三番目の子を、ふわふわさせていたい姉
相変わらず、ふわふわしているわね。
お姉様の合図のおかげです、と嬉しそうに笑ったトリスティアを思い出して、ドゥフィーネは苦笑いした。
呪いのせいで火を通していない食べ物が毒となるトリスティアに対して、あんなにあからさまな敵意を向けられておいて何を呑気なことを怒ればいいのか、そのままで小動物のように可愛げを振り撒いていて欲しいと願えばいいのか、姉として複雑な思いを抱く。
ドゥフィーネはトリスティアが生まれたときからこの母違いの末っ子を気にかけてきた。本人には複雑すぎて伝わりきっていないようだが、毎年のこの呼び出しも、たまに王宮で出会った時の対応も、トリスティアの身を思ってのことだった。
今日だって、トリスティアが給仕の侍女を捕らえたことにより茶会はお開きとなってしまったけれど、十五歳になったトリスティアに社交を体験させようという目論見だった。
突然の呼び出しと内容を伝えないことでトリスティアの困惑を誘って、さらに夜の聖堂跡に建てたサロンで開催することで呪いの目を掻い潜ったつもりが、光の聖堂の手の者を紛れ込ませてしまった。
「光の聖堂の安寧のために、三番目の子に憫れみを!」
捕らえられた侍女が、茶会の参加者に扮したドゥフィーネの護衛に連れていかれる際に叫んだ言葉を、自分の手落ちと共に苦々しく思い出す。
昨日、光の聖堂が騒ついたということは父王から聞いていた。そのせいかどうか分からないが、今日の茶会にコルボー伯爵の参加を要請された。トリスティアとの顔合わせを匂わせた要請であったが、人見知りだから難しい旨を伝えたところだったのだが。
ドゥフィーネの予想に反して、トリスティアとコルボー伯爵は席を同じくし、あんなことさえなければ縁を繋げたかもしれない。
それがどのような結果を齎したのかは、ドゥフィーネには分からないけれど。
それにしても馬鹿馬鹿しいことだとドゥフィーネは思う。
何百年も前の遺恨を忘れることもせず、最初の王子と同じ色というだけで本人というわけでもないのに騒ぎ出す光の精にも、その光の精に傅き恐れをなしてこちらを攻撃してくる光の聖堂の者たちも、いい加減にして欲しいと思う。
「お姉様、今年もありがとうございます」
毎年、帰り際にトリスティアが告げる言葉に、今年こそは祝いの言葉を贈ろうとして、また出来なかったのも呪いを気にしてのことで。
自分が祝ったことで呪いの気が触れて何か災いが起きてはと思うと優しくできない。
トリスティアもドゥフィーネも選んでここに生まれてきたわけではないけれど、生まれてきたからにはここでできることを精一杯やるしかないのだ。それを邪魔だてするのは、たとえそれが王国を守護する光の精であっても、やめて欲しい。
ここプールミエンヌ王国は光の精と夜の精に守護されて、小さいながらも平和な治世が続いている。
光の精も夜の精も昔は等しく祀られていたけれど、ある時をきっかけに光の精への信仰が厚くなり、光の聖堂で大きく祀られるようになった。
そのきっかけが、呪いの最初の王子にあったのだが、王家の機密に関わることなのか、詳しくは語られていない。一説によると夜の精は表舞台から去っただけで、今も眷属たちと王国を良き方へ導いているという。
このサロンでトリスティアに呪いの害がないのは、夜の聖堂跡だから、夜の精の加護が残っているのだとドゥフィーネは信じている。だから。
光の精の、三番目の子は不憫な子、という呪いにかかったトリスティアのことも、良き方へ導いてくれるといい。
やっぱり、あの子にはふわふわしていて欲しいわ。
金の髪を揺らしながら帰って行ったトリスティアを思い出して、ドゥフィーネの頬が緩んだ。
次のお話からはまた視点が戻ります。




