表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

三番目の子と、あの日の騒動

 野菜が、シャキシャキしていて美味しい。


 ほどよく茹でられた葉野菜を甘酸っぱい調味液で和えたものを口にしたトリスティアは、目を見開いた。


 一度火を通しているはずなのに瑞々しい食感が残っているのは、こちらの野菜の特徴なのだろうか。

 それとも何か特別な調理法があるのか、トリスティアが今まで離宮で食べていた野菜とは全く違う味と食感に驚きと感動を覚えて、自然と頬が緩む。


 マギーに髪を結えてもらって身支度を整え終えたところで、食事はなるべく一緒に摂ろう、というコルボー伯爵の誘いを伝えにきたヘリオスに連れられて着いた朝食の席で、トリスティアは色とりどりの皿に手を伸ばしては、感嘆のため息を吐いていた。


 この葉野菜も、とろりとして温かい具沢山な透明な汁物も、少し酸味を感じる黒いパンも、どれも離宮の食卓では見たことのない料理だけれど、舌に馴染んでとても美味しい。


 普段の朝食はお茶と甘い菓子を少しつまむ程度で済ませてしまうトリスティアも、昨日は夕餉を食べずに寝てしまって、結局一食もまともな食事を摂れなかったせいか、朝から食が進む。


「トリィは火を通した食べ物なら、なんでも食べられるのか?」


 目の前の食べ物を口にしては目をぱちくりさせているトリスティアに、向かいの席からコルボー伯爵が微笑み混じりの声をかけてきた。


「はい、味の好き嫌いはありません。食べられないのは火を通していないものと、あとお茶は完全に発酵させたものしか飲めません」

「ああだからあの茶会で、薔薇色のお茶にも顔を顰めていたのか」

「あのお茶は、乾燥させた薔薇の花を使ったものでしたので。乾燥しているとはいえ火を通していない植物が入ったお茶は、残念ながら飲めません」

「難儀なことだな」

「ええ本当に。厨房の方々には難儀をおかけ致します」


 済まなさそうに眉を下げるトリスティアに、気にするなというようにコルボー伯爵がカラッと笑ってくれる。

 難儀なことだと労ってくれても、可哀想にと言わないところがこの伯爵様のいいところだ。


 先程朝の挨拶を交わした時も、昨日と打って変わったトリスティアの装いにさして驚いた様子を見せることもなく、サイズが合って良かった、よく似合っている、とほっとしたように笑っただけだった。


「他に何か気をつけることがあれば、私かヘリオスに気兼ねなく言ってくれれば良いから」

「お心遣い、ありがとうございます」

「私たちは家族なのだから、これくらいの気遣いは当然のことだろう?」


 僅かに首を傾げたコルボー伯爵の言葉に、トリスティアもきょとんとしてしまう。


 家族なのだから、当然。

 そう言われても、家族から離れて暮らしてきたトリスティアには家族として当然のことがどういうものなのか、本で読んだことしか分からない。

 分からないけれど、離宮の主そっくりに笑うコルボー伯爵の笑顔を見ると、家族なのだからという理由で甘えても良いのかもしれないと思えてくるから不思議だ。


 主従関係にあると顔も似てくるのだろうか。

 初めて会ったときも、離宮の主と同じ色の目に優しさを感じて、同席することに躊躇いはなかった。

 あんな騒動さえなければ、いつかくる日の為にいろいろと聞きたいことや話したいことがあった。いつかくる日が案外早く驚きの形でやってきたことは、幸運なことだけれど。

 あんな騒動といえば。


「先日の茶会では王家の騒ぎに巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした」


 行動に出る前に簡単な謝罪はしたけれど。

 もう会えないだろうと諦めていたけれど、こうしてまた話をする機会を得たのだ。

 トリスティアはきちんと謝っておきたいと思って頭を下げた。


「ああ、そんなこと気にしなくても。久しぶりに面白い捕物が見られて、楽しかったくらいだ」


 トリスティアの気持ちを知ってか知らずか。

 優しい声が聞こえて下げた頭をゆっくり上げると、コルボー伯爵は面白そうな顔をして笑っていた。


「それにあれは、炙り出しだったのだろう?」

「はい。恐らくは、どの家に光の聖堂の息がかかっているのか探るためにあの場を利用されたのだと思います。これはあくまでも私の推測になりますが、主催の姉も何かことが起こるとは知らなかったようですので、陛下の隠密が関わる事案だったのかもしれません」


 あの茶会のあと、誰もトリスティアに仔細を知らせてはくれなかったけれど。

 呪いのせいで気配や音に敏感になった目と耳が拾ってきた情報と、書物から得て蓄えた知識によって組み立てられたこの推測は、恐らく的を射ている。


 それを裏付けるように、トリスティアの推測を聞いたコルボー伯爵も深く頷き、そしてその黒い目が好戦的に光る。


「トリィは自分の呪いについて、本当のことをどこまで知っている?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ