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三番目の子は、普通じゃない?

 王宮の中庭での一件を語り終えたトリスティアは、今から話すことこそが本題だと、マギーに握られたままの手にそっと力を込めた。

 

 話を聞き終えたマギーは母やアニタのように、トリスティアの理解の及ばなさに呆れてはいないらしい。

 一つ年上の彼女が時折見せる、手のかかる妹を見守る姉のような柔和な笑みを浮かべて、トリスティアを見つめている。


「マギー、私ね、姫のままでいようと思うの」


 優しい眼差しに勇気づけられて、母と決めてきたことをマギーに打ち明ける。

 母もアニタもトリスティアの好きにしていいと言ってくれて自分の決断を認めてくれたけれど、マギーがどう思うかは分からない。もしかしたら、王子として生きるのが普通だと思っているかもしれない。

 世間を離れて育ったトリスティアには普通がどういうものかいまいち分からない。分からないから、自分の選択にも自信が持てないでいる。


 王子なのに姫のままなんて、マギーは嫌かな?


 心なしか驚いているように見えるマギーに、弱気の虫が顔を出しそうになる。


「スティーラ母様にね、トリスティアさえ嫌じゃなければ成人するまではこのままでいた方が安全でいいって、言われたの。だからね、ここにいる間は、今まで通り姫でいようと思うの」


 本当はそれだけが姫でいることを決めた理由ではないけれど、つい母の言葉を言い訳にしてしまう。


 成人するまでは、あと三年。

 その先のことは分からないけれど、いつかは離宮を出る日がくるだろう。それはとても寂しいことだけれど、避けられない未来であるならばせめて、ここにいる間はこのままでいたいとトリスティアは願って、姫でいることを決めた。


「トリスティア様はそれでよろしいのですか?無理はなさっていませんか?」

「うん、大丈夫。無理はしてないし、これは私が望んで決めたことだから」


 心配そうな目をして問いかけるマギーを安心させたくて、トリスティアは力強く頷く。


 本当に、無理はしていない。

 明日から突然王子になれと言われる方がトリスティアにとっては無理だし、無茶なことだと思う。

 それに比べたら、実は王子だったけれど姫のままでいていいというのなら、なんの問題もない。今まで通りでいればいいだけのことだから。


 哀しそうにこの秘密を明かしてくれた母やアニタには少し申し訳ないけれど、今のところトリスティアの心境に何の影響も及ぼしてはいない。

 悩んだことといえば、マギーがどう思うかというただその一点のみ。


 だから、そんなに心配そうな顔をしないで。


「ほら、せっかくマギーが愛して育ててくれた、この綺麗な金髪を切らなくちゃいけないなんて、もったいないもの」


 まだ心配そうに瞳を揺らすマギーの気を晴らしたくて、トリスティアは冗談めかして言う。


 自分は大丈夫だから、何も心配しなくていい。

 王子として生まれて姫として育てられたけれど、今日までずっと幸せに生きてきた。

 姫だろうと王子だろうと、トリスティアが不憫でも憫れでも可哀想でもないことに、変わりはない。

 

 それよりも、マギーに少しでも可哀想だと思われることの方が、よほど惨めで悲しい。


 だから、マギーの手をキュッと握って晴れやかに笑う。私は大丈夫だよという気持ちを込めて。

 秘密を知っていたのにずっとそばにいてくれてありがとう、という気持ちも込めて。


 そんなトリスティアの気持ちに気づいたのか、向けられた満面の笑みに安堵するようにマギーは静かに息をついて、姿勢を正す。


「遅ればせながら、トリスティア様。十五歳のお誕生日おめでとうございます」

 

 深緑の瞳を煌めかせたマギーが凛とした空気を纏い、十五歳のトリスティアを寿ぐ。きっと一番に伝えたかったであろう、その気持ちが心に染み入る温かな声音で。


「ありがとう、マギー」


 今日一番聞きたかった言葉が聞けて、トリスティアはやっと十五歳になった実感を得た気がする。


 誕生日はやっぱりマギーにお祝いしてもらわないと。


 嬉しくなって、トリスティアはくすくす笑う。

 笑った拍子に、今日遭ったとっておきの出来事を思い出した。


「そういえば、今日、国王陛下?じゃなくてお父様?に、お会いしたかもしれないの」


  すっかり気の抜けたトリスティアが、ついでのように曖昧な口調で言えば、今度こそマギーに呆れた顔をされた。


次のお話は視点が変わります。

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