三番目の子と、王家の呪い
一番目の子は、王者の子。
二番目の子は、覇者の子。
三番目の子は、不憫な子。
これが、トリスティアにかけられた呪いだ。
三代に一度、三番目の子に戒めの呪いがかけられていることは、王家に少しでも関わりのある者なら誰でも知っている。
トリスティアも、我が身に降りかかることとして、呪いについては他人より多くのことを知ってはいるつもりなのだが。
本当のことをどこまで知っているかと問われると、答えに窮する。
十五歳の誕生日以降、市井で流行りの恋物語を読む傍ら、トリスティアは父王から授かった梟の紀章を使って図書保管庫の王家管轄欄から抜き出した王家の呪いに関する文書にも、目を通していた。
自分と同じ色を持つ最初の王子のことが知りたくて、呪いに関するものならなんでも手当たり次第に読んではみたけれど。
最初の王子に関することのみならず、この奇妙な呪いの由来についても、元から知っていること以上に知ることはできなかった。
「私が知っているのは、光の精様の逆鱗に触れた昔々の王家の三番目の子の所行を戒めるために、三代に一度の三番目の子不憫な子として呪いを受けることになったということと、その最初の三番目の子が私と同じ髪と目の色を持っているということだけです」
改めて考えてみても、自分に関わることなのにあまりにも知っていることが少なすぎる。
そういうものだと納得していた部分もあるけれど、調べてみても分からないというのはやはり、何か不自然なものを感じる。
「光の聖堂が近いとそこまで真実が隠されてしまうのか……。どうだろう、トリィは本を読むのが好きなのだから、私から呪いの真実を聞くよりも自分で調べて知っていく方が、いいんじゃないか?」
「自分で、調べることができるのですか?」
「ああ。うちは、最初の王子が王家を追放されてから難を逃れてやって来た、夜の精の加護地なんだ。だから王宮で秘匿されている呪いの本当のところも、この地でなら知ることができる」
「夜の精様の、加護地?」
思いがけぬところで最近話題にした言葉を耳にして、トリスティアは思わず聞き返す。
夜の精とは、光の精とともにここプールミエンヌ王国を守護している精霊だ。
今は光の精への信仰が篤く、王宮の聖堂で盛大に祀られているのも光の精だけになってしまっているため、夜の精が国の守護精霊だということを知らぬ者も最近ではいるようだが、精霊にとっては人に祀られようと祀られまいとそんなことは関係ないのか、王国のそこここに夜の精の加護は散見される。
離宮の外のことを知らないトリスティアにとっては、光の精も夜の精も等しくこの国を守護してくださる有難いけれど遠い存在で、光の聖堂の騒ぎに度々巻き込まれているせいか、なんとなく夜の精の方が慕わしく感じるというくらいで。
夜の精の加護地と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、真実の愛と恋物語のことだった。
そう、夜の精の加護地といえば、マギーから聞いた恋物語の舞台となった土地なのだ。
マギーの母アニタの故郷であるファンセ領で、その恋物語が有名であるとここに来るまでの馬車でマギーからは聞いていたけれど、まさかその舞台となった土地がまさにここだとは思わなかった。
トリスティアには真実の愛がどういうものかまだよく分からないけれど、夜の精の眷属と王子の恋物語は素敵だと思った。
だからここが、その恋物語の舞台となった土地であることが分かって、嬉しく思う。と同時に、疑問が湧く。
ナタン様は離宮の主様の眷属だと聞いていたけれど、ここが夜の精様の加護地だというのはどういうことだろうか。
「ああ、トリィは我が主のことを離宮の主様と呼んでいるのだったか」
「我を呼んだか?」
トリスティアが首を傾げていると、その疑問を察したコルボー伯爵の声と、耳馴染みのある声が重ねて耳に飛び込んできた。
声のした方へとトリスティアが振り向くと、僅かに空気が震えて黒い影が舞い降りる。
何もない空間から大きな鴉が姿を現したことに、驚くより何より。
「離宮の主様!」
トリスティアは歓喜の呼び声を上げ、満面の笑みで立ち上がり、最上の礼をもって来訪を歓迎する。
それに応えて離宮の主も、艶やかな黒い翼を優雅に折り畳み、目を細めた。




