JF党
JF党。
「もしJF党が政権を取っていたら、女性だけの町は十年で破綻していた」
「JF党に政権を取らせないと言う時点で、民主主義は極めて健全に機能している」
「ただそれでも第一党にした時点で、民主主義と言うか民衆がいかに移ろいやすいか思い知らされた」
そんな風に内外問わず言われている、女性だけの町の歴史上最悪の「テロ組織」。
女性だけの町の選挙制度を変えてしまう程度には、影響力のあった組織。
それまで二百議席一括総選挙だったのが、百議席三年ごとに交代になったのはJF党のような組織を出さないためと言う事になっている。なお二院制にしてそちらを同様の仕組みにすると言う案もあったがそちらは廃案となった。
そのJF党の政策は、ひどく大衆迎合的だった。
女性だけの町において低所得者層に当たる第三次産業従事者への優遇税制を約束、と言うか第二次・第一次産業への補助金の減少を行うと約束し、彼女たちの票をかき集めた。
曰く「我々はそんな事のために女性だけの町を作った訳ではない」、と。
実際、多くの移住者たちはそうした気持ちを抱いていた。
外の世界の連中に揶揄されたような—————オトコに全部作らせてその恩恵に預かってぬくぬく暮らすような事を求めている連中ばかりが住む町—————と言う存在を夢見ていなかった人間がどれだけいたかについては記述を差し控えるとして、何も知らないで入った人間からしてみれば第一次産業はともかく第二次産業が天下を取るような「男くさい」町だと想像するのは難しかったかもしれない。
しかしそれはずいぶんな言い方ではあるが勝手な思い込みであり、女性だけの町と言うブランド名にあっさり飛びついた罰であるとも言える。
その頃には既に私などが解説するまでもなく女性だけの町の実態はある程度以上広まっていたはずであり、と言うのがあるいは間違いだったかもしれない。
女性だけの町は、元からそんなに公開されるべき場所ではない。
それこそ隙を見せればすぐさまオトコが襲い掛かって来ると見なして作られた場所だから、資材の受け渡しなどもかなり遠くで行われた。無論海があると言う事である程度の場所は絞られたが、それでも大々的に場所を公開したのは完成度が90%に達してからだった。その時には防衛システムと言うべき電磁バリアと電波塔が完成しており、もはや大丈夫だと言う目途が立っていたのだろう。
その頃になってようやく、新たなる移住者の希望がかかったのだ。
彼女らは当然、出来上がりかかった町を見ている。
「誰かが作ってくれた町」を。
企業も、インフラも、食べ物も、女の子が求める多くのそれが揃っている、清廉潔白で気を遣わずに過ごせるユートピア。
そう見えてもおかしくはなかった。
だが実際に中に入ってみると、そこは第二次産業が支配する汗の臭いのする町。たまにそうでない産業で富裕層になろうとしても、ゴミ処理とかトイレ掃除とかそういう仕事ばかり。ご承知かもしれないが女性だけの町では公共サービスとでも言うべきゴミ処理も第二次産業扱いされており、それこそ第二次産業が支配者層と言っても過言ではなかった。
——————————こんなはずじゃなかった。
そう彼女たちが考えたのは自然であったが、同時にどうしたか。
多くの人間がそれでもここまで来たからと覚悟を決めて女性だけの町に適応する事を選び、大半の人間が低賃金の第三次産業へと従事する事となった。
無論第一・第二次産業の求人もあったしそれ相応のスキルの持ち主がいない訳でもなかったが、その数はごく少数だった。と言うか、そういう人間はこの時既に女性だけの町に抑えられていた。
古参が新参がとか言う話ではないが、実際に汗水流して舞台を作り上げた存在はどうしてもその舞台に上がるだけの存在より偉く見られてしまう。実際に舞台を作ったり直したりすればたちまちそちらに行けるとか言うのは簡単だが、全くそのつもりがなかった身としてはあまりにも急な方針転換と言うか予想外の事態に適応できるだけの力はなかった。
そして少ない方の人間は適応できないと考え泣く泣く元の世界へと戻り、女性だけの町についてある事ない事言い触らした。
もっとも情報社会のご時世である以上その手の人間は虚偽を流布したとして蔑まれ、相手にされなくなって行った。
もちろんそんな泣き言を言わずに帰って来て元の状態に戻った人間はいたが、彼女らは軽蔑こそされなかったが自分自身の中での絶望は膨れていた。
——————————もしかして女性が町を作ろうとするとああなってしまうのか。
ならば結局、何もかも無駄ではないか。
その失望が彼女らの多くから気力を奪い、少数の存在に気力を与えた。
女性だけの力で町を作るのが無理だと言うのならば、今あるそれを変えるしかない。
本来の、あるべき姿にしなければならない。
これが、「JF党」の原点だった。




