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三番目の子の、いない離宮②

 主人が去った寂しげな離宮に、一つの影が落ちる。


 昼と夜の世界の、あわい。

 まだ光に支配されていた時を引き摺るように世界はほの明るいが、離宮だけにはもう夜が降りてきたようで、薄暗い。

 

 光の侵入を許さない堅牢な護りの証、戒めの呪いの三番目の子のために幾重にも張り巡らされた夜の精の加護を潜り抜けて、迷うことなく三番目の子の私室であったところに忍び込む。


 ここに在った、はずだった。


 今はもう遠くファンセの地に在るかつての住人の残滓を吸い込むように、深く息をする。


 光を受けてより輝く金の髪と、宵闇を思わせる紫紺の瞳を持った()()


 賢しい者どもと夜の精の加護によって王子であることは上手く隠されていたようだが、それも十五になるまでのことだった。

 十五歳になり、子供から大人の世界へと踏み出すのは何も社会的なことだけではない。この世に対してあやふやだった魂が肉体に固定されて格が上がり、個としての真価を顕すようになる。


 そうなってしまえば、どんなに姿形を偽ろうとも、見る者が見れば分かってしまう。


 今代の三番目の子は、最初の王子と同じ色を持つというだけで、この胸を騒つかせていたというのに。

 どうにも御し難い思いをどうしてくれようかと思うも相手はか弱い姫君。この離宮で行方知れずとなった子の時のように、配下の者がやりすぎて夜の精に介入されるのも面白くないと、光の精たちに任せていたが。


 王宮に住まう光の精たちもあの色に最初の王子を思い出したのか、執拗な意趣返しを繰り返した。

 当の本人にはちょっとした不運と片付けられていたようだが、自分たちの嫌がらせが全く響かないのをいいことに、夜の精の横槍が入るまでは随分と好き勝手をしていたようだ。


 そのせいで、あの子は夜の精の加護篤い離宮からほとんど出なくなり、偶然にでも出会うことが全くなかった。だから、気づくのが遅くなってしまった。

 十五歳になって、その真の姿を光の精たちが感じ取り、聖堂で騒ぎ出すまで。

 あの子が王子で、最初の王子と同じ魂の形をしていることに、気づかずにいた。


 気づいた時には、全てが遅すぎた。


 姫の姿で会ったとて、真の姿に気付けていたかは分からないが、少なくとも接点を持つことは出来ただろう。

 たとえ細い細い糸のようなそれでも手にしていれば。

 こんな風に、残り香を恋しがるように求めて、主人のいない部屋へと通うこともなかっただろう。


 物心がつく前の、魂があやふやな頃からずっと、求めて止まない恋しい存在。

 最初の王子と同じようにここから逃げて、同じ場所へと行ってしまった、愛しい三番目の子(トリスティア)


 戒めの呪いは、たとえここを離れようとも三番目の子の身にかけられたまま、この身と繋ぐ唯一の(よすが)となる。


 そう、たとえ今は物理的に離れていようとも。

 光の精からの加護がこの身に宿り続ける限り。

 三番目の子の呪いとこの身は、繋がっている。


 焦る必要はない。

 いずれ遠からず、あの子は帰ってくる。

 そのための労は惜しまない。

 なんとしても今度こそ、あの時遂げられなかった思いを成就させるのだ。


 無窮にも思えた長い年月を超えて巡り合ったのは、偶然ではなくまさしく運命。

 同じ色、同じ形の魂ならばきっと、自分と同じようにあの子も最初の王子の生まれ変わりだろう。


 きっとそうだ、だって。


 (こころ)が叫ぶのだ、あの子が欲しいと。

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