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三番目の子は、娶られる?

 結局、その後読んだ恋物語にも王族の回顧録にもトリスティアの参考になるような王子様像は見当たらず。


 マギーが話してくれた夜の精の眷属と恋に落ちた王子様だけが唯一トリスティアの心を捉えた。

 図書保管庫で調べてみると、確かに何百年も昔に王族を離れて辺境伯となった王子がいた。王家の歴史書に詳しいことは記されていなかったけれど、司書によると当の辺境地にはその王子に纏わる文書が残っているというらしい。

 取り寄せることもできますが、という有難い申し出を、自分の王子探しに他人の手を煩わせるのは忍びなくて丁重にお断りした。


 やっぱり、自分のことは自分で探していくしかない。


 今まで本から知識を得ていたトリスティアにとっては初めての挫折であり、気づきも得た。

 書物から得る知識も大事だけれど、自分で感じて考えて得ていくことこそが自分を作っていくのだと。


 十五歳になって自分でもなんだか少し大人になった気がした瞬間だった。


 そんな清々しい気持ちで目覚めたトリスティアの元に、離宮の主が珍しく朝早くから舞い降りた。


「トリスティア、我が眷属の支度が整ったようだぞ」

「眷属様のお支度とは?」

「トリスティアを娶る支度に決まっておろうが」


 当然のことのように言われてもトリスティアにはわけが分からない。

 そういえば、誕生日の日に眷属様に嫁げば良いとかなんとか仰っていたけれど、まさか。


「あれは冗談だと思うておったか?我が眷属にはちゃんと話を通しておいたし、トリスティアも嫌ではないと言うておったであろう?」


 艶々とした黒い羽を自慢げに広げて語る離宮の主様に、王子の私では無理です、とはとても言えない雰囲気だ。その言では、眷属様が了承したかが疑わしいのも不安だ。


「まぁ、お互い面通しは済ませておるようじゃし、大丈夫であろう?」

「面通し?」

「ほれ、二番目の、あれの茶会で会うたであろう?」


 お茶会で会ったのは、姉の側仕えの者たちとコルボー伯爵様。となれば、眷属様というのは。


「コルボー伯爵様ですか?」

「そうそう、それそれ」


 コルボー伯爵が離宮の主の眷属だった。

 離宮の主と同じ黒い瞳と髪だったこと思い出して、トリスティアは納得する。


 知らぬこととはいえ、先日は失礼をしてしまった。


 そんなことよりも、眷属様がコルボー伯爵様ということは、そこに嫁ぐという話に?


 お相手の顔が分かり、急に現実味を帯びてきた嫁入り話に目眩と混乱を覚えたトリスティアに離宮の主は畳み掛ける。


「そろそろ父王からの命も下るであろうから、いつでもこちらに来られるよう、支度をしておくように」

「御意」

「我も我が眷属たちも代々三番目の子を愛でておるゆえ、心配せずともよいよい」


 相変わらず豪放磊落な離宮の主に戸惑いながらも従うトリスティアは、お相手がコルボー伯爵だというただ一点においてのみ少し安心することができた。

 王子の自分が誰かに嫁ぐ違和感は拭えないけれど、彼の方ならば悪いようにはなさらないだろうという気がする。王子になった時の相談相手にと一度はこちらからお願いしようと思っていたこともあるし、離宮の主様のお墨付きもあるから心配はない。


 全く見ず知らずの方に嫁いだり、嫁いでこられたりが王家の婚姻では当たり前のようにして起こるのだから、一言でも言葉を交わして顔を見知った仲ならば上々と言えるだろう。


 こうなったら、悩んでいる暇はないかもしれない。


 離宮の主の言ならば決定事項と見做したトリスティアは急いでマギーを呼び寄せる。

 朝に弱いのにわざわざこんな時間に知らせてくれたのにはわけがあるはずだ。きっとこの話は早急に進められることだろう。

 言われたように、いつでも離宮を発てるように、準備をしなければいけない。



 離宮の主が言いたいことを言うだけ言って飛び去って行ったその日の午後、トリスティアの元に国王からの召喚状が届けられた。

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