三番目の子は、可哀想?
「姫様、お可哀想に」
離宮まであともう少しというところだったのに、伸びてきた芝生に気付かず足を取られてしまった。
考え事に気を取られた自分の不注意で躓き転げたというのに、どこからか駆けつけた侍女に悲しげな顔で憫れまれてしまう。
助け起こしてもらい、汚れた手を清潔な布で拭われるのを申し訳なく思いながら、トリスティアはそっとため息をついた。
こんなこと、可哀想でもなんでもないのに。
一番目の子は、王者の子。
二番目の子は、覇者の子。
三番目の子は、不憫な子。
三代に一度の、このなんとも風変わりな王家の戒めによって、現国王三番目の子であるトリスティアは生まれる前から「不憫な子」と決められていた。たまたま、戒めによる呪いが発動する今代の、三番目に生を受けたというだけで。
粗末な離宮で少ない側仕えの者たちと隠されるように暮らしている、憫れな三番目の子。
そろそろ十五にもなろうというのに公の場に出されることもなく、いつも誰かの大事な行事や祝いに紛れて誕生日を一度も祝われたことがないとは、なんともおいたわしい。
父王の目に留まることはなく、王妃や異母兄姉からも疎まれているという、可哀想な姫様。
戒めの呪いを受けた三番目の子というだけで、どんな些細なことでも人の口の端に上っては、可哀想にと憫れまれてしまう。
古から続く王家の因習のせいとはいえ、そんなに可哀想かしらと、トリスティアはいつも不思議に思う。
豪華でなくとも美味しい食事が朝昼晩と3回供され、公の場に出されなくとも皆から王家の姫として傅かれる。
父王や王妃に会ったことはないが、側妃である実母はわざわざ離宮まで会いに来てくれる。
滅多に会えなくとも、自分とそっくりな顔で品よくおっとり微笑む母は惜しみない愛を注いでくれるし、口数は少ないけれど優しい乳母と勝気でしっかり者の乳姉妹がいつも一緒に居てくれるおかげで、寂しいと思ったことがない。
それに、出会えば冗談か本気かよく分からないような意地悪を仕掛けてくる異母兄姉との仲も、そう悪くはないとトリスティアは思っている。
煌びやかな世界とは縁遠いけれど、戒めの呪いがかかっているこの身には余るくらいの好待遇だろう。
だから、可哀想だなんて思えない。
伸びてきた芝生の明らかな他意に足を取られたとしても、躓き転げた先に何故か刺草の群生が待ち構えていて一張羅のドレスが棘まみれになってしまっても。
こんなちょっとした不運を、日常的にお見舞いされているとしても。
トリスティアは三番目の子を不憫な子だなんて、ちっとも思わない。
たとえ、十五歳になったまさにその日に、自分が姫様と呼ばれるような身ではないことを、いまさら知らされたとしても。
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