「第三次大戦」から
「自首」と「出頭」と言う言葉がある。
別に犯罪を犯したわけではない。
どちらも俗語、いわゆるスラングであり正式名称は「自己逮捕」であるが、今日日そんな用語を使うのは警察官だけらしい。それもまたいかめしいと言うか重苦しい単語だが、そんな重苦しい意味は何もない。
包み隠さず言えば、「生理」の事だ。
ご存知の通り女性だけの町では子どもは「産婦人科」で冷凍保存された卵子を産ませて手に入れる物であり、生理など全くの邪魔でしかない。
そのためか生理用品は女性だけの町においては高級品とまでは行かないがそれなりに敷居が高く、そんなもんを使うぐらいなら警察署行けとなる。当然その日は仕事出来なくなるが、それを許す程度には女性だけの町の職場はホワイトである。と言うか、それができない職場は淘汰された。一説にはそんなブラック企業を吸収しまくって誠真治安管理社が出来上がったとも言われているが、いずれにしてもその問題を解決する事によって女性だけの町は発展したのは間違いなかった。
だが、その事が気に入らない人間もいる。生理用品を作る会社の人間が製品を売り込もうとして失敗して非難しているとか言う益体もない揚げ足取りもあったが、実はそれが正解だったかもしれない。
女性だけの町と言うのは、言うまでもなくビジネスチャンスだった。世界で初めてと言うべき特異な存在に向けて、様々な「女性向け製品」をあちこちの会社が売り込みにかかった。だがその多くが当てが外れ、精神治安管理社のグループ企業によってただの仕入れ先と化すか徹底するかのどちらかを強いられた。女性だけの町のコンセプトは「オトコがいなくても生活に不自由などない」であり、商取引だけならばオトコでも女でも出来る。町を作る時でさえ男手ゼロで機械や資材などを買っただけである。それらの結果が、住民の質に大きく変化をもたらしたと言う指摘も存在する。
元々は揶揄されるような存在であったはずの人間たちが自ら町を作ると言う作業に触れた事により変質したとしたら、それは幸福なのか不幸なのかはわからない。実際にこの町を作る作業の最中に「脱走兵」が多く生まれ「戦場」の過酷さと上層部の強権ぶりを訴えたが、それらへの反応は実に冷たかった事は知られている。
女だけの町をオトコに頼らず作ると決めたくせにオトコに頼るなど情けない、それなら最初からしなきゃ良かったんだと言う理屈。しかも上層部は強権ではあったが決して過剰ではなく、職場そのものはむしろホワイトであったとさえ言われている。それゆえに作業効率はあまり良くなかったとも言うが、決して不調な進行でなかったのは間違いなかった。
だがどんな優秀な存在でも100％の支持を集めるのは不可能なように、女性だけの町の中でも犯罪は起きた。
その中でもとりわけ目立ったのがいわゆるレイプ事件であり、女が女を性的欲求に駆られて襲撃すると言う事件が外の世界の連中に殊更に取り上げられた。結局性欲から逃れるなど無理だとか言われた際に為政者たちは極めて冷静であり、その欲求を解消するために施設が作られたと言う。結果その建物はいわゆるアングラ施設に生まれ変わり、その仕組みは警察と言う名の行政権力により受け継がれている。前者は移転こそしたが不満を抱え込んだ住民のはけ口になっている事は変わらず、女性だけの町を秘かに支えていた。
そのおかげもあり、昨年女性だけの町で起きたレイプ事件はゼロであり、ここ五年間でも二件しかなかったと言う。もちろんその二人はいわゆる四文字名を付けられて死刑となった。
これだけでも女性だけの町の戦果と言える話だ。
そして外の世界の人間は、男女問わずその事を高く評価していた。なるほどこれは女性にとって安心な町だとばかりに、女性たちの中に移住を決断する人間が次々と出たとも言われている。
しかし同時にそれが厳刑と行政が自らその道を与えているからだと言う事がわかってからは賛否両論となり、そこまでしなければ解消できないと言うかそこまでやっても皆無には出来ないと言う絶望感を覚えた女性たちもいたと言う。
人間の生産方法は、どうしても生物と言う存在から逃れる事は出来ない。クローンと言うか凍結卵子を用いての繁殖と言う方法を用いても生物のそれから逃れる事が出来たとは言えないし、その卵子のまた生物的な繁殖方法を用いた場合どうなるかについてはまだ確信がない。理性と言う名の箍がいつ何時外れないか、その保証など誰にもできないのが事実だった。
そして、その100％の保証が出来ない現実に打ちのめされた存在たちが、何をやったか。
それが、「第三次大戦」である。
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