表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第四回 史上最悪の手段
35/96

1.1%の集合体

「もしこの結果が真実だとしたら、それこそ皮肉と言うより他ない。


 かつてある名作家は「天才の書いたものはワインであり、私の書いたものは水である。そして皆水を飲む」と言う名言を残したが、あるいはそのグルメたちからしてみればその水さえも不味いのかもしれない。不味いから淘汰しようとし、それこそ全く味のない水を美味い美味いと言って飲もうとする。

 そんな美食に付き合わされる趣味など、一般大衆にはない—————。

 その作家は同時に「噓は三種類ある、嘘と大噓と統計だ」とも言ったが、あの時以来数字が上昇した事実は決して嘘ではない。原点回帰とか格好いい事を言うつもりもないが、少なくとも彼らの決断がそれほど間違っていた訳ではないと言わざるを得ないのも事実なのである。」




 新聞に載っていた一説と、視聴率と言う名のデータ。

 彼女の心をささくれ立たせるには十分な文字の列だった。


 新緑の広がる原野を見ても、きれいな花がないのかとか便利なお店はないのかとか文句を付ける事は出来るように、誰からも文句の付かない絵面など存在しようがない。

 人間が欲深いのは周知の事実であるが、ただこれまでがその方向に傾いていたのが逆転しただけであると言う認識については個人的に待ったを唱えたい。


 女性だけの町の存在は、時代を巻き戻したのではない。変えたのかもしれない。

 そう断言する事は出来ないが、それでもこの原点回帰路線の成功は、今彼女を責め立てているそれに限った話でもなかったのである。




※※※※※※

Q:現在の路線で行った場合、子どもに見せたいと思いますか


是非見せたい 15.3(%)

どちらかと言えば見せたい 53.2

どちらとも言えない 10.8

どちらかと言えば見せたくない 13.3

絶対見せたくない 1.1

無回答 4.3

※※※※※※




 これは今彼女を焦燥の中に包み込んでいるそれとは別のある国民的アニメの、路線転換と言うか原点回帰に対するアンケートの結果だった。




 ————————————————————1.1%。実に残酷な数字だ。




 無論1つのアンケートを鵜呑みにする事など出来ないが、それでも98.9%は心からの拒否しておらず、前向きな回答だけでも3分の2以上である。

 それこそ半世紀近く向き合わされて来たそれの急な方向転換について行けなかった人間の数の少なさを示すには十分な結果であり、彼女もまたその方向の人間だった。


 もっとも1.1%と言うのは小学校一学年三クラスと言う事で行けばひとりぐらいはいると言う意味でもあり、数ほどに奇異な存在でもない。だがそうして育てられた子供は共通の話題を持てず話しても面白くないしそれゆえに孤立する可能性も低くなくまたその結果からかとんでもない事件を巻き起こした例が存在する以上、余所の親からしても危険分子と言う烙印を押されかねない。危険から遠ざけた結果危険物呼ばわりされると言うこの上なく本末転倒な現実は、それこそ数多の親が向かい合わされて来た問題だった。




 だが、民主主義とは何か。

 それは多数決であり、自分の望む意見に一番近い存在に政治の権利を取らせるために動くのが民主主義だった。その結果、どうしても多数派にとっての問題が優先され少数派のそれは置き去りにされる。もちろん歓迎すべき話ではないが、所詮1.1%の問題は1.1%の問題でしかないのだ。

 100人の視聴者の中の一人だけのクレーマーの言う事を聞いていたら前には進めない。それこそ元々がそうであるからと言う絶対的な免罪符を盾に、誰も彼も止まろうとしない。



「原作を無断改変した結果…」



 開き直るように、マスコミも自己反省と言う名の攻撃に走る。かつて無断で原作を改変しようとした結果原作者が自殺すると言う痛ましい事件について延々と取り上げ自分たちの腐敗を見せ付ける露悪趣味を発揮すると共に、無駄に干渉して変化しようとすればこうなりますよと見せ付けている。

 表向きには事件からちょうど幾年となっているが、彼女にはそうは見えなかった。




 1.1%の彼女には、だ。




 当然その番組すらもよく思っていなかった彼女は息子が視聴を望む際に首をなかなか縦に振らなかったが、結局お手伝いの時間を増やして視聴を認めた。


 そんな彼女のテロ行為が「第一次大戦」を敗北へと導き、「第二次大戦」を巻き起こした事を、彼女は忘れていた。




 いや、彼女たちはだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ