三番目の子と、姉の呼び出し
ひとが、たくさんいる。
離宮にほど近い、王宮の外れ。
古くは夜の聖堂と呼ばれた建物を改築して作られたサロンへ案内されたトリスティアは、思わず入り口で固まってしまった。
いつもはお姉様と、二人きりなのに。
毎年トリスティアの誕生日の翌日、ドゥフィーネからこのサロンへの呼び出しがある。
始まりは、五歳の誕生日の翌日だった。
三歳年上のドゥフィーネが自身の裁量で社交を行えるようになったのをきっかけに、トリスティアはお茶会に招ねかれた。
それまで二人に交流などなく、お互い顔を見たのも数回程度、向かい合って卓を囲むのはもちろん、初めてのことだった。
まだ幼かったが、目の前のお姫様が姉で二番目の子であることも、お茶会の意味もトリスティアには分かっていたが、離宮育ちの人見知りな性格が災いして、上手く話すこともまともに姉の顔を見ることも出来なかった。
ただ美味しいお茶とお菓子を頂いて、姉の話を聞くだけに終わったトリスティアの人生初のお茶会。
上手く話せなかったし、俯いてばかりだったけれど、ドゥフィーネと過ごした時間は楽しかった。
きっともうこんなことはないだろうと、トリスティアは心の中でドゥフィーネに感謝の言葉を捧げた。
だから、まさかこのお茶会が、形を変えてそのあと何年も続くものとは思ってもみなかった。
最初は茶会だったのが、昼食会になり、小さな楽団や劇団を招いて二人で鑑賞会をするようになると、呼び出しは朝からになった。
サロンでの過ごし方はドゥフィーネのその時の気分で決められるのか、姉の美声が紡ぐ歌劇をただただ聞いているだけという年もあれば、姉が描く絵のモデルとして召喚されたこともあった。
モデルと言っても衣装をあれこれ着せ替えられて、あとは本を読んでいるだけの楽なものだったのだが、後日なぜか毛足の長い猫が豪華な安楽椅子に鎮座する絵が離宮に届けられた。
描かれた猫はトリスティアと同じ紫の瞳と金の毛色をしており、トリスティアに似ていると言われればそう思えなくもないが、届けてくれたのがドゥフィーネの専属筆頭侍女でなければ、この絵が自分をモデルにした絵だとは気づけなかっただろう。
一日かけてトリスティア色の猫を描いたドゥフィーネが何をしたかったのかは分からないけれど、その猫の絵はトリスティアのお気に入りとなり、今も寝台の傍に飾られている。
そんな姉からの冗談なのか本気なのかよく分からない、嫌がらせとも言えないような呼び出しも、毎年のことともなればこちらも慣れてくる。
当日マギーが大変なことに変わりはないけれど、恒例行事の一つだと思えば前もって準備できることもある。
事前に心構えが出来るようになり、今更特に緊張することもなくなったトリスティアが気にすることは、毎年マギーが張り切って着付けてくれるドレスと複雑に編んで結われたこの金髪がちょっとした不運で乱されないようにすることだけ。
ただそれだけの、はずだった。
「ご機嫌麗しゅう、トリスティア様」
「トリスティア様、さぁどうぞ中へ」
いつも姉と二人だけだったはずのサロンに、姉以外の人が、たくさんいる。
しかも皆、なぜかトリスティアのことを知っていて、こちらに向かって微笑んでいる。とてもにこやかに。
とても好意的な目に自分も挨拶を返さなければ気づいて、怯んだ足に力を入れてサロンの中へと踏み出せば、奥の方からじっとこちらを見つめる姉、ドゥフィーネと目が合った。
その品定めするような鋭い眼差しに、トリスティアはごくりと息を飲む。
今年のお姉様は、本気だ。




