三番目の子と、社交のお茶会
これは、私にとっての社交デビューだ。
ドゥフィーネの鋭い視線を受けたトリスティアは、今日のこの催しの趣旨を瞬時に理解した。と同時に、姉が自分の一挙手一投足全てを以て、何かを見定めようとしていることにも気づいた。
一体何を見定めようというのだろうか
社交の腕はないに等しいし、トリスティアが人見知りであることは、姉であるドゥフィーネが自身の経験によって一番よく知っているはずだ。
所作やマナーに関しては母に教え込まれているから、これまでの呼び出しで悪癖を指摘されたことはない。
だから今更そこを知りたいわけでもないだろう。
ドゥフィーネが何を知りたいのか、自分の何がそんなに気になるのか分からないし、そもそも姉の考えることを理解できたことなど今まで一度もない。けれど。
自分の何かをドゥフィーネが見極めようというのなら、今の精一杯を見てもらおう。
姉のお眼鏡に適うかどうか正直自信はないけれど。
マギーに誓って、頑張ることを決めたから。
そうとなればさっそくと、挨拶をくれた令嬢二人に言葉を返そうとして、こういう時はまず招いてくれた方への挨拶が先だということを思い出す。
挨拶の順番は、間違えてはいけない。
目の前のお二人へ軽く黙礼して、まだこちらを注視しているドゥフィーネの元へと急ぐ。
焦らず、慌てず、そして優雅に。
「ドゥフィーネ様、ご機嫌麗しゅう存じます。本日はお招き頂き、誠にありがとうございます」
「ご機嫌よう、トリスティア。よく来てくれましたね。今日は気取らない集まりだから、いつものように私のことはお姉様と呼んで」
「はい、お姉様」
「楽しんでいって頂戴ね」
トリスティアがよそいきの笑顔と最敬礼で挨拶すれば、ドゥフィーネも主催者の顔で応じる。その含みのない笑みを見て、どうやら正解だったらしいとトリスティアは安堵した。
やっぱり順番は大事なんだと、心に刻む。
ひとまずトリスティアの挨拶に満足したドゥフィーネが軽く手を振って下がるよう促すので、礼を取ってから、トリスティアはその場を離れる。
ここからはトリスティアにとっては未知の世界だ。
楽しんでいって、と軽く言われてしまったけれど、社交のためのお茶会で何をどう楽しめばいいか、トリスティアには分からない。
普通ならば人脈を広げたり、姫ならば将来のお相手を探したり、それぞれの楽しみ方があるのだろうけれど。
生憎トリスティアには今のところ、そのどちらも必要はない。
これからどうしようかと思いながら室内を見渡せば、ドゥフィーネの座っている席から放射状に配置された四人がけのテーブルセットに席次などはないようで、みな好きな席について歓談しているのが見てとれた。
いつまでも立ってはいられないし、どこに座ってもいいのなら、そろそろ席に着こうかと思っていると、背中にじりじりとした視線を感じる。
振り返らなくても、分かる。
トリスティアがどの席を選ぶのかを、きっとあの「覇者の子」の目で、姉が見届けようとしているのだ。
お姉様の目は気にせず、まずは先程のお二人にご挨拶することにしよう。
姉の視線にやりにくさを感じながら再び入り口付近へ戻ろうとして、トリスティアは先の二人組がもうそこにはいないことに気づいた。
席が決められていないお茶会の場合、多くの参加者と交流ができるよう席の移動が頻繁に行われるとトリスティアも本で読んで知ってはいたけれど、少し目を離した隙のことに驚く。
そっと視線を巡らせて、ドゥフィーネの席にほど近いところで目当ての二人組を見つけるも、二人の前の席は埋まっているし、談笑しているところに水を差したくはなくて、挨拶は後にしようと諦める。
こうなったら全部の席を回っていこうかと考えていると、姉の鋭い視線とは別の、様子を窺うような控えめな視線を感じて振り返る。
「トリスティア様、お初にお目にかかります。私はファンセ領コルボー伯ナサニエルと申します。よろしければ、こちらへおかけになりませんか?」
振り返り目が合った途端の流れるような挨拶と誘い。
昨日初めて間近で見た父よりも大きな体躯のわりに柔らかい声に威圧感はなく、親しみが持てそうだ。
何より、離宮の主様と同じ黒い瞳が、同じ優しい笑みの形をとっている。
「こちらこそ初めまして、コルボー伯爵様。お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」
少し緊張しながら挨拶を返したトリスティアは、コルボー伯爵がこちらと示した席に向かっていく。
トリスティアにとって、初めての社交が、始まる。
お読みいただき、ありがとうございます。
今日、あらすじを変更しました。
あらすじではぼかしていたトリスティアの秘密を明記することにしました。
今はまだ浮世離れしているトリスティアですが、これから徐々に成長していく予定ですので、よろしくお願い致します。




