「女外」
「容疑者は報酬として、ゲームソフト一本を与えるつもりだったとの事です」
小学二年生の息子を全裸にさせ空き地に放置した一人の母親が、逮捕された。
そのゲームソフト一本の値段は、新品でも七千円。
一日八時間アルバイトすれば楽々稼げる金額だ。
とても、人生を賭けるような金額ではない。
それをやらせていたのが、ただの主婦だったと言うニュースは、朝六時から始まったニュース番組の七時半になってようやく流れた。
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●月19日(水曜日)
いずこのどこかさん
あまりにもやり方が拙劣ですね
石ころ
私も言いたい事はわかるんですが……
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保護責任者遺棄罪で逮捕された容疑者の女性に同調するような発言をしている事など、工場の同僚はおろか夫さえも知らない。
それでも本音をのびのびとぶちまけられるその環境が、彼女にとってのオアシスだった。
(邪魔者はいなくなった、と言うか邪魔者を捨てる場所は出来たから邪魔するんならあっちいけ……?どれだけ私たちと子どもたちを馬鹿にしてるのよ!
何なの「女外」って!)
数年前に流行語大賞の候補に「女外」とか言う言葉が候補に挙がった事については女性だけの町からも抗議声明が入ったほどだが、実際その手の女性を受け入れるだけの余裕は女性だけの町そのものにもなく、またその抗議声明を出したのがかのJF党が第一党だった時代にJF党の党首が勝手に女性だけの町からの名を使って出したそれであり現在では女性だけの町からのそれではなくJF党の抗議声明と言う扱いになっている。そのJF党が今どうなっているかを考えれば説得力は推して知るべしであり、現在では「女外」はJF党の事を指す言葉ともなっている。
なお「女外」の本来の意味は「女性だけの町ですらお断り」と言う物であり、女性差別の極みのような言葉である。しかし「男外」と言う言葉は作られたようだが流行る様子はなく、まれに使われる事があっても女外とセットだった。
ちなみにその流行について私のせいだと言われた事もある。私の本が売れた結果女性だけの町が第二次産業の支配する町だとわかり絶望した女性たちが行き場を失ったとか言われ「女外」される対象になったと言う次第だ。
そして多分それは、間違っていない。
「——————————テレビでやってるから——————————
と、言わせようとしたとの事です」
そう言うように容疑者は息子に言い聞かせていたらしい。
そのアニメでやっているから、実際にやってもいいんじゃないかって。
もちろん言い付けを破ったらゲームソフトは買ってやらない、それどころか飯も作ってやらないと言われたらしく、まだ捜査中ではあるが虐待の罪も付け加えられる可能性もあったと言う。結果的にその事実が確認できなかったためそれについては問われなかったが、容疑者の女性は離婚・親権はく奪・養育費支払い義務+前科と言う事態に陥り文字通り全てを失った。
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●月19日(水曜日)
いずこのどこかさん
こういうことをするせいで抗議をするような奴は頭がおかしいとか思われるんですよ……
石ころ
そしてなお過激化する…負の遺産を掘り起こしてもっともっとなり、取り返しのつかない所まで行ってしまう……ああ!ああ!
いずこのどこかさん
千丈の堤も蟻の一穴より崩れる……あー、一穴どころじゃなく百穴ぐらいありますね!ああもう!!
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第一次大戦の敗戦をもたらしたのは、一人の女性である。
彼女のせいで真っ当な活動をしていた戦士は末端の兵士たちから逃げ出し、中核の者たちは切り捨てようとしたが間に合わず、戦争は敗北した。
なればこそ志を受け継いだ存在は決して暴力に走らず、内部の暴力を極めて厳しく取り締まり、一つの自治体を作り上げた。
それが女性だけの町であり、その町内では男性的な悪だけではなく女性的な悪でさえも徹底的に取り締まられ、小学生でも刑務所に入れられる世界となっている。過酷な教育であると非難する人間もいるが、彼女たちにとってはそれこそ戦争が継続しているような物であり少しでも隙を見せる訳にはいかないと言う事なのだろう。
そしてそれは女性だけの町の存在を重くし、ハードルも高くした。その事に失望した存在たちは絶望したり、また別に動いたりすると共に、自分たちの正義によって動こうとしたりした。
その結果、この手の犯罪はそれほど珍しくもなかったのだ。




