三番目の子は、打ち明けたい。
ここが、今日から私のお家?
日が落ちる前に到着したコルボー伯爵邸は周囲を堀と高く聳える塀に囲われ、領主館というよりもまるで要塞のような体裁を成し、その厳しい佇まいにトリスティアはただただ圧倒されていた。
地方の領主館がなぜこのような体裁を、とトリスティアが驚くのも無理からぬことではあるが、コルボー伯爵邸がこのように成ったのにはそれなりに歴史があった。
国境が近いファンセ領は、古くから国防の要の地と見做されてきた。
今は平和な治世が続くプールミエンヌ王国も、野心的な王が治めた時代には周辺国や異種族との争いが絶えず、この地が戦禍に巻き込まれることが幾度もあった。
その都度、時の領主たちはより強固により頑丈にとそれぞれが考えうる限りの防衛を主軸とした整備を施し、ファンセ領の中央部はやがて要塞都市の体裁をとるまでになった。
そして、難攻不落の地として内外から一目置かれるようになる。
そんな要所を治める領主の館が堅牢な造りとなるのは当然のことで、城と呼ぶにはいささか物足りないものの、その広さ大きさはトリスティアが住んでいた離宮とは比ぶべくもない。
有事の際には住民たちの避難場所としての使用を想定して建てられたというのだから、個人宅というよりは公に開かれており、城塞に近い機能を持っている。
補強や増築を繰り返してはきたが、何百年も前の領主が設えたものがほとんど残ったままのその外観は、古城と呼んでも差し支えないほどだ。
そんな要塞のようで古城のような趣をもつ場所で暮らすという現実に萎縮するトリスティアは、コルボー伯爵との対面さえも覚束ない。
ここに着いてすぐ、荷解きをするマギーとは別行動となった。
心細さを感じながら案内された応接室は、先日家族で集まった父の応接室に負けず劣らずの広さと重厚感があり、部屋の中央に据えられた椅子に掛けて待つよう促されたトリスティアは、年代を感じさせる二人掛けの椅子に浅く腰掛け縮こまっていた。
見知らぬ土地で、馴染みのない調度に囲まれて。
自分がどんどん小さくなっていくような錯覚にトリスティアが襲われかけた頃、コルボー伯爵が従者とともに入室してきた。
「どうぞそのままで、トリスティア様。我がファンセ領に、ようこそお越しくださいました」
人が入ってくる気配に立ち上がろうとしたトリスティアの動きを制し、コルボー伯爵と従者が王族に対する礼を取る。
それにトリスティアも姿勢を正して黙礼を返し、コルボー伯爵が向かいの席に腰掛けたのを見計らって、口を開いた。
「この度は良きご縁を頂き、誠にありがとうございます。まだ世のなんたるかを知らぬ若輩者にございますが、幾久しくよろしくお願い致します」
腰掛けたままではあるが、深々と頭を下げる。
今の自分に何ができるか分からないけれど、ここではできることを精一杯やると決めてきた。
そのためには、まっさきに打ち明けなければいけないことがある。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。さて挨拶はこれくらいにして。まず初めに、私からトリスティア様に打ち明けねばならないことがあります」
早く自分の秘密を打ち明けなければと内心意気込んでいたトリスティアに、コルボー伯爵の方から打ち明けることがあるという。
相手にも何かしらの秘密があったことに少し驚き、それ以上に親近感を抱きながらトリスティアが頷くことで話の続きを促せば、なぜかそれまで優しげだった表情を消して真顔になったコルボー伯爵が、固い声で宣った。
「私は、あなたを妻にするつもりはありません」




