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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第三回 外の世界での「女性だけの町」の教育
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それでもハードルは高くて

「キャリアアップだか何だか知らねえけど、最近やけに女が多くてね。それで目一杯現場を学んでその力を精神なんとかかんとかって所に売り込んでやろうってさ。

 何、あっちの現場監督様に似てるって?もちろん女だよな、ハッハッハ、結局似ちまうんだな同じ人種だからよ、あ、このハッハッハっての入れてくれよ」


 彼女たち工業高校上りや中卒女子が多数籍を置く建築会社の現場監督は、そう両手のひらを上に向けながら笑っていた。

 いかにも現場一筋の親方様と言う言葉が似合いそうな、髭面の男性。この腕一本でやって来ましたと言う高校卒業すらしていないと自称する彼は、ガテン系女子があふれる現場について語ってくれた。


「まあこの業界も万年人手不足でさ、昔はそれこそ体で覚えろとか言ってたけど今じゃみんなどうしたらいいですか教えてくださいってさ、それで下手にがなろうもんならそれこそパワハラ上司扱いよ。

 まあそいつは男も同じだけどさ、そんで丁寧に教えてやったらすげえ真面目なんだよ。打たれ弱いとか言うけどそんなの嘘だね、それこそ集中力が凄くてさ、決められた時間ずーっとやってるんだよ。俺らが適当にサボってるのに。まあチェックはするけどさ、そこをじーっと見てるんだよ」

「熱心なんですね」

「仲間の中にゃどうせ腰掛けだろとか金、金、金とか言う奴もいるけどさ、そんでもああやってダラダラしねえ姿勢はうかがいてえよ。ま、それこそ四六時中馬車馬をやるぐらいなら労働時間全力でぶっ飛ばして終わらせてやろうって腹なんだろうけどさ、向こうでもそうなのかね。富裕層様はよ。その時ボンボンだった俺なんかにはわからねえけど」


 いかにも現代的な労働問題について語りながら笑う彼の顔は実に楽しそうだったが、最後の富裕層と言う言葉にはどこか悲しみがにじんでいた。

 自分はその時には現場入りしたばっかりの右も左もわからない小僧だったが、上のお方たちと言うか経営担当のお方たちは歯噛みしていたと言う。



 そう、彼の会社も女性だけの町を作ろうと金以外の下心なく売り込んでふられた会社の一つだったのだ。

 この史上最大級の公共事業に外の世界のありとあらゆる業者がこぞって手を挙げたが、どの要請も受けようとしなかった。結局一番儲かったのはクレーン車などの工事用品を作るメーカーとコンクリートや鉄筋などの資材を提供したメーカーであり、業者は女性の従業員をわずかにアドバイザー役として派遣するのがいっぱいいっぱいだった。



「その名残か知らねえけどさ、今でもあそこでは俺らこそが一番金稼げる仕事って事になってるらしくてな、まあ需要と供給のバランスって奴なんだろうけどさ。

 でもよ、あんたならわかるだろ?あの町はよそ者を歓迎するのか?」

「しますよ。ですが正直な事を言うと、建築業者は町中の子どもたちの憧れのヒーローとなっていて、それこそ将来の夢第一位です」

「あっちゃー……」


 私の伝えた事実は、それなりに残酷ではあった。

 別に拝金主義でもないしましてや排外主義でもないと思うが、女性だけの町の中でのイメージ戦略もあって建築現場の作業員は子どもの憧れの夢になっていた。同じ高給取りでもゴミ処理やトイレ掃除などは人気があまりなく、配管工事などから比べると金目当ての職業と言う扱いだった。

 女性だけの町では勝敗が争いを産むためかスポーツの発展も鈍く、元よりアスリートと言うそれは存在すらしていない。その才能をそっちに使えばとか言い出すのは外の人間ばかりであり、女性だけの町の人間はまったく関心がない。時々外の世界に追放されてこちらの町で生きる人間もいるが、彼女らがそちらに関心を持つ事はやはりなかった。見るのすら興味がないと言う人間が多く、正直また何十年単位でその種を育てないとそちらの方向には向きそうもない。麻雀や将棋のような卓上ゲームですらなあなあで終わらせるのが美徳と言う町で、コンマ一秒や一センチを争うような世界は普及しようがないのだろう。


 とにかくそんな風に才能ある存在がこぞってそういう方向に流れてしまうため、建築会社や配管工事を行う会社の求人倍率は何十倍単位だった。

 その中でも選ばれた存在が現場担当となり、やや落ちる存在が後ろで数字を数えている。両者の給与の差は大きく、後者は常に前者になる事を狙っているとも言う。ただ足の引っ張り合いはなく、あくまでも筋トレや意欲を示すなど合法的理由によってのみの自分の希望を叶えんと欲している健全なそれがある。

 こう書くと美しく聞こえるが、小学生の段階から決まりを破れば刑務所行きとか言うルールがある事を聞かされたその親方が笑っていない目をしながらHAと言う音を五つ吐き出した事が全てであろう。


 外の世界の人間が戦う相手とは、そういう教育を受けた精鋭の人間なのだ。

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