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「女性だけの町」の外側から  作者: ウィザード・T
第二回 神学者たちの怒り
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奇形生物の烙印

 女性だけしか生まれない、受精卵。


 そんな存在が人間、いや生物として自然なのか。


 この問題における最大の矛盾点は、「受精卵」にしたのはどこの誰かと言う話だ。




 男性を排除するはずだったのに、どうして男性のアイデンティティである精子を入手したと言うのか。




 その事について女性だけの町の創始者たちに聞いた所、やはり「協力者」がいたらしい。


 元より「女性だけの町」を待望していたのは女性以上に、男性であったとか言う話もある。曰く、自分たちのそれに向かってギャーギャー吠えるようなやかましい女たちが黙っていてくれるのならば協力すると言う、なんとも言えないが協力する人間は出そうな動機。と言うか15の16乗と言う有り得ない数の精子や卵子を提供したのはどこの誰なのかと言う話だが、それについての情報は企業秘密とか何とかで教えてくれない。一説には卵子を分解して精子に転化したとか言う話まであるがそれにしてもあまりにも膨大なパターンの人間を作るためにどんな技術を利用したのか、それこそ悪用すれば世界を支配できそうな技術でありそれがこういう形でしか使われていない事は、ある種の奇跡とも言える。


 しかも、わざわざ「女性」に限定させて、だ。


「正義のためなら人間はいくらでも残酷になれる」とはよく言ったものだが、女性だけの町を作った人間もまたそのような心境だったのだろう。無論それは彼女たちに留まらず、何か大きな事をしようとする人間はみんなそんな心境になる。もちろん度が過ぎれば排除されるが、彼女たちは理性のギリギリを保ち切っていた。

 そのせいでもないだろうが、人類は彼女たちのまだその技術を悪用していない。一説には女性だけの町で作られた「クローン肉」がまずいせいだとか言う話もあるが、人類は確実に発展しているとも言えよう。







「奇形と呼ぶのもおこがましいほどの生物であり、まさしく人類の尊厳にも取る行いであると言わざるを得ない。

 しかも犯罪者を産んだ場合、その存在を抹消すると言う行いまでしている。それこそ生まれる前からの差別であるのとちっとも変わらず、出生そのものを否定する行いである。

 さらにそうして女性に限定された卵子が成熟して人類本来のやり方で妊娠・出産に及んだ場合、果たしてその子孫たちに悪影響が出ないと断言できるのか。もし万が一女性だけしか子及び孫が生まれなかった場合、人類滅亡を招く危険性すらある」


 神父はそうたびたび叫び、「産婦人科医」の廃業及びクローン技術の破棄、さらに女性だけの町で生まれた人間の外部への脱出禁止などを強く訴えた。


 その訴えはやや過激でこそあったが確かに理屈は通っており、実際賛同者もかなりの数がいた。


 そして、女性だけの町本体からも、それなりの支持者がいた。

 無論賛同したのは「外部への脱出禁止」のみだったが、それでもその支持者の存在は神父にとって絶好の存在だったはずだ。

 だが彼は、いや正確に言えば彼の支持者の一部が彼女たちの存在を拒んだ。



 実際問題、研究には半端ではない金がかかる。時間もかかる。遺伝子工学のための最高クラスの科学者を投入したために人材も要る。

 そこまでして何をやっているのかと言う、ある意味実に庶民的なそれだ。


 もし庶民的と言う言葉にマイナスの意味を見出せるとしたら、それは「小市民的」及び「愚民的」、言い変えれば「短絡的」となるだろう。

 しかし実際、ある意味「小市民的」なのは女性だけの町の住民とも言える。自分たちの心理的な安全のためだけに、女性だけの町と言う特異な存在を作るために、そこまでの資源を突っ込むなど正気の沙汰ではないと言える。


 だが実際、それらの研究に身をやつした人間たちが他の仕事をやったとしてこれほどまでの成果を、こんな期間で達成できたかと言うと別問題なのも事実である。

 

「女性は虐げられている。女性を守るために女性だけの町を作ると言うこの世で最高級のそれを成就させるために今こうして研究に勤しんでいる」


 と言う現在鬼籍にある学者の話を女性だけの町創立のための書籍で見た限り、そのような目的でなければ動かなかった人間は少なからずいたはずだ。確かに、戦争するよりはずっと崇高な使い方かもしれない。

 ワイセツブツ扱いしているシロモノは核弾頭ミサイルよりも怖いのかと茶化した連中もいたが、実際彼女たちにとっては怖いのだろう。


 そのキケンブツから逃れるためなら、彼女たちは何でもできる人間になっていた。

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