金魚の恋
「なろうラジオ大賞5」参加作品になります。
今日もあの人は来てくれるだろうか。
部屋の隅に置かれた金魚鉢を上から覗く。
金魚は上から見るものらしい。
尾鰭をヒラヒラ優雅に振りながら泳ぐ姿は、まるで遊女のようだった。
「主様の御来店だよ」
急く気持ちを隠して、着物の裾を左右に揺らしながら長い階段を降りてゆく。
階段の途中で立ち止まり男を待つ。
階段を登ってくる男と目が合うと、くしゃっと顔を綻ばせ「会いとうて、お待ちしておりました…」と目を潤ませそばに行き、男の胸に頭を擦り寄せる。
「これこれ、そう急くもんじゃない。夜はこれからだ、ゆっくり楽しむとしよう」
男が胸元から簪を取り出して女の頭に差し込んだ。
「よく似合っている」
「嬉しい…私の心は主様のものです。他の誰かの相手をしようと、心だけは主様のものです」
そう言って男の手を取り頬を擦り寄せる。
男は女の体を引き寄せ……そのまま一夜を過ごし朝を迎える。
閨で吐息は吐くんじゃない。漏らすんだ。
親に売られてここに来た時そう教わった。
色々な客と体を合わせて行くうちに、様々な事を身につけた。
「帰らねば」そう言う男の着物の袂をキュッと握り、別れが切ない。とわがままを言って男を困らせる。
「また来るよ」その一言が欲しくて。
「また来るよ」
「約束よ」
小指を出し指切りをねだる。
「しょうがないな」男はそう言って小指を絡める。
絡められた指と指を切なそうに見つめていると、ポンと頭に手を置かれ「また来る」と、念を押すように言われた。
その一言を聞けて幸せだと、結んだ小指に唇を寄せた。
満足そうな男の顔を瞳に映す。
そうして許されるぎりぎりのところに立ち、男が見えなくなるまで見送り、扉が閉まるのを待つ。
こちらとあちらの世界を繋ぐ扉がバタリと音を立てて閉まった。
「ふあぁ…。疲っかれたーー!これ、其処の、わっちの部屋になんか甘いモノを持ってきておくれよ。それ食べたら次の客が来るまでゆっくり眠るとするかねぇ〜…」
頭から簪を抜き取り、そばにいるカムロの頭に刺してやる。
「お前があの旦那を覚えておき、あの人が来る時は私の頭に刺しておくれ」そう頼む。
誰がどの簪をくれたかなんていちいち覚えていられない。
どうせ出られない金魚鉢の中だ。
せめて優雅に泳いでみせよう。
イラスト たんばりん様




