割り込む「男」?
「詐欺事件が発生しました。
容疑者はこのやり方ならば一日百円儲かると言って実際に配当を振り込み、数千円、数万円と配当を配った所でさらに巨額の投資をさせそれを以て逃げたと言うのがやり方のようです」
詐欺の手口はそれこそ山のようにある。それこそ警察と詐欺師のいたちごっこであり、人類が滅ばない限り永遠になくならないかもしれない。いや、人類が滅んでも野生動物がイカ墨のように騙し合いと言う名の生存競争を続ける以上、広義の意味での「詐欺」は消えようがない。
当然だがそのニュースに彼女は胸を痛め、深くため息を吐く。
「ねえあなた、ニュース見た」
「どのニュースをだ」
「詐欺のニュースよ、美味しい話を出しておいて一気に引きずり込んでいくって言う」
「ああ知ってる、投資とか言うにしても悪質だよな。取引先にもいたよ、確か少ない所で逃げたから損害は少なかったどころかむしろプラスだったらしいけどな、申し訳なくなって警察に言って、それで孤児院に全額寄付したらしいな」
蟻地獄から逃げ切れた所で、後ろめたさは抜けない。あぶく銭と言えばそれまでだが、文字通り身に付く事はなくすぐ消える。誰も幸せにならない話だ。
「でもさ、信じ込まされて何百万と注ぎ込んじゃった人いるんでしょ、被害総額が億単位って事からして」
「だな。素早く逃げた奴への損害は知った事かって話でさ、それこそ有能なカモだけを集めてた感じでさ」
「厄介よね」
実際この詐欺事件では「被害者」の数は勝ち逃げに成功した人間よりずっと少なく、その代わり被害者から得た金額の方が勝ち逃げした人間に渡したそれよりずっと多かったと言う。それこそ少数精鋭と言うか少数のカモを捕まえて美味しく食べてしまえばそれでいいと言う事だったのだろう。
「どこにでもあるけどな、最初だけいい事言って後は…って。今度温泉でも行くか」
「まさか釣った魚にエサはやらないとか言われるの気にしてる訳?私はいいのよ、私は」
「そうか。まあなんか不満があったらすぐに言ってくれよ、俺も言うからさ」
「じゃあトイレで大きなオナラするのやめてくれる?その後入りにくくてしょうがないのよ」
「それは…他にどこでやれって言うんだよ…」
「冗談です、お互い様ですよ」
笑い声をあげながら語り合う中年夫婦の姿は、実に理想的であった。
そしてそのまま夫は風呂を温め妻は今日のニュースを息子に話に行き、その後でゆっくり語り合う。
そこに、何の問題もなかったはずだった。
●月13日(木曜日)
石ころ
いずこのどこかさんさんと話していると、すごく楽しくなって来ます。毎日カネのためだけに働いている自分と違って、社会のために動いているんだなって
いずこのどこかさん
そんな大げさなつもりはありません。あくまでも私は子どもの事を考えているだけです。子どものために与えるべきものは与え、弾くべきものは弾くと考え、実行しているに過ぎません。皆さんでもできる簡単な事をしているだけです
石ころ
私はちっとも実行できません、少しでも動こうとすれば今までの全てを失う気がして
いずこのどこかさん
別にいいのです。もし理解してもらえなければそれまでの人間に過ぎないのですから。石ころさんを含む他者の苦悩を分かり合ってこその世界だと言うのを忘れてしまうような存在がどうなるか、それこそ孤立無援に陥り肝心な時に誰も助けてくれなくなると言うのに!
石ころ
で、今週の土曜日も息子に見せてもいいのでしょうか
いずこのどこかさん
構わないと思います。その上で一緒に見た上でしっかりと内容を覚えておきましょう。そうしないと子どもにしっかり指摘されてしまいますから。子どもは得てして覚えている物です
石ころ
敵を知り己を知れば百戦危うからずですか
酒もわずかしか吞まないしブランド物も欲しがらず、アルバイトも真面目にやる主婦。
そんな存在でもストレス発散は必要であり、スマホを握って離す事はしない。
光毛太郎
フォロー外から失礼します
そこに割り込んで来る、明らかに男としか思えない名前。
プロフィール欄に
「世界をなんとなく眺める3×歳独身。今年の夢はデザインしてくれたキャラに皆さんが一千万課金してくれる事」
とか書かれている上に、アイコンも思いっきり目の大きな美少女の絵。
石ころ
何?
光毛太郎
すいません、ちょっとフォローさせてもらいたいと思いまして。どうかお願いいたします
石ころ
ダメ
彼女は口では何も言わないまま、「です」すら打たずにブロックした。
どうしてそんな人間が楽しいおしゃべりの最中に突っかかって来たのか、空気を読めとしか言いたくないしなんならそれすらも面倒くさい。
石ころ
すいません、ちょっと邪魔が入っちゃいまして
いずこのどこかさん
それでも話ぐらいは聞いてあげても良かったのに
石ころ
でもいかにもこちらを馬鹿にしている感じでしたから、何かけばけばしい絵なんか貼り付けて
見ているだけで違和感の塊のような、実在を拒むかのような絵。
どうせそんな連中だと思うと同時に敬語を使う事もブロックをする事もためらいがなくなり、手を勝手に動かす程度には彼女は鍛え上げられていた。




