工業高校に、花咲き乱れ
女子校が女子校なりに女性だけの町についてあれこれ話していた一方で、共学校と言う名の良くも悪くも公立小学校の延長線上でしかない場所にいた女子生徒たちは、同年代を含む男性の実態をある程度以上知っている。
そしてその分だけ、同年代の女性に対して疎くなってしまう。
ついさっき言った事と矛盾するが、女性だけの町について関心が高いのはどちらかと言うと女子校の方だ。だが、真剣に語られるのは共学校の方だった。
中学生及び高校生がいかに多感であったとしても、まだ子どもだ。
良い子悪い子普通の子とか言う古めかしいコントでもないが、まだ親の言う事を素直に聞く子どももまだまだ多い。第二次反抗期が来たとしても、その流れでそんな人生を決めるような段階の決断をするような子どもはやはりまれだ。
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「でさー、女だけの町ってあるじゃん?それが昔はさんざん無理無理って冷やかされてたって授業」
「人間何でもやればできるよねー、でやりたい?」
「やりたいって、私に作れって事!?無理無理、だってそれってそれこそこの校舎よりでっかい建物を何十何百個って建てなきゃならないって事でしょー」
「やだもう、私らがじかにやる訳じゃないんだから」
「じかにやるんだけど」
「うわあ…私もパスー」
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こんな会話で流される程度には、共学校の中での女性だけの町の地位は高くない。
男子生徒たちも
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「スポーツ女子の姿ってかっけえよな」
「そうだよな、お前とはえらい違いで」
「僕は成績がクラスで二番だし!」
「わかってるよ、っつーかああいうとこで働く女の人の汗ってどうなんだろうな」
「僕みたいなんじゃない?」
「確かにそうかもな、遠目だと輝いてきれいだけど実際は俺らと変わんねえかもな、実際制汗剤とか付けてなきゃそんなに変わらねえと思うぞ」
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こんな調子である。
無論男の視線があるからこそ女子生徒も美容に気を配るとも言えるが、身近に汗臭さを遠慮あるなしにせよ垂れ流す存在がいるからこそそれらの仕事が大手を振って歩いている「女性だけの町」に対して過剰な期待を抱かなくなり、多くの生徒がそれらと関わらなくても別にいいやとなる。
だが、「意識した者」の思いは違った。
もちろん、「意識した親」の思いも、だ。
「嬉しい悲鳴と言いますかね」
ある私立工業高校の校長がまんざらでもない様な笑顔を浮かべていた。
高校と言っても私立である以上企業であり、経営の問題は存在する。それこそ、倒産とか言う事態にならないとは誰も言えない。校長は別に経営責任者ではないが、それでも学校の評判を左右し経営状態を左右する存在である事は間違いない。
入試倍率の高さは入学希望者の多さと等号であり、倍率が高ければ高いほど人気があると言う事だ。それこそ定員割れとか言う話も少なくない中、この工業高校の受験倍率は数年連続で三倍以上である。
工業高校=低偏差値と言うイメージがいつ付いたのかわからないが、少なくとも工業高校=男子校と言うイメージはかなりあった。実際男子校である工業高校はかなり存在したし、でないとしても工業高校に入って来る女子は高嶺の花扱いだったと言う話は枚挙に暇がない。女子校の生徒から紅一点である事だけが価値の存在だとか言われる事も多かったし、工業高校の生徒たちもそう自嘲していた。
だがここ数年、工業高校に入る女性がつとに増えていた。さすがにいかにもな美人なんかは来ないが、それでも紅一点が当たり前だった教室が、紅六点ぐらいになり、現在では紅十五点ぐらいになった所もあるらしい。
要するに10:1だったのが、1:1になったと言うのだ。私が取材した先はその1:1が実現した学校であり、それこそこの工業高校バブルとでも言うべき流れに乗っかっている最中だった。
言っておくが、ちゃんと女子トイレもあったし、女性用の更衣室もあった。ただ知っての通りの比率だったので専用の部屋となっていたか、男子が構わず使うとかしていたらしい。
「言っておくけどな、これがある意味本来の姿なんだ。せいぜい人並みに恥じらいを持つ事だな、ここは男子校じゃねえんだぞ」
とか教師に注意されても構わず部屋を使ったりパンツ一丁になったりする生徒もいて注意もされたそうだが、そんな光景もいずれなくなって行くのかもしれない。
ただ個人的に気になるのは、親に言われて入って来た存在の事だ。
彼女たちの親はおそらく、子どもの事を大事に思っている。言っておくが女子が大量に増えたからと言って、偏差値が上がる訳ではない。それこそ大学とかに行くような研究者畑の人間はともかく、多くの人間は高卒で潰しがきく存在として育てられるために工業高校に入る。それこそ、一攫千金を狙おうとか言う発想にはならない。
だが、生徒たちの意思がどうかは別問題だった。




