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三番目の子の、諸事情②

 今日で十五歳だったなんて。


 母から祝われるまで、今日が十五歳の誕生日だということを、トリスティアはすっかり忘れていた。


 毎年誕生日にはマギーが朝の挨拶と共に祝いの言葉を贈ってくれるのだが、今朝はそれがなかった。

 マギーからのお祝いの言葉がない誕生日の朝など覚えている限り一度もなかったから、まさかこのおめかしが自分の誕生日のためのものだとは気づきもしなかった。


 マギーにお祝いされないと、誕生日も思い出せないなんて。


 なんだか少し情けない気持ちになってくる。

 きっとマギーは王宮で母がお祝いしてくれることを知っていて、気を遣ってくれたのだろう。

 記念すべき十五歳の誕生日の祝いの言葉を、母が一番最初に贈れるように。


 トリスティアが暮らすプールミエンヌ王国では、成人となる十八歳までの準備期間として十五歳からは大人の仲間入りとみなされる。親の庇護から完全に抜け出すわけではないが、一人の人間として恥じない振る舞いが求められ、皆それに応えられるよう努力する。

 親の付属物だった子供時代から、個人として認められる大人な世界へと羽ばたいていく最初の日が、十五歳の誕生日である。

 そんな大切な日をトリスティアはすっかり忘れていたわけだが、度々不運な目に遭ううちに驚きを露わにすることがなくなったためか、母もアニタもそうとは気づかず思い出話に花を咲かせている。

 トリスティアが覚えていないような、幼い頃の話題で盛り上がる二人。なんだかチラチラとこちらの顔色を伺いながら、目配せをしあっている。


「そうそうあの日はね、大変だったのよね、アニタ」

「そうですね、本当に朝から大変でした」

 あの日とやらがどの日なのかは分からないけれど、二人がトリスティアに「あの日」のことを聞かせたがっていることはなんとなく分かった。あの日とは。


「十五年前の今日、前日の夜に私が急に産気づいたせいで朝からみんなして王宮から出ていかなくてはいけなかったの。戒めの三番目の子の誕生に王族は立ち会ってはいけないという決まりがあってね」

「スティーラ様は離宮に御籠もりだったので、王宮であれば立ち会ったことにはならないだろうとの声もあったのですが、万が一に備えてと皆様揃って別荘にお発ちになりました。その直後、トリスティア様は産声を上げられたのです」


 陛下たちの出発を見届けてから生まれた自分を褒めたくなるような強行軍だ。王宮のことに疎いトリスティアにだってそれくらいは分かる。父王に王妃様、五歳と三歳の兄姉が当日突然別荘へ向かうことがどれくらい大変なことなのか。


「長い時間、ずっと痛くて苦しかったけれど、金の巻き毛が可愛い男の子を胸に抱いた瞬間、全てが幸福に包まれたわ」

「男の子?」


 話はちゃんと聞いていたはずなのに、自分の生まれた日の慌ただしさに気を揉んでいるうちに、いつのまにか別人の話になっていたのかしら、それとも聞き間違い?

 耳が捕らえた言葉が理解できなくて、トリスティアは首は傾げた。


「そうよ。トリスティア、貴方ね、本当は王子なの」


 首を傾げたトリスティアにも分かるようにはっきり告げらたけれど、理解が追いつかない。そっとアニタの方を窺い見ると、トリスティアが王子だという言葉を肯定するように、力強く頷かれる。


「私の腕の中で貴方が目を開いてその綺麗な紫の瞳を見たときにね、陛下の元に嫁いだ時に聞いた最初の三番目の子のことを思い出したの。貴方と同じ、金髪で紫色の目の王子様のことを」


 最初の三番目の子とは、戒めの呪いの始まりの子。

 誰かの怒りを買って王家に不憫な子の呪いを齎したのは、金髪紫眼の王子様。

 自分と同じ色をもつ王子様が始まりの子だというのは初めて聞いた話だったけれど、きっとそんなに悪いことはしていないんじゃないかなと、トリスティアは思う。

 何をしたのかは知らないけれど、今代の三番目の子である自分がみんなが可哀想がるほど不憫じゃないのだから、きっと。

 

 同じ色を持つ者同士だからというのか、なんだかちょっとした親近感のようなものが生まれる。


「始まりの子と同じ色を持つ貴方を王子として育てるのは危険だと思ったの。ただでさえ悲劇の美貌の王子様というだけで愛憎の種となるのは間違いないのに、呪いを増長するようなことは避けなければならないと思って。別荘から戻られた陛下とも相談して貴方を姫として育てることにしたの」


 当時のことを思い出したのか、いつもは優しげな母の鳶色の瞳が少し哀しそうに揺れた。

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