夢破れども、腹は膨れる
あとがき及び活動報告にて年末年始のお知らせを行いたいと思います。
スパルタとも取れるほどの教育を受けた女性だけの町生まれの人間の中でも最上位層に入る存在が意欲を込めてくぐろうとする狭き門を、外でのほほんと過ごして来たにわか仕込みの人間が潜るのは非常に難しい。
そんなわかりやすい理屈に阻まれてしまう外の世界の女性たちは、現在進行形で増えている。別に外の世界だからと言う差別はないが、それでも年間数名の中に入り込める人間の数は知れている。
実際この二十年で外の世界の人間が建築会社に就職できた人数は両手の指もおらず、現場勤務となるとそれこそ三人だけだった。もちろん水道工事とか電気工事とかも含めれば少し数は増えたが、それでも両手の指ギリギリだった。これから女性だけの町で一攫千金を狙おうと言う俗っぽいながらそれなりに崇高な志を持った女性は増えるだろうが、所詮有限の枠を争う以上敗者はどうしても出る。
その敗者である彼女たちの行き先は、決まっていた。
「強いもんだよ、いろいろとさ。こちとらそれこそあっちこっちを渡り歩くような下請け企業だからフットワークは軽いし。しかもそれこそ腕一本でどうにかなるような仕事だしな」
先ほどの建築会社の現場監督の下にも、その敗者たちが結構な数集まっていた。いずれはとか今度こそはとか考える野心的なそれもいれば、女性だけの町のレベルの高さに打ちひしがれた正真正銘の敗者もいると言う。
ただ彼女たちは強く、そしてたくましかった。前者は前者で技を身に付けて再び自分たりを売り込んでやろうと熱心であり、後者は他に生きる道もないと割り切れていた。他に資格を取り電気技師や配管工を目指し、次々と女性の存在を広げようとしていた。
だが男女差別と言う訳ではなくその他諸々の真剣な理由で女性を受け入れにくい職場は少なくなく、資格自体が男性限定と言う話さえもあった。女性だけの町でそれが許されているのは「女性だけの町」を完璧な女性だけの町にするためのそれでしかなく、男性がそれをできるならば女性が立ち入る必要はなかったと言う次第だ。
(彼女たちの罪の重さは深い……)
当然本来の意味での女性差別をなくすべく資格の変更を求める運動もあったが、第一次大戦の一件で女性差別反対運動は危険視されてしまっており、その手の人間の中で中核であった存在が女性だけの町を作る方向に向いてしまったためまともな志を持った存在は残っていないと見なされてしまった。
女性の権利拡充ではなく男性の権利縮小を求め、同じように喜べではなく同じように苦しめと言っている。そんな風に見なされた存在に味方するのは、正義の味方気取りの人間か同じように歪んだ志を持った存在かさもなくば何も知らない人間たちだけだった。
現在進行形で起きている、女子たちの工業高校ブーム。
面白い人が集まって面白い事をするから枠が広がりコミュニティは拡大し、そこにやって来た来訪者が居付き自分たちの居場所を確保するために開拓者より声高に主張を行うが、それがたいていの場合開拓者のそれとずれており開拓者の反発を招く。その結果来訪者たちが数の力で開拓者を追い出して自分たちのそれだと主張するが、それは開拓者の存在や理念に憧れてやって来た存在の離反を招きコミュニティを衰退させる—————。
とはよく言うが、その中で開拓者が「来訪者」を抑えこみ、凌ぎ切ったのが女性だけの町だとも言われている。
JF党を「ある種の勝手な詐欺被害者」と言った学者さんもいたが、その自称詐欺被害者たちは今の工業高校ブームをたぶんよく思っていない。
当たり前だが、建築現場は実に男くさい。
若い男から中年男性まで皆筋骨隆々であり、それ以上に薄着で筋肉が透けて見える。もちろんそれに魅力を感じる女子も多いだろうが、言うまでもなく汗臭い。制汗スプレーなんぞ使うぐらいならスポーツドリンクでも口に突っ込んでいた方がマシと言う職場であり、しかも金属に触れまくるもんだから夏はやたら暑い。
そんな所に女性がいる事自体、残念ながらどうしてもどこか不自然だ。これが配線工事とか配管工事ならばまだ少しは不自然さも解消される気もするが、それでも紅一点の元ネタとなった「花」が似つかわしい光景ではない。
女性だけの町の開拓者たちがその不自然さに抗おうとするのに対し、JF党はその不自然さを自然だと思っていた。
それが決定的な違いであったと筆者は見ている。
とりあえず彼女たち工業高校ブームの中の女子高生・女子中学生たちが今後、現在取材した工事現場にいるような、男に交じって熱心に働くような存在になる事を祈るばかりである。
何より、私が未だやっていない事をやろうとしている女性さえもいると言うから。
年内の更新は本日をもって終わりとします。
来年はこれまで通り一月四日から「戦国霊武者伝」と「「女性だけの町」の外側からを交互に更新します。
よいお年を!




