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ふたりな  作者: TKN
8/8

第五話 「思考」

どうも、TKNです。

 今回はちょっとお色気?気味な作りを試してみました。



でわ、宜しくお願いします。

第五話 「思考」



あ~・・・体が痛い。動かすと鈍痛で体の節々が悲鳴を上げる。どれだけ無理させたのかが良く判る。

 休もうか・・・いや、休んだら洒落にならん。俺は筋肉痛に耐え、上体を起こし辺りを見回す。

ふと、固焼き煎餅な布団の横に、一枚の封筒。 


こんなモン置いた覚えは・・・、ああ、天野きてたんだったな。察する所給料の残りか。上がっててよかった。

 俺は封を開けて中身を覗く。諭吉っつぁんが一人俺を見ている。・・・いいのか。一日でそんなに。

 そう思いつつ諭吉っつぁんを引っ張り出すと、一枚の紙が落ちる。明細書か?

 俺はその明細書らしき、モノを見た。そこにあった文字。


「ごめんなさい。」


の、一文だけだった、泣きながら書いたんだろう。文字がまるで地に這うミミズの様にブレている。

 昨日の泣きっ面にこれだ。流石にこれで怒ったらカズタが怒るだろう。 怒る気も失せたが。

然しだ、何で天野はあの時に、あんな事を言う必要があったんだ?

 俺は、理解不能になりつつも、起き上がり顔を洗・・・えネェよ!!! 四次元ポケットしか受け付けない手。

 包帯でぐるぐる巻きにされた手。朝飯も食えない。顔も洗えない。トイレも・・・あんぎゃーっ!


突如遅い来る尿意。 しかし掴めないこの手。どうする。むりやり宛がうか。尿道炎症起こすよりましだろう。

 強引に用を足した俺。 見事に飛び散って水浸しならぬ尿浸しなトイレの床。掃除もできネェんじゃねぇか、この手。

 酷すぎる。



とりあえず、今日持って行くモノをカバンにつめ・・・込めネェよ!!!

 思い知る手のありがたみ。コレほど素晴らしいモノだったとは、身近過ぎて気づかなかった。

 無くして初めて気づくありがたみ。そんな俺はカバンを倒し、無理矢理必要なものを流し込んでいった。


時間はかかったが、なんとか準備を終えた。が、まだ一つ残っている。制服だ。

 こいつ。ボタン何か絶対無理だろこの丸い手。こう猫型ロボットみたいにモノが張り付けばいいもんだが。

 制服と座りながら睨めっこをしている、そんな俺の部屋に呼び鈴が鳴る。

誰だ?こんな朝から。 そう思い俺は筋肉痛の体を引き摺りつつ、ドアへ向かい開けた。


「お・・・おはよう。」


天野だ。俺の朝の惨状を読んでいたんだろう。この辺りは本当にスゲェ奴だと思うわ。


「ああ、おはよう。ワリィ。服着れなくてちっと手伝ってくんね?」

あくまで普通。あくまでいつも通り。昨日のアレは忘れろ。地平の彼方に飛ばせ俺。


「あ、・・・わ、・・・わかったわ。」

妙にしおらしい、普通にしてくれ。思い出してしまう。頼むから普通にしてくれ。

 といっても無理だろうから言わないが。

申し訳なさそうに、部屋へ上がる天野。 然しヘンな所だけ今まで通りだ。お邪魔しますぐらい言え!!

 然し、こうやってしおらしいと、普通。いや普通以上どころか、かなり可愛いと思うんだが。

 俺は雀ちゃん一筋なのだ。曲がらんぞ。


「じゃ、・・・着替えましょう?」


何かこう・・・何か凄くイヤラシイ感じに思えて仕方ない。単なる介護なのにそう思えて仕方ない。

 俺は自分で脱げる部分は脱いだ。流石にパンツは着替えるワケにもいかんぞうん。


「・・・下着はいいの?」


いや、いらんというか流石に嫌だ。


「恥ずかしがらなくていいからほら。」

いや!やめて! 流石に不味いから!それはダメ!いや!やめて!!

 嫌がり逃げようとする俺。


「大丈夫よ。恥ずかしがる事ないわよ。」


いや!恥ずかしがれ!特にお前が!! 立場逆だろ!!それとも見慣れてるのか!?お前!!

 嫌がる俺を押さえつけてきた天野。くそ!筋肉痛で余り力がでねぇ!カンベンしてくれ。まじで勘弁してくれ!!


「ほら、早くしなさい。」

出たよお母さん! なんでコイツこんなお母さんなんだ!

 もう気分はアレ!盲腸で入院して看護婦さんに息子の毛髪剃られるの嫌がる気分!!

ついに上に乗りやがった天野。 天野のふとももの柔らかい感触がモロに伝わってくる。

 とどめに後ろ向きなので、スカートがめくれてチラッと白い生地とお尻が見えている。やばい。やばいぞ。

 ハッスルするなよ息子頼むから冷静沈着クールガイでいてくれ!!!





・・・気が重いなぁ。

 昨日ワケもわからず、グーで殴り倒しちゃったし。しかも公園に置き去りにして。

風邪引いて無いかな。風邪引いてたらアタシの所為だよね。・・・気が重い。


アタシは、イッタの家のドアの前で立ちすくんでいた。

 あんな手だし、色々朝の支度不便だから手伝わないと。それでいつも通りに。

呼び鈴に指を伸ばすアタシ。・・・何か押せない。気持ちの整理がつかない?ううん。怖い。

 イッタに嫌いといわれるのが怖い。でもこのままも怖い。・・・よし!

アタシはドアが少し開いてる、鍵がかかってない事は知っていたので、思い切って開ける事にした。

 礼儀も何も無いけど、仕方ないよね。うん。このままだと動けないし。

よし。アタシは、思い切ってドアを開け、こう喋った。


「おはよう!イッ・・・は?」


アタシは一瞬思考が凍りついた。いや、もしかしたら天野さんはいるかもしれない。

 それは考えてた。けど・・・裸のイッタの上に乗ってる天野さんまでは予想すらしてなかった!


「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」


部屋が沈黙する。空気が冷たく、ズシリと重い。

 考えたくない、見たくない。思考より体が先に動き、気が付いたら、イッタの住んでいるマンションの入り口にいた。

 ・・・突然一気に思考が回る。


何、何で天野さんが裸のイッタの上に乗ってるの?何で?何で乗ってるの?そんな関係だったの!?

 じゃアタシを好きだとか言ってたのは何!?嘘なの!?二股!?・・・・最低。


アタシは、行き場の無い怒りとともに、突然走り出した。何処に向かうかも考えず。




「・・・最悪だ。」

思わず俺は言葉を漏らした。


「・・・ご、ごめんなさい。」

「いや、天野の所為じゃないだろ。こうなる事ぐらい予想出来なかった俺が・・・あ。」

しまった!予想つか先読みはこいつの十八番だった!!自爆!更に天野追い詰めちまったよ!!


「・・・! どうすれば。どうすればいいの?ねぇ、・・・イッタ。ねぇ。」


あれ?予想していた反応と違うぞ。何か、何かこう普通の女の子だ。っておい!しがみ付いてくるな!

 そんな捨て犬みたいな顔してしがみついてくるな!胸があたる!!俺は半裸だぞ固羅!!!

つか何だと!?今イッタいわなかったか!清水一多じゃなくてイッタとかいったかお前!!

 何だ何がどう何でこうなってアーッ!!!!理解不能わけわからん!助けてくれカズタ!っているわけねぇ!!


「・・・。」

「・・・。」

ぐああ耐え難き沈黙!押さえ難き息子の暴発!耐えろ俺・・・耐え抜け息子!!


「と、とりあえず服着せてくんね? アレは、まぁ事故だ。雀ちゃんには俺から説明しとくから。」


「う・・・うん。」

ほんっとにお前何があった!? 別人つかキャラクター変わってるぞおい!

 手を繋いでやらないと、すぐ迷子になるようなキャラじゃねぇだろ!

全く女ってのはわけわからん。

 そう思いつつ俺は両手を上げて、制服を着せて貰った。もちろんパンツはそのままだ。


「・・・出来たよイッタ。」


ほいほい、どうもありがとさんと。俺は礼を言い、学校へいくかと天野へ言った。

「朝食は・・・いいのかしら?」


「あ~まだ、筋肉痛とか酷い上に疲労すげぇから食欲わかねぇからいいよ。」

「そう、わかったわ。」


なんだ、作る気だったのか?まぁ、パン焼くぐらいならあんな味にもならんし、甘くても食えるから問題ネェけど。

 今はそれどころじゃない。雀ちゃん捕まえて説明・・・だな。


「ねぇ、イッタ。・・・その、昨日の事だけど。」


「昨日?何かあったか? 疲れてぶっ倒れて寝たから記憶飛んでるかもしんね。」


あ~・・・優しいな俺。ほんと優しい。ん?なんでこっち見てんだよっつか。こいつ目の下にクマできてるじゃないか。

 一睡もしてないのか。か~・・・ますますもって怒る事も出来ん。その気もないが。 

「・・・そう。ありがとう。」

お~、そうそう。人間素直が一番。や、素直過ぎると馬鹿を見るんだがな。特にこの物語だと尚更だろう。

 つか名前。・・・まぁどうでもいい。


「よし、んじゃ学校行くか~。」

「そうね。そうしましょう。」


俺と天野は、学校へ行く為に部屋を出た。

 さて、これからどうする?普通に。といった先からコレだ。更に拗れちまったよ。

 然し!良く耐えた、良くハッスルしなかった!よくやったぞ息子!これで元気爆発しちまってたら、

 どうなったか想像すると恐ろしいのでやめておこう。




「ふぁ~、いい天気だ。」

軽く伸びをして、いつもの時間に家を出て、通学路に向かった。

 5月も近いのに、少し冷えるな。 然し、さて。

 天野はまだ置いておいて。イッタの奴がどういう行動に今日から出るかだ。

アイツの性格から察すると、いつも通り普通に。だろうが。何か嫌な予感がする。

 ・・・ん?あれは静原か? 俺は、通学路の途中、まるで誰かを待ってる様に・・・いや。

行き所の無い怒りを電柱にぶつけている。が正解か。・・・電柱蹴ってるよ。


「おはよう静原。どうしかしたのかい?えらくご機嫌斜めだな。」


「あ゛!?」


・・・声に過剰に反応した静原が、最早条件反射の領域でこっちを向いた。凄いイカツい顔で。 

 こりゃ相当予想外な事になってるな。とりあえず聞いてみるか。


「取り合えず、電柱を蹴るのをやめようか?公共物破壊するつもりか?」

「あ!・・・ごめん。」

「流石に電柱倒壊する筈もないし、構わないが。なんでそんな怒ってるんだ?」


ちょっと危険な賭けだが、こういう子には変に包むよりストレートな方が良い。


「あ、・・・うん。実はね!」

襟首に手が届かない静原は、俺の制服の腹部を掴んで激しく揺さぶってきた。


「こらっ、取り合えず落ち着け。俺はシェイクじゃないぞ。」

「ごっ・・・ごめん。あのねイッタがね朝家でね天野さんとね裸で馬乗りだったの!」


錯乱気味だな。いつもの口調でもなければ、文法も酷い。というか直訳するとヤバいだろうそれは。


「要するに、朝にイッタの家にいったら、・・・ん?裸ってどっちだ。まさか両方か?その返答次第で、

 俺もイッタを殴らないといけないんだが。静原さん。」


少し眉間にシワを寄せた俺に静原さんは、こう答えた。

「う、ううん。天野さんが上にのってたの!裸のイッタに。」


「ふむ。で、その後どうしたのかな?」

「え・・・と、気が付いたら遠くにいたの・・・。」


成る程、余程想定外かと思ったら、易い易い。

「静原さんは、何でイッタの家に行く必要があったんだい?」

「そっ・・・、それはほらイッタ手を怪我してるから。」


「そう。手を怪我している。とどめにあのまともに物も掴めないぐらいに巻かれた包帯の手だ。

  君と同じく、天野さんもそうだろうと思って、君より先に行っていた。

 そして、服の着替えを手伝っていた時に、何らかの不可抗力な事故が起こって、君が来た事と重なった。

  俺は、そう思うぞ。天野さんがイッタを押し倒す必要がどこにあるのか。何処にも無い。

 ましてや、イッタは絶対にそんな事をしない。今でも静原さん一筋だからね。」


俺は、一息で推測の全てを伝えた。あんまりややこしく話すと、余計に混乱しそうな気がするからだ。


「そ、そう・・・いわれてみれば、その通りかもしれない・・・でも。」

「でも、何だい?イッタの事を良く知っている俺に、答えを教えて欲しくて、あそこで待ってたのじゃないのかな?」


「あう・・・。」

「それとも、それとは別に、何か悩みの相談事かな?例えば、君がイッタの事をどう思っているか。とか。」


その言葉に俯きながら、静原さんはただでさえ丸くて大きい目を更に大きく見開いた。

 図星か。そんなもの教えるものじゃあ無いだろうに。俺は少しため息を吐くとこう言った。


「静原さん、自分の気持ちは自分にしか分らないよ。イッタならまだしも、

 君とは知り合って日が浅い。尚更の事だ。」


「そ・・・そそそ、そうだよね。」

「残念だけど、俺には力にはなれない。これは君自身が解決しなきゃならない事だね。」

「う・・・うん。」


残念そうに、顔を沈める静原さん。ごめんな。分ってるけど、言うべき事では無いんだ。

 然し、なんと言うか、イッタ、こんな恋愛モノの典型的トラブル引き起こすとは、なんてベタな奴。


「さて、そろそろ行かないとな。」

「あ、うん。」


俺と、静原さんは、そのまま学校へと向かった。




「・・・。」

「・・・。」


ああもう嫌だこの空気!何この何!?お互い好きなのに言い出せなくて、黙って通学する男女な空気!!

 雀ちゃんなら大歓迎だが天野!ギャース!


「あの、ね・・・ねぇ。」

「あん?」

おもっきり悩みを顔に出してたの読まれたか!?


「あ・・・ううん。なんでもないわ。」

「なんだよらしくネェな。言いたい事はハッキリ言えよ。」

本当にらしくない。遠慮の欠片も無い奴が遠慮すると、何か気持ちワリィな。


「う・・・うん。あの、その・・・。」


いい加減何かムカついてきた。というか空気に耐え切れなくなったのか、俺は暴挙に出た!


「え、・・・ちょっとなに! むぎゅ。」


俺はおもっきり天野の頬を・・・ほんとなら掴んで左右に引っ張りたいとこだが、出来ないので押した!ぎゅぅぅっと!

 ぶっ。すげぇマヌケ面。美形の顔押すとヘタにブサイクより笑えるもんなんだな。


「な・・・なっ・・・なっ・・・。」


おっ、おっ? おっ!?


「何するのよこのお馬鹿!!」

キター!!長いあんよの槍の様な蹴りが、俺の腹部に突き刺さる。


「はぁっ・・・はぁっ・・・。」

「いつもの調子出るじゃないか。」

俺は両手を軽く左右に開いてあげた。

 

「ほれほれ、まだそんな似合わネェ事してるとまた饅頭にするぞ、ほれほれ。」

調子に乗った俺は、天野の顔をまた挟もうと近づく。


「いい加減に・・・しなさい清水一多!」

「どわっ!キレた!やばい逃げろ!」


俺は勢い良く、ようやく見えてきた校門に向かい逃げ出した、天野も追いかけてくる。

 うん。まぁ、この調子でよろしい。後は雀ちゃんだけどっと。お?


なんというタイミングか、雀ちゃんと、カズタがいるな。これはカズタが助け舟出している可能性大!

 この勢いで突っ切れ俺!!


「雀ちゃ~ん!おはよう!愛してる抱きしめさせてっ!!!!」

 そう、毎度毎度。その毎度がこの言葉である。そして、その直後、俺は校門で這い蹲る。


「イ・・・イイイイイ・・・イ、イッ。」

「お、おはようイッタ。て天野さんもか、珍しい組み合わせだな、ておいイッタ後ろ。」


へ?と、思ったその瞬間俺は前にスライディングしていた。どうやら、今回は別の意味で這い蹲ったらしい。

 良かれと思って弄った天野の、怒りの蹴りが俺の背中にクリティカルヒットしていた。


「うぼぁぁぁぁぁぁっ。」

校門前で、スライディング。これは未だやったことの無い恥だ。

 あの肘ではった押されて踏みつけられるのとはもまた違う恥である。辺りの視線が痛い。


「お見事。」

カズタてめぇお見事じゃネェよ。

「イ・・・イイイイっイっ。」

雀ちゃんさっきから何それ。反応見てる限りカズタが助け舟出したのは分るが、

 その反応はなんなんだ。俯いて緊張して凝り固まった反応は。


「はぁっ・・・はぁっ・・・イ・・・じゃない。清水一多。よくも私の顔にあんな事を。」

「イッタお前、天野の顔に何したんだよ。」


「饅頭食らわした。」


その言葉に、腹を抱えてカズタは笑い出した。雀ちゃんは相変わらず固まって・・・ぶげ!

 その瞬間背中に、いつもと違うプレッシャーが襲い掛かった。

「さて、どう料理してくれましょう。・・・清水一多。」


雀ちゃんじゃなくて、天野が踏んでやがる!いやだ!踏むな固羅!!

 

「お前、またイチゴかよ。」

その瞬間慌てて、俺の背中から長いあんよを引いて、スカートを押さえる天野。

 当然、見ていない。見る気も無い。だがその一瞬をついて、校内へ土煙を上げて逃げた俺。


「そういえば・・・今日違うわ。あ!待ちなさいコラ!!!」




「何か、思ったより元気だな。」


予想していたよりも、天野さんは元気な様だ。どうやらイッタの奴が予想よりも上手くやっているらしい。

 で、後はこの子だけだな。イッタが向こうにいったのも気付かずに、固まっている。

ふむ。割と早く元に・・・いや、怪我の功名か。俺がこれ以上関与する必要も無いな。どうやら。


「静原さん、イッタ達はもういったぞ?」

「え!?あ、ああああああああああああっ!挨拶!」


・・・そこまで緊張してたのか。まぁ、いいか。後は面白そうだから傍観しよう。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!どけ死なすぞ固羅!!!!!」

 俺は走る!捕まったら洒落にならんので廊下を全力で走る!

 

「待ちなさい!清水一多!!」

すげぇ勢いで追い上げてくる。 コイツ・・・何気に足が速ぇぇぇ!!


俺は勢いも殺さずほぼ直角曲がりでクラスに飛び込んだ。

 そして気が付いた。行き止まりだと。


「やべぇ!!」

そして、クラスに飛び込んでくる天野。

「清水一多ぁぁぁぁぁ・・・。」

相当息が上がってる、普段あんなに走らんのか。まぁそりゃそうだ。

 なんて言ってる間に、天野が迫ってくる。どうする! 俺は辺りを見た。何か使えるモノ。・・・あれだ!


俺は、立っていたボブを見つけ、背後に隠れる。こいつの巨体なら上手く回って時間まで逃げ切れる!

 

「oh!おはようございました!」

いや!ツッコむ余裕無いからつっこまんぞ!


「あ、あらおはよう。ボブ=グラスン。ちょっと、そこの清水一多を捕まえてくれないかしら?」

ボブににっこりと、そういった天野。その瞬間俺はボブに捕獲されていた。


「イエス!エンプレス!」

思わぬ誤算。こいつも敵だった。


「イッタ!ねんぐのおさめどきですネ!」

こういう日本語だけなんで正確で的確なんだお前は!!!!


「ありがとう。ボブ=グラスン。」

「okok!」

okok!じゃない放せ!開放しろっ!


「さて、どうしてくれようかしら・・・?」

うわ~、昨日のアレ程ではないにしろ。怖い!

 さっきのしおらしい天野のままが良かった!!そう俺は激しい後悔を覚えた。


「聞いているの?・・・ねぇ、清水一多?」

然し、あの気持ち悪い天野も嫌だ。 あーっもう。どうでもいい!好きにしろ!!

 と、何も言わず観念してぐったりする俺。それを見た天野はこう言った。


「ま、・・・まぁ。今回の所は許してあげなくもない・・・わよ。」

俺から目をそらして言う天野。

何?いや、もう既に蹴りくらったり踏まれてるんですが。あれでまだ足りないと仰りますか。


「放してokネ?エンプレス。」


「ええ、構わないわ。放してあげて。ありがとう。ボブ=グラスン。」


「ノープロブレーム!いつでも言うね!イッタをダホするね!」


いや、拿捕は違うだろう。拿捕は。つかなんでそんな言葉を知ってるんだお前は!!俺は船か!漁船か!


「さ、早く席に着きなさい。そろそろしぎょ・・・きゃっ!」

何だ!?また予想外!いきなりボブが天野を捕まえた!?なんだこりゃ。

 天野を捕まえたボブが教室の入り口へと走り出す。その先には、雀ちゃんとカズタ。

 ・・・なんだ。何する気だ。おいボブ!


「おはようございました!」

「え!?あボブおは・・・ぎゃんっ!」


ギャン!?犬が驚いた時のような声をあげた雀ちゃん。と同時に天野を抱えてる腕で、雀ちゃんまで抱え込んだ。

 お前・・・昨日のアレ見てないのか?それはヤバいだろ!

あろうことか、雀ちゃんと天野を超至近距離というか密着させやがった!


「ちょっ・・・ボブ=グラスンやめなさい!」

「いやっ!やめてよこの馬鹿!!」

「おいおい。」

「okok!ワタシオンナノコ興味ありませーん!」


そういう問題じゃねぇ!それも問題だが問題じゃねぇ!!


「はっ・・・離れなさいよ静原雀。」

「そっちこそ離れてよ苦しい!」


うわーうわーうわーやばいっやばいっやばい!!

 俺は慌ててボブを止めに入ろうとしたその時。


「元気出すね!ワタシの元気わけるネふたりとも!」


あ?・・・何か誰かにいわれたのか?こいつなりの思いやりなのか?この暑苦しいベアハッグが。


「わ・・・わかったから放しなさい!ボブ=グラスン!!」

「わかっ、わかったからもう放して!!」


まぁ、お前等もその暑苦しさ味わってみると良いだろう。うん。

 カズタは笑いながらそれを見ている。こいつが余裕なら、大丈夫なんだろう。

二人を解放して、更に二人の背中を叩くボブ。

「hahaha!元気でましたか!よかったです!」

「何がですの!?いきなりこんな・・・破廉恥な!」

「そうだよ!アタシも怒るよボブ!」


「hahaha!ワタシニッポンゴワカリマセーン!!!!!」


その時、ボブを除いた、教室に居た全員がツッコんだ。


おもっきり日本語じゃないか! と。


まぁ、何だ。それよりも雀ちゃんと天野だ。どうなる。


「本当。わけの分らない人だわ。ボブ=グラスン。」

「うん。今回のは特にワケわからないよね。」


お?何か普通に相槌うったぞ?


「・・・あ。」

「・・・あ。」


お前等もいい加減あれだな。流石にあんな事のあとだから分るが。


「お・・・おはよう。静原雀。」

「・・・おはよ。」


あ~。まぁ当然だが、ぎこちないな。何かこう敵視ともどかしさが入り混じった。

 いや、単純に対応に困ってるだけか。


「・・・。」

「・・・。」


二人とも俯いたまま、黙っている。その空気を打ち破る様に、始業のベルが鳴る。


「あ。早く席につかないと。」

「うん。」

助かった。そう互いに思ってるんだろう。俺もそうだが。まぁ、なんとかなったようだ。

 俺も席につき、先生がくるのを待つ。


さて、思わぬボブの暴走だったが、これからどうするか。

 取り合えず、昼だ。昼。


俺は、色々とまぁ、予想してみたり考えてみたりしたが。カズタでもない天野でもない。

 そんな俺が、相手の心理を読んだり、推理したり出来るはずも無い。


進化論。生物はその環境に相応しい進化を遂げていく・・・か。

 普通、進化なんて何百年・何千年もかけてゆっくりとだろ?

 それを一世代どころか、数年で成るものなのか。本当にそうなら、どれだけ天野が修羅場をくぐってきたのか。

 少なくともガキの喧嘩レベルのモノではそうはならんしな。俺が良い例えだ。

 まぁ、馬鹿げたタフさ。という点ではある意味俺もそうなのかもしれないが。

俺も、そうだ。もっと知らないといけないな。天野程ではないにしろ。

 相手を見て考えるぐらいはしないといけない。うん。そうしようと思いつつ、昼になる。




「しゃおらぁぁぁぁぁっ」

「ああ、俺の分もヤキソバパン宜しく。」

「お前もたまにはいけよ!」

「いや、俺にアレは無理だ。だがお前はヤキソバパン獲得率100%だからな。」

「しゃあねぇなぁ。」

「頼んだわ。」


何か、パシられてる感じがしなくも無い俺。

 購買のとこに並ぶパン。中でもヤキソバパンが速攻で売り切れる。

何故なら、ここのヤキソバパンだけが異様にウマい。

 ソースもそうだが具も多い。一個100円と値段も相まってこの有象無象どもだ。


「どけ固羅ぁぁぁぁぁぁっ!」

手前に居た男も女も先輩も後輩も関係無い。後ろから手首をひっかけ後ろに引き倒して進む俺。

 そう、ここは戦場だ。先輩も後輩も男も女も無い。あるのは取るか取られるかだ!


数分後、もみくちゃになって服がさんざ乱れたが、何とかヤキソバパンを三つ程。

 後はアンパン一つ。まぁ、あの人数相手にまずまずの収穫だ。

俺は満足気に教室に戻った。


「お、お疲れさん。」

「ああ、ほれ。たまにはお前も行けよな。」

「まぁ、そういうな。」

ったく。まぁ、別のことで色々助けてもらってるしな。主にテストで。

 ヤキソバパンとアンパンを渡した俺。何か俺の持ってるのと見比べてるが、気にしない。


「さて、俺は席を外すぞ。」

「は?いや、なんでだ?」

「気付け、お前もいい加減鈍いぞ。」

なんだよ。ワケの分らん事をいって、教室を出て行った。屋上で食うのか?

 まぁいいか。俺はヤキソバパンを開け・・・、られねぇ。

 挟んで取る事は出来ても、掴む事が出来ないもどかしさ。

 口で袋を開けて、両手でパンを圧迫して口に運ぶ俺。ふと、窓際に目をやると、

 一人で天野が弁当を食っている。何か旨そうなもんはいってるんだろうな。

 ふと、天野の顔を見る。どう考えても旨いモンしか入ってネェだろうに。なんで不味そうな顔なんだ。

そういや、食ってる所なんざ気にもしなかったな。

 雀ちゃんに、視線を移してみると、他の知り合い。ああ、仲が良いのが居たな。

 確か、矢瀬雪菜やせゆきな

 黒髪にボーイッシュな短い髪。ややアンバランスな髪の切り方をしている。

  単純に言うと、俺の女版みたいな奴だ。勉強はアレだが、運動能力が高い。

 陸上をやっていて、確か二年の癖に先輩さしおいて副部長をやっていたような。まぁ、どうでもいい。

  然し、まぁあっちは楽しそうに食っ・・ああ。そういう事か。

一人で食っても旨いはずがネェやな。・・・鈍い。こうしろというのかカズタ。

 あんまり気乗りしないが、まぁ。已む無し。


俺は、パンを抱えて自分の席を離れ、天野の前の奴を蹴り倒して、椅子を奪い天野の前に座った。

 蹴り倒した奴が文句も言わず、そのまますごすごとどっかいった。・・・まぁどうでもいい。


「ちょっと、そんな理不尽な事やめなさいな。清水一多。」

お説教か、知らん。俺は俺のやる事に後悔しないし、文句言う奴には遠慮しネェ。

「・・・相変わらずね。そんなだから・・・。」

「友達少ないってか?」

「・・・。」


しまった。ついやっちまった。どうする考えろ。コイツを見て考えろ。

 学べ俺。考えろ俺。

どうする?取り合えず会話だ。何をどう会話作る。

 ・・・よし。俺は俺らしく。これは外せない。だがどう俺らしくする?

 理不尽。そう理不尽だ。これを使わない手は無い。だがどう理不尽にするんだ?

 ・・・そうだ。これがいい。


「お、旨そうだな。ちょいもら・・・。」


手が使えない事に気付いたが時既に遅し。

「・・・馬鹿ね。その手でどうやってつまみ食いするのよ。」

「うぐ。」

しまった、焦り過ぎた。


「ほら、口あけなさいな。」

お?わりとうまくいった?まぁいい。取り合えず食って何かに繋げるんだ。

 こいつか作ったのならそっち方面。他の誰かが作ったのならそっち方面。

不本意ながら、天野に口に入れて貰った俺。

 む。旨い。普通に・・・いや異様に旨い。誰だろうか。


「これは誰が作ったんだ?凄まじく旨いな。素人が作ったモノでもなさそうだが。」

「ええ。これはアリサが作っているお弁当よ。 美味しいでしょう?」


アリサさんか!見た目も凄いが味もそれに伴っている!!素晴らし・・・あいや、さてどこからつなゲフッ!!

 突如飛んできた椅子! 俺の背中を強打する。


「あんだ固羅どこのどいつだ固羅ブチコロス!!!!」

俺は怒りを発すると同時に、飛んできた方向であろう、そこへ振り向いた。


誰が投げたかは一発で分った、おもっきり振りかぶった状態のまま、こっちを見てる。矢瀬。

 雀ちゃんの親友だからな、俺が雀ちゃんを好きなことぐらいは当然知ってる。

 つか校内で知らん奴はまずいないだろう。朝のアレがあるだけに。

にしても・・・許せんな。俺は立ち上がり矢瀬に駆け寄り、矢瀬の顔に、引きつらせた顔を近づけた。


「テメェ・・・矢瀬。いくら雀ちゃんの親友だからといって、・・・例外はネェぞ固羅。」


実際俺にガンタレ食らって目を背けないのは、雀ちゃんや、天野ぐらいだと思っていた。

 

「アンタみたいな、マダオでタラシでどうしようもない馬鹿何か怖くもないわバーカ。」

こいつ・・・ガンタレで返してきやがった。つかマダオ言うな!!


「言い度胸だ。ちっと屋上こいやクソ女。」

「は?何でいかなきゃなんないのよマーダーオー。」


・・・我慢の限界だ。雀ちゃんの親友といえど許せん。顔をゴンザレスみたいにしてやる。

 

「・・・イ・・・イ、イイイイ。」

ふと雀ちゃんの方を見る。まだ何かフリーズかかってるんですけど。何かも・・・げっふぅ!

 また後ろから衝撃が。


「はぁ、清水一多。校内でケンカは駄目なのは分るでしょう?」

今度は蹴られた。まぁ、そりゃ、そうだがコイツから売ってきた。買わなきゃ男・・・。

「売られたケンカは買わなきゃ、男じゃない。かしら。

 むしろ、寛容してあげるのが男じゃないかしらね・・・?」


ぐ・・・ぐうの音も出ん。相変わらず読んできやがる。


「へいへい。サーセンサーセン。」

「・・・またそんな返事。 矢瀬雪菜、機嫌を損ねてしまった様だけど、

 私と清水一多は何でも無いわよ。ただその手の傷の事もあるから。食べさせただけ。・・・勘違いはしないでね。」


まぁ、そりゃそうだ。つか気を使ったつもりが使われてしまったのか。俺は。


「あ、そう。でも雀の前でそれはやめてよね。」

ああ、まぁそりゃそうだ。つかそれは俺が悪いやな。

「・・・そうね。それは謝るわ。でも、それは口で先ず言うべきではなかったかしら?

 矢瀬雪菜。」


「は?」

「は?じゃないでしょう?貴方の考えは貴方にしか分らない。

 何も言わずに相手が理解してるとでも思ったのかしら?

 それで、分らないのか?と物を清水一多にぶつけた。違うの?」


・・・天野お前。お前は判ってるだろう。読むだろう!

 だが、その通りだ。まぁ、俺が言うのはおかしいだろうが。


「だ・・・だから何だって言うのよ。コイツだって相手の事何ておかまいなし好き放題じゃない!」


悪かったな。好き放題で。耳が痛い。


「そうね。その通り。今までの清水一多なら。そうだったわね。」

「どういう事よ。」


何か、庇ってるぞ。天野が俺を。何だ何の気まぐれだ?


「でもね。どうしようもなく理不尽で、どうしようもないマダオな彼がね、

 初めて自分の好きでもない誰かに気を使ったのよ。

 それを貴方は椅子を投げつけてきた。・・・おわかり?」


何かさり気に酷い事いってません?ねぇ。その通りだけど。


「そ・・・それは。」

「理不尽な彼が、折角下手なりに考えて行動した。それを貴方は潰したのよ。

 これが切欠で清水一多が、金輪際気を使わなくなったら・・・貴方、どう責任とるおつもりかしら?」

うわ~・・・流石ドSお嬢様。遠慮の無い射程範囲外からの狙撃。口論でこいつといい勝負するのカズタぐらいじゃないか。


「う・・・。」

「ちょっと、やめなよ。」

「静原雀?何か御用かしら?」

「用じゃないよ!雪菜苛めないでよ。」


うぎゃー!!!!またこんな状態でこんなうぎゃーっ!カズタ!助けろカズ・・・屋上だった。

 どうする。考えろ。かんがえ・・・寛容してあげるのが男。そうか。そうだな。


「悪かった!俺が考えなしに行動した俺が悪かった!

  謝る。だから、これで治めてくれネェか?」


初めてだろうか。人に頭を下げるのは。いい気分じゃネェ。不快だが・・・仕方無い。


「うそ・・・。清水が頭下げる何て、初めて見た。」

「イ・・・イイ、イ・・・。」

おい、雀ちゃん相変わらずそれか。つか何でそんなのになるんだ。


「・・・清水一多。頭を下げるそれは良いのですけれど。・・・凄い怖い顔になっているわよ。」


しまった!!!!余りの不快さに顔が!!


「でも、それだけ自分を殺して頭を下げた。そう取って良いわね。」

そう!それだ!考えても無かったがナイスだ天野!!!


「もういいわよ。でも気をつけてよね。雀を悲しませる様な事だけはしないでよね。」


「ああ、分ってるよ。今後気を付ける。」


本当に初めてだな。いつもの俺なら確実にコイツを、女だろうがボコボコにしてただろう。

 

「さ、清水一多も自分の席に戻りなさい。・・・私の事はいいから。」

「あ~・・・だけどよ。」

「二度・・・言わせるつもりかしら?」

「いえ、サーセン。」


そう言うと、一騒動が治まり俺が、天野の所に行く前の状態に戻った。

 雀ちゃんの方を、チラリと横目で見る。何か挙動が怪しいが、まぁ、問題なかろ。

 天野の方は、ああ、さっきと同じだ。あれだけ旨いモンを不味そうにくってる。



然し、まぁなんつーか。俺が頭下げるなんざ考えても見なかったな。そりゃそうだ。

 俺は俺のやりたい様にやる。邪魔する奴は女でも容赦しねぇのが俺だしな。

・・・いや俺だった。か? まぁ、今後はちと考えねばならんのだろう。

 然し、なんつーか、なんだな。この行き場の無い不快感はどうすればいいんだ?全く。



イライラしつつ、受けたくも無い授業が始まり、疲れている俺は寝た。

 何か頭を教科書で叩かれた気もするが、気にせず寝た。




ん? 目が覚めた俺。 既に教室が赤みがかかっている・・・夕方か。

 良し、とっとと帰って寝るか。まだ寝たり・・・ん? 起き上がるとブレザーが肩から落ちた。はて。女物?

「おきたかしら?清水一多。相当疲れている様ね。」


ああ、天野のか、俺は落ちたブレザーを拾おうとしたが、掴めないこの手に気が付いた。


「いいわ。・・・自分で拾うから。」

そういうと、天野が自分でブレザーを拾い、座った姿勢のまま、俺の方を見る。」

「な、なんだよ。」


「・・・少し、見直したわ。」


は?見直した?じゃ今まで何だったんだ?

 ま、まぁ、いいか。


「さて。今晩はどうするのかしら?あの様子だと、静原雀は、家にはこないでしょうし。」

それだ!その雀ちゃんの様子だ。こいつの千里眼なら見抜いてるだろ。


「そう、それだよ。何か雀ちゃんがフリーズするんだが。アレ何でかわかんねぇか?」

「・・・さぁ?」


お ま え。 分ってるだろ。絶・・・対!わかってるだろ!!!

「でも、そうね。」

お?お?お?


「自分でどうすれば良いのか、それが判らない。それが表面でどう出るか。

 それは人それぞれ個人差があるわね。」

ああ、まぁそりゃそうだ。ってああ、成る程。つまり俺に対して今後どういう身の振り方していいのか判らんってことか。


「・・・私だって。」


「は?」


「いえ、何でも・・・ないわ。」

「あ、ああ、そうか。」


何だ、こいつもなのか?いやコイツは大分いつも通りだろう?


「夕飯や、お風呂はどうするのかしら?」

「あ。」


しまった。そういや作れん食べれん・・・いや、パンは食える。

「コンビニでパンでも買って帰るわ。袋ぐらいは口であけられるしな。」

「またそんな。・・・いいわ、あの仔犬もつれてウチにきなさい。」


いや~。それは悪い。つか、また変な誤解されても困るワケだ。

 だから尚更行けない。

「・・・そうね。また誤解されても困るわね。 だったら私が行くから。」


いやまて。待て待て待て。それもそれでまた・・・あいや。手の怪我が理由だから誤解はされないか。

「そ。誤解はされない筈。」

相変わらず読んでくるなこいつ。


まぁ、仕方ない。つか、コイツの料理食うのか。しかも少しずつ食わされるのか? ちょっと嫌。ものすごく嫌!!!

 悩む俺を横目に、携帯を取り出した天野。


「アリサ?悪いけれど、清水一多の家まで、食材持ってきてくれないかしら?

 貴方の料理。気に入ったみたいだから作ってあげて。」


え?アリサさんの料理?まじで!・・・っといかん!読まれる。平静平静。


「うん。そう。あと怪我の手当てもだから、救急箱と。」

う~ん、至れり尽くせり。今晩はわりと素敵な夜になりそうだ。

 

「さ、帰る頃には、アリサもついてるから、いきましょう。」

「あ、ああ。でも何か悪いな。お前もお前で忙しいんじゃないのか?」


「・・・そうね。でも大事な友達が怪我してるのだから、放っては置けないでしょう?」

「そうか。ありがとな。」

「・・・いいわよ。」


大事な友達。ねぇ。そんな風に思われてたのか。

 まぁ、こいつも俺と同じで・・・いや怒るか?まぁ似た様なモンだしな。


そんなこんな、帰路についたワケだが。

 自宅について、入り口にアリサさんがいる。 一緒に部屋へと入ったワケだ。


「清水様、休んで居て下さいませ。」

えらい笑顔。凄い美人。そして何よりそのおっ・・・とといかんいかん。天野がまた見てやがる。


ちゃぶ台の前に座り、空腹がピークにきているゴンザレスに気付く。

「そういや、お前昨日の晩つか昼?から何も餌やってなかったな。」

「ちょっと、仔犬餓死させないでよ?」

横から天野が顔を出してきた。

「サーセンサーセン。疲れきってて忘れてたんだよ。」

「まぁ、・・・いいわ。それよりも清水一多。」


何か真顔で俺に聞いてきた。何だ。


「・・・胸の大きい女性が好みなの?」

直球!ド真ん中!なんちゅうストレートな事きいてく・・・やっぱさっきのバレたか。


「いや?ただまぁ、アリサさんぐらい美人でアレだと、男なら嫌でもこう胸元にいくぞアレは普通。」

「・・・そうなの。」

なんなんだよ。全く。


それからは無言で、ただアリサさんの作る料理の音が部屋を流れていた。

 いい匂いだ。空腹に耐えかねたのか、アリサさんの足元にゴンザレスがすりつく。

ある程度出来ていたのか、ゴンザレスに料理を食べさせている。

 旨そうに食うなぁおい。お前にゃ勿体無いわそれ。

ん?そいや、またしても不可思議な事が。

 普通なら、コイツが作るだろうに。何で急に作らなくなった?

 何か、今朝といい様子がおかしいぞ?基本的にいつもと大差無いぐらいだが。

 部分的にこう何かおかしい所がしばしば。


「・・・清水一多。」

「あん?」

俺の名前を呼ぶと、俯いたまま、黙り込む。

「あの、・・・その。」

「なんだよ。」

何かもじもじしてやがる。何だ。気持ちワリィ。

「そ・・・その名・・・名前。」

おい。安物だが大事なカーペット毟るな。毟ってくれるな。つか名前? ああ。

「イッタでいいよ。フルネームじゃ呼びにくいだろ。」

「あ・・・。うん、そうね。ありがとう。」

そもそも、こいつ何でフルネームで呼ぶんだ? その辺りも不可思議だ。

 もうちっと砕けられんのか?まぁ砕けすぎてる俺もどうかと思うが・・・と、お。アリサさんが料理持って来た。


うほ!すげぇ。何だこのフランス料理みたいなもの。あんな台所でこんなのできるのか?

 

「さ、準備が出来ました。どうぞお食べになって下さいませ。」

お~お~。喜んでいただかせていただきます。

「さ、イッタ。口をあけて。」


・・・アリサさんがジッと見てる。何かこう、何か・・・妙に照れくさい。

 しかしどうにも食べられんので、嫌でもそうしなくてはならない。

 俺は、目をそらしながら、口に料理を運んでもらう。

「ん。ウメェ!」

久しぶりに普通の、いやそれ以上のモノを食った気がする。

「当然よ、アリサが作った・・・料理なんだから。」


何だろうか、何か含みのある言葉。・・・。

「いや、だが天野、お前のも食いたかったんだが。」

嘘だとバレるな。心からそう言ってる顔をしろ。読まれるな俺。

「本当。下手な嘘ばかり・・・。」

「お嬢様。」

「ええ、わかってるわ。ありがとう・・・イッタ。」


あ~、何かやっぱアリサさんは、天野の姉さん的な感じすんなぁ。

 美形っつのは似てくるモンなのか?まぁ顔が整うモンだから。本当に姉妹に見えなくも無い。


そんなこんな、料理を全てたいらげた俺、コンザレスも満足そうに丸まって寝ている。

「ごっそさん!旨かったよ!」

「おそまつさま。」


さて、後は寝るだけだ・・・

「後は、お風呂ね。」

「そうですね。お嬢様。」


!? 風呂!? 待てそれはまた何か雀ちゃん着て更に拗れるフラグが、

 巨塔の様なそびえ立ってるから遠慮したい!遠慮させてくれ!

「部屋の鍵はしめているわね。アリサ。」

「勿論で御座います、お嬢様。」


いや!フラグ消さなくていいから!ほら。それ以前に年頃の男の風呂に・・・あーっもう!

「いや!それもそうだが!それ以前に駄目だろう!? つか男の裸見て恥ずかしがれ!!」

「怪我人の看護するのに、それは関係無いと思うわ。」

「そうですね。」


いや、お前等。確かにそうだが、そうじゃない!そこじゃないんだ!!!

「私が嫌なら、アリサにしてもらう?」

え、アリサさんに?体洗って貰う?・・・でへ。


「何かよからぬ事妄想してないかしら?イッタ。」

「まぁ・・・年頃の男の子ですから。お嬢様。」


おもっきり見抜かれた!しまった。鼻の下伸びきってたか。

「じゃあこうしましょう。エドにお願いすれば問題無いわね。」


・・・!やめて! 裸の爺さんに背中流される!?嫌過ぎる!!脳内で妙な薔薇色が矢継ぎ早に映し出された。

 ぎゃぁぁぁっ。どっちも地獄!

「冗談よ。エドは今、あの二人の訓練で忙しいでしょうし。」

あの二人?ああ、何か説得したのがいたのか。あの時に、恐ろしい奴。


「じゃ、ほら服脱ぎなさい。」

「いや!いや!!入らなくていいから!」

「観念なさいませ。清水様。」


観念しろってアリサさん!!何か顔笑ってる!!こう弄って遊んで楽しそうに笑ってる!!

 何、もうこの・・・がくり。

俺はどうにもならんと、風呂の前で諦めて服を脱いで、パンツ一丁になった。

「・・・。」

何だよ、その不服そうな顔は。

「下着も取りなさいよ。」


ブレザーを脱いで、袖を捲くった天野が、俺のパンツを指差してくる。

「無茶言うな。」

「大丈夫よ。興味無いから。」

興味無い程、俺の息子は粗末なのか。それとも単純に介護目的なのか。どちらにしても嫌だ。

 そう悩む俺の両手にビニール袋を被せ輪ゴムで止めるアリサさん。

「こちらは準備出来ました。お嬢様。」

「ありがとう、アリサ。 さ、早く脱ぎなさいイッタ。」


いやっ。まじでいやっ!!!

「・・・仕方ないわね。じゃあ、・・・そのままでいいわよ。」

何かお前、残念そうな顔しなかったか?興味あったんじゃないのか?

 まぁいい。とりあえず俺は風呂場。ってもユニットバス。一人が精一杯の狭いアレに入った。

「狭いわね。」

「お前のとこのと一緒にすんな。これが普通だ普通!」


「そ、そうなのね。」

見た事無いのかお前。ユニットバス見た事無いのか。

「じゃ、ほら座って。洗ってあげるから。」

「へいへい。」

そういうと、湯がはっている。アリサさんが準備していたのか、手際のよろしい事で。それに意識を集中する。

 何故か?そりゃまた息子が元気になられると困るからだ。


「じゃ、流すわよ。」

「お~。」

シャワーの蛇口を捻り、お湯が出てくる。それが俺の体にかかる。


「・・・・・・・・・アチィ!!!」

「あつっ。」

二人して、ほぼ熱湯に近いかもしれん湯を食らった。

 反射的に飛びのいた俺。

「痛・・・ちょっとイッタ。」

ぎゃーっ。おもいっきり天野に背中から乗っかって、風呂場の壁にもたれこんでいる。

 慌てて俺は、姿勢を戻し、椅子に座る。

「あ、ああ。すまん。つかいきなり熱湯かけてくんな今度は火傷させるつもりかよ。」

「ごめんなさい。加減がわからなかったの。次は大丈夫よ。」


今度は湯の温度を手で確かめて、俺の体にかけてきた。はぁ。

「熱くない?」

「いや、丁度いい。」

「そう。」

そして、俺の体が満遍なく濡れると、健康タオルを石鹸で泡立ててるんだろう音がする。

 

「じゃ、洗うわね。」

「へいへい。」

背中から洗ってきた。まぁ、背中ぐらいしか洗って欲しくないんだが。

 背中を洗い終えると今度は、腕。・・・まてこら。

「ん・・・しょ。」

おい!寄りかかるな!つか当るだろ!あたってないが当るだろ!胸が!!

「ほんっと、・・・狭いわね。」

寄りかかって俺の前を洗おうとする天野。

「おまっ。そこはいらん!そこはいらんから流してくれ!」

「ちゃんと洗わないと汚いわよ。」

寄りかかって胸元やら首元を洗ってくる、・・・待て。それ以上下に行くな。行ってくれるな!!!

 天野の息が耳元すぐそばにかかる。かなり至近距離なのは丸分りだ。

 しかも何かいい匂いが。石鹸では無い天野の匂いか・・・む。やばい!それどころじゃねぇ!!!

「おい天野!それ以上はやめろ!まじでいらん! つか勘弁してくれ!!!」

「・・・何恥ずかしがってるのよ。」


お前が恥ずかしがれ!お前が!つか・・・もう限界だ!天野甘い息とたまに当ってくる胸!!

 俺は慌てて立ち上がり、湯船へと退避した!泡のついたまま!


「ちょっとイッタ。流さずに湯船に入ったらだめよ。」

「あ?無理だ。つかこれでいいよ。ありが・・・。」

目に入ったのは。天野の濡れたワイシャツに透けて見える下着。・・・がーっこいつは全くけしから・・・いやだめだろ!

「ほれ!早く出ていってくれ!目のやり場に困る!素で頼む!!」

「目の・・・やりば?」

天野は、自分の胸元に視線を移してようやく気付いたらしい。

 顔を赤面させ、小刻みに震えている。

「イ・・・・イッタ…。」

あんだよもう。んな事予想できたろお前なら。


「お馬鹿!!!」

すかーんっっと、天野の手にもつていたシャワーのアレが、俺の顔面にモロに投げつけられた。

 顔にアザでも付かんばかりに炸裂した取っ手。風呂場を出て行く天野。


「はぁ、なんとかやり過ごせた。」

と、風呂場で両手を外に出しつつもたれかかる。

 然し、普通に見られたら恥ずかしい癖に、何でこんな事は出来・・・ああ、看護か。


俺は、暫く何も考えずに風呂に浸かった。そして、いい具合に暖まったので、

 入り口に出て、サッとかかっていたバスタオルを手首に巻きつける様にとった。


「あら、清水様。お湯加減は如何でした?」

何か状況楽しんでない?アリサさんねぇ。楽しんでないか!?

「あ、ああ。どうもわざわざすみませんっス。」

「いえいえ。」

そういうと、俺の下着だけ置いて向こうへいった。

 ・・・まだ着替え残ってるのか。

さて、なんとか器用にバスタオルで体を拭いて、パンツを・・・はけねぇ。大ピンチ! 

 どうするどうやってはく!?


バスタオルを腰にあてがって悩む俺。

「だからいったでしょう?結局こうなるから、脱ぎなさいっていったのに。」

ぎゃーっ。困った。どうにかならんか?

「・・・もうほら。」

そういうと、天野は、もう一枚もってきたバスタオルを腰に巻いた。

 これでとりあえず隠せたワケだが、パンツだ。この最後の俺の理性という名の下着を取られるワケにはいかない。

 さて、どうしたものか。

「見なければいいんでしょう? アリサ。」

「はい、お嬢様。」

いきなり俺の後ろに立っていたアリサさんは、俺を羽交い絞めにした。

 早っつか向こうにいたろ!? 相変わらず忍者かアンタは!!!

つか力っ見た目によらず腕力もすげぇ!

 いくら筋肉痛で弱っているとはいえ、俺が弾けない羽交い絞めだと!?

 つか胸あたってるどころか!俺の背中で潰れてる!きもちい・・・いや困る!この状況はマジでヤバい!!!


「マジ勘弁!はかなくていい、このまま寝る!!」

「もう・・・そんなことしたら風邪ひくじゃない。」

「そうで御座いますね。」

イヤーッ!なにこのタッグ!もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

さて、バスタオルのかかった俺の足元から天野が手をいれてくる。

ぎゃーっ。やめてっおねがいっ。動けない逃げれないどうにもならん!!

 そのまま上にあがってきて、ついに俺の濡れたパンツに手がかかり、引き摺り下ろされた。

終わった・・・。これ以上無いくらいの辱めを受けた気分だ。全身の力が抜ける。


「さ、後は新しいのを。」


もう・・・どうにでもしてくれ。



最早着せ替え人形の如く、俺は服を着せられた。

 アリサさんが妙に楽しそうなのは、何故か。考える必要は無いだろう。

 困る俺の表情見て楽しんでいるんだろう。こういう人なのか、と初めて分った。


「さ、出来たわ。ゆっくりと休みなさいよ?」

「へいへい。」


そういうと、・・・つか余りの自体に気付かなかったが、あれ?天野のワイシャツが濡れてない。

 ああ、アリサさんが着替えを持ってきてたのか。成る程。

 そんな事を考えている間に、アリサさんは俺の手の包帯を巻きかえた。

そしてまぁ、天野はブレザーを着て、こう言う。


「じゃ・・・、帰るわね。おやすみなさい。」

「おやすみなさいませ。清水様。」


へいへい。おやすみおやすみ。と、俺は帰る天野とアリサさんを見送った。


 そして、固焼き煎餅な布団へと倒れ掛かる。

然し、はぁ。散々だった。色々起こりすぎて脳みそが疲れた。

 今まで考えるより先に体が動いていた俺には、物凄い精神的な疲労が大きい。


俺は、寝る事にした。とにかくまだ日曜まで日数はある。

 つかこれからそれがずっと続くのか?などと考えたくもないが、考えてしまう。

 ともかく早くこの手が治ってこれる事を祈るしかない。




ともかく長い一日だった。

 然し、明日更に途方も無い出来事が待ち受けている事も知らずに、眠りについた。






 







第五話 「思考」 終わり。

さて、割と普通な今回から、一変して次回はまた、変な事がおこります。



次回、「接触」


と、挿絵は、描きたくなった時に描いて貼り付けていったりしております。

 主に笑える部分のみ。となりますが、もしかしたらお色気部分にもつくかもしれません。


では、どうもありがとうございました。

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