼女らの請願で建てられた。と言うか町を作ろうとした動機そのものがそれなのだからできるのは当たり前だと言う意見も多く、実際あのアングラ施設がアングラ施設になったのは第二次大戦の末期らしい。
そしてあの施設では、現在進行形でコミケとか言う敵地で得た情報を盾にダミーが作られては殴られるを繰り返しているらしい。その施設の利用客は観光客・移住して一年未満の存在・それ以外で2:1:1に分かれていると言う。ただし私が取材したのは南側の観光客が多い地域だったのでそうなっているらしく北側だと1:2:1になっているとも言う。
そしてそのための費用は、恐ろしく安価だった。
「萌えるゴミとはよく言った物です」
「吸い取ったら捨てるだけですからね」
言うまでもないが同人誌の値段は安い。正規品と言うか公式の本を買うより安いし、好みと言うか用途がはっきりしているので無駄がない。その無駄のない本を買い上げては、自分たちのターゲットにして行く。
時に公式の本を買う時もあるが、それは我々の世界で言う所の18禁のエロ本扱いか外部の世界を学ぶための大学の教材にするらしい。そう言うのが流出して勝手に売り捌くのは「禁書犯」と言う犯罪であり、いわゆる海賊版のそれを作ったと言う扱いとなり四文字名を与えられる。それは他の本でも同じだが、そんな中でも「輸入品」であるそれはかなり高く売れるらしい。もちろん禁書犯は印刷した人間、撃った人間だけでなく禁書犯と知って購入した人間も罪になるがそれを摘発するのは正規ルートがある以上難しく「年齢制限」で裁くしかないらしい。と言う訳で所持者が十八歳以上になるとお手上げに近く、現在進行形の社会問題の一つになっているとも言う。
だからこそ、同人誌は都合がいいのだ。
「良い作品は何十通りの楽しみ方が出来る、一通りの楽しみ方しかできない存在はそれ相応の価値しかない。ってよく言いますけどね」
「確かに、そのやり方だと一通りだけであるのは相当に好都合ですね。仮に流出したとしても」
暗黙の了解と言う訳でもないが、女性だけの町にもトムトムさんのような同人作家にも、何より出版社や漫画家などに取っても都合のいい形が現状のそれなのだろう。
彼女たちがそれで満足している限り、外の世界に手は出さない。同人作家たちもある種のなれ合いめいた作品を出して適当に遊びながら、やはり半ば承知の上で捨てられる事を楽しみに待っている。
実に好都合なプロレスであり、言葉はやや悪いが馴れ合いなのだ。




