後者を選び続ける
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
この世で生きていくには余りにも脆く、儚い精神性を持った子の死生観。
彼奴と別れの挨拶が『またね』ではなく『さようなら』の場合は、夜に一度電話をかけるように心掛けている。
一度『さよなら』と声を掛けて別れた翌日、彼奴は今にも死にそうな目で道を歩いていたから。
そして今日はそんな日だった。『さようなら』、ただその一言だけを別れの言葉として、俺達はおさらばした。
彼奴の精神性は、この世界で生きていくには余りにもか弱く、儚いものだった。明日の天気が嵐だから死のう。嫌いな科目をやりたくないから死のう。明日先生に当てられるから死のう。兎にも角にも嫌な事があると、真っ先に『死』を天秤に掛けて行動を起こそうと来る癖がある。
『死にたい』と口に出す事はない。絶対にない。けれども時折死んだような目で、『死ぬよりは軽い』『死ぬよりかは容易い』そう時折ぽつりと呟くのだ。そうして目の前の全てのゴタゴタと立ち向かう。だが、時折不安に思う事がある。
彼奴、本当に何時か、死んでしまうのではないか? 死ぬより重いと感じた途端、この世界から消えてしまうのではないか?
「おい、生きてるか?」
――どうした、急に。
「生きているなら良い。死ぬなよ」
生存確認と、自殺防止だけを手短に行って、俺は電話を切った。声は何時も通りだった。淡々と迫り来る嵐に備えて堪えたような口調だった。これならば明日はきっと逃げる事なく学校に来るだろう。
翌朝、俺の顔を見ると彼奴は仄暗い双眸のままに、首を傾げた。
「君、心配しなさんなよ。私の口癖は『死ななきゃ安い』『死ぬよりかは容易い』『逃げる度胸もねぇんだ。覚悟決めろ』だよ?」
「お前が言うと嫌なことから逃げる為に、フェンス飛び越えそうな危うさがあるんだよ」
呆れたような声でそう返すと、彼女は何かを考えるように視線を逸らすと、遠くを見つめた。視線は俺に固定されているが、俺を見ていない。もっと遠くを見据えている。
数分後、どうやら纏まった様で焦点が合った。
「良いかい、『自殺』という行為はね、何かしらの行動を起こす必要があるんだ。ロープを用意するなり、川に飛び込むなり、刃物を急所に突き付けたり、まぁ色々だ。逆にそれを起こさなければ、『自殺』には至らないんだよ。だから大丈夫」
「逆に言えばそれをすれば自殺未遂だろうが」
此奴、嫌な事に立ち向かう覚悟で、何時か自殺してしまうんじゃないか? ただ何かに逃れる勢いで、絶壁へと突っ込むんじゃないか?
「そんな度胸、何処にもない。何処にも無いんだよ。今この瞬間、死んでも後悔なんかない生き方をしているけどね、自殺する程の度胸を持ち合わせて居ないんだ。その自殺未遂の行動と、今日ある嫌な作業を天秤にかけ、私は後者を選び続ける。それだけの事さ」
きっとそれで前者を選んだ人間が、この世界から零れ落ちてしまうのだろう。
『辛かったら逃げていい』とは繰り返し言ってると思うんですけど、それは『逃げる度胸がある人』にしか刺さらないと痛感します。
逃げられないなら、立ち向かうしか無いんです。
嵐の方から去ってくれるのが一番良いのですが、どうにも上手くいかないので。
残酷ですね、とっても。どっち選んでも地獄ですよ。
この子、生きる覚悟がある様に思えると思います。
けども決してそんな事はなくて、死ぬ為の行動を起こせないから、仕方なく生きてる子です。
そんな人、多いんじゃないかな?
延命処置と肝の小ささで、明日に備えます。