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ふたりな  作者: TKN
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第四話 「古傷」 前編

どうもTKNです。


 文章に勢いを。

 心理描写・背景描写も力をいれて頑張ってみました。


ツッコミ乱舞な四話の前編。どうぞ宜しくお願いします。

薄っぺらい安物、ふんわり感の欠片も無い、

言うなれば、固焼き煎餅の様な布団の中に俺はいる。


そう前回に引き続き不貞寝しているのだよ!

 だってそうだろ?


何でボブいるんだよ! 考えられ無いよ!普通、ありえネェよ!?畜生!!


 固焼き煎餅的な布団を、横向いて涙で濡らす俺。

 気持ちよさそうにブサイク面を更にブサイクにして寝るゴンザレス。 ふと脳裏を過ぎる事。




         バイトが残っている。



うげぇ!やる気ネェ。マジでやる気おこらネェ。…トンズラするか?

 …いや、そんな事をしたら次の日。


 どこかの港でコンクリ詰めになった俺が、魚介類についばまれているかもしれない。

いやマジでありそうな気がするから、諦めていこう。うん。


そんな俺は、携帯に何故か登録している(無理矢理登録させられたとも言う)

 天野の名前を嫌々押す。


呼び出し音が鳴る・・な・・鳴るか鳴らないか音速の速さで取りやがった!

 覚悟完了する暇も無いの俺!?


「清水一多。何か御用かしら?」


使えよ千里眼!使えよ第三の目!! なんでこんな時は心を読んでこないお前。

 いい難いんだよ。行きたく無いから。 行きたく無いから!!!


「用事が無いのなら、切るわね?」


待って!まさかお前…判っててあえてやってるだろうそれ!

 俺の心情読んでるから、あえて先読みしてこないんだろうお前!

 何このドS! 嫌過ぎる!助けて神様!!!!


「ほら、早く言いなさいよ。用事があるなら。」


もう・・良い。観念した俺は、このドS嬢に聞きたい事を伝えた。

 すると、次の日曜という事らしい。時間は10:00きっかり。

 俺は、なんとなくカレンダーを見る。



「明日かよ!!!」


思わず心の声が、口から活字となって飛び出した!

 そんな俺に天野が怒る。


「ちょっといきなり大声で叫ばないでよ。耳がおかしくなるかと思った。」


そりゃすまんとばかりに謝った俺。そんな俺に天野はこういってきた。


「で、静原雀とはちゃんとうまく進んだ?」


判ってていってないか?お前。絶対判っていってるだろ!?

 俺は、大体の事をかいつまんで話した。


「…哀れね。」




…!? 切りやがった! …哀れね。で切りやがった!!!!

 ひでぇ!せめて慰めろ!優しい言葉じゃなくてもいいから、ちょっと慰めて!!


もう・・何この行き場の無い憤りならぬ悲しみ。


 例えるならこうだ。




溺れる俺が藁を掴んだらクロコダイルだった。




以上!もうどうでもいいので翌朝になる。



嫌々ながら、動きやすい服を着て、軍手は確かあったな。後は、タオルと水筒にお茶いれて。

 大体の準備が整った。

アイツの家。家と呼べるのか?わからんがまぁ、家に向かったのだ。

 一応、こういう事に律儀な俺。時間の20分前には、奴の家に到着していた。




端から端まで、普通に歩くと何十分いるんだろうか。と、おもうぐらい凄まじく広い壁。

 並の学校なぞ比較にならんだろう。そんな壁・・何か槍みたいなものがついてる壁。

  もう城壁と呼んでいいか?これ。


無駄に長いそれを見ながら歩く、ようやく門が見えた。

 ん?見慣れた姿が見える、見たくも無いが天野だ。つかなぜこんな早くにいるお前。


「おはよう、清水一多。指定された時間よりも随分と早く。中々しっかりしてるわね」


褒めてるのか?見下してるのか?どっちなんだお前。

 そんな俺に、笑いかけてる?様に見えない挨拶をしてきた天野。


それに、まぁおれも挨拶と、一応の礼はしておいた。


「うん。でも、少し待っててね。」


待つって何で待つんだ。誰かまだ来るのか?

 と、俺は天野に聞いたワケだ。


「ええ、杉宮和田。ボブ=グラスン。 それに、静原雀。の三人もよ。」


いつもの面子全部かよ!つか雀ちゃんに重労働させる気か貴様!

 と内心怒りつつも雀ちゃんに会えるので感謝感謝。


そんな期待と心配をしつつ待つ。遠くから人かげが見える。

 だんだん近づいて、ようやく俺は誰か判った。カズタだ。

微妙に出番も口数も少ないウッスィーの。

 しかしここぞと言うときにはしっかりと出てきて、いい所を奪いそうな。そんな奴だ。


「おはよう。ああ、天野さん。最近、懐寂しかったんで助かったよ、ありがとう。」

 そう、天野に挨拶と一緒に礼もするカズタ。


「いえいえ、コッチも人手が欲しかったしね。引越屋頼む様なものでもなさそうだから、

 助かったわ、こちらこそありがとう。」


普通だ。普通に笑顔で挨拶しやがった。

 こいつといい、雀ちゃんといい。なんで?俺って女難の相でまくってる?もしかして。

何かもう・・まぁ、どうでもいい! さっさと終わらせてしまいたい!

 早く来い残りの二人!!


などと思ってると、同じ方向から雀ちゃんが自転車にのってきた。

 まだ遠いが判る。匂いでわかる! 雀ちゃんに関してだけは猟犬の様な嗅覚を発揮する俺の鼻。



    はやくこい!急げ!チャリをこげメロス! 


と内心で叫んでる俺の背後に凄まじいプレッシャーが圧し掛かる。

 きしむ俺の体。悲鳴を上げる俺。 振り返る必要も無い。ボブだ。いやだこいつ見たくネェよもう!



「おはよウございましタ!」


だからなんでお前は、そこだけいつもおかしいんだ! た じゃない す だ!


圧し掛かるボブ。プレッシャーに耐える俺。

 それを見て笑うカズタ。 天野はしかめっ面。しかめたいのは俺だ!

そんな俺を他所にボブはこういった!


「天野サーン!ヘルプきましたヨ! マインド誠意でがんばるネ!」


苦しい・・むさ苦しい! しかもマインド誠意ってなんだ。誠心誠意のことか!

 すでにわけわからん別のモノになってるぞお前!精神じゃない!誠心だ!

そんなツッコミを心の中でいれる俺。相変わらず普通に対応する天野。


…俺、ボブ以下なのか? やめてくれ!マジでやめてくれ!!!!



そんなこんな雀ちゃんも、到着。


「おはよ~う。天野さん。ありがとうね。がんばるよ。

 杉宮君もボブもおはよう。 ・・・何してるの?イッタ。」


おい! いや確かにツッコミたいのは判る!判るぞうん!しかし、挨拶忘れてる俺だけ!!俺だけ!!

 そんな俺。に勘付いたのか雀ちゃんが俺に挨拶をする。


「あ、イッタもおはよう。」


 も!?何か、こうチョコ菓子のおまけでついてくる、

 ちょっとした玩具みたいな扱いされてませんか!?ねぇ!!


いやもういい!どうでもいい!この際そんな小さい事はきにしない! 


天野にさっさと仕事説明してくれと、俺は急かす。


「あら、やる気ね。最後まで頑張ってねそのまま。」


当然だ! 使い道はなかったが、まだ色がつく!死ぬ気であげてやろう限界値まで!!


そんな俺達は、天野邸の内部に招かれる。

 いや、実際門までは見た事あるが、中は見た事なかった。うん。まぁ、入る気も必要も無いワケだからな。


天野が手にしたリモコンらしきものの、ボタンを押す。

 すると、鉄製の豪華絢爛な模様びっしりの門が恐ろしい事に、鈍い機械音を静かに立てて左右にガーッと開いた。

 どんだけ無駄に金もってんだコイツの家は。 俺は戦慄を覚えた。

 他の奴等もどうやら同じ考えだろう。そう見て取れる顔をしている。


で、門が10秒ちかくかけてようやく、開けた。なげぇ!でけぇ!アリエネェ!!!

 門もさることながら、庭!中庭ってやつか!?


中庭っつーよりも庭園といえば良いのかこれは!

 何かの模様を描いているのだろうか。入り組んだ道なりをしている。

 その道なりに沿う様に咲いている花!やべぇ!日本じゃねぇここだけ!!!


まだまだ寒さが残っているのに何で咲く!? わからん何か知られざるオーバーテクノロジーか?

 判らんが、色・種類様々な咲き乱れる花の庭園を俺達は、あっけにとられつつ進む。


ありえねぇ、季節感と遠近感が狂いそうになるデカい屋敷。

 この屋敷の部屋の移動。何か嫌な予感がしてきましたよ!

 しかし! 古代の戦士ボブがいる!なんとなるだろうん。


そんな俺達を屋敷の入り口。これまたドがいくつつくだろう無駄にクソでかいトビラ。

 俺のすんでるワンルームのドアが蟻なら、こいつは象だ!いやだもう。何もかも次元が違う。



そんな象みたいな扉が勝手に開くと、目に入ったのは、中央から二階へと続くデカい階段。

 やべぇ。学校の階段ぐらいデカいぞこれ。なんだこのデカさ。


そんな階段下の中央に、執事のエドワード爺さんが姿勢正しく立っている。

 …そういやこの爺さん、車追跡したんだよな。どうやって追跡したんだ。

  やっぱり車で追いかけたのか?そうだよな。まさか走ってなんていわないよな。流石に。


そんな執事の爺さんが、次は案内するように、これまたバカでかい広間?みたいな所へと。

 中央に、何メートルあるんだろうわからん。

 少なくとも教室ぐらいの長さはあろうかというテーブルが凄まじい存在感を感じる広間。


 そこで俺達は、準備が整うまで、少し待っていてくれといわれた。

  まぁ、うん。準備まだならどうしようもない。その恐れ多い規格はずれなテーブルの椅子に座ったワケだ。


そこで見たもの!



椅子が大きすぎて座るのに難儀してる雀ちゃん!やべぇ可愛い!!!たまんねぇ!

 手伝おうと近づこうとする俺。



…軽く雀ちゃんの両肩抑えて椅子の上にのっけやがったボブ。

 …貴様ぁぁぁっ! それは俺のやるべきことだろう!取るな貴様!取らないでお願い!!


時、既に遅しな状態に、餌を前にお預けをくらった犬のような顔をする俺。

 察したのか、またしても笑っているカズタ。 くそう。ダチ公じゃなければぶっとばしてる所だぜ。


「ありがとねボブ~。」

「ノープロブレムでスー!」


むかっ。お前等何気に何仲良いな。何か主人公の立場ことごとく奪われてないか俺。

 なんていうか。そう!主人公の周りにいる印象の薄い奴で、

 出番はたまにあるけど、痛い目みるのが定めの、

 哀れな白○み○るが良く似合うキャラになっていないか!?


まぁもうどうでもいい! どうでもいいからと心の中で叫ぶ俺。そして皆の前にお茶が運ばれてきた。

 いや~どうもすみません!みたいな顔して軽く持ってきた人を見た。


ギャー!メイドだ!メイドさんだ!しかもひたすらゴージャス!

 天野と同じく金髪。ただ縛ってはいなく、綺麗なストレート。

 ガラス玉の様な綺麗な青の瞳。目もパッチリと大きく。

 美人というより美形と言う方が正しいだろう。そんなメイドさん。


 国産車では無く外車! もうなにこの存在感のあるおっ・・・アーッ!

 そんなメイドさんの胸元を食い入る様に見る俺に、すっげぇ痛い視線が横から突き刺さってきた!


視線の元は、雀ちゃん。いやまって!そんな、またそんな悪鬼羅刹みたいな顔しないで!

 重力操作でもやるつもりか!?吹き飛ばさないでせめて引き寄せてお願い!


はぁはぁ、もう・・・この屋敷にきてからツッコミの連続で疲れ果ててきた。

 仕事の前にツッコミで体力全てなくなりそうだ。 

 俺は体力を回復させよう様と、外車級・いやダイナマイトどころか核兵器なメイドさんのもってきたお茶を飲む。


やべぇ、何かすげぇ香りがこう、鼻の奥を通って脳がスッキリ活性化する様な。 

 筆写し難い。うん。。紅茶なんて飲まないもの俺。

 味を判れと言われても無理だ。うん確実に無理だ。

しかし、そんなパンピーな俺でもうまいと思うこの紅茶。

 そして、そんな紅茶の前に並ぶクッキーやら一口サイズのケーキ。


これも食ったら死ぬ程うまいんだろうな。と思いつつ、雀ちゃんの方をふとみる。

 さぞ喜んでいるんだろう。俺はそう思った。 

 しかし目に入ったのは、核兵器なメイドさんに何か話してる雀ちゃん。

 ちょい場所が遠いので聞き取れない。が、クッキーやらお菓子には何一つ手をつけていない。

 嫌いなのか? 甘いものが嫌いなのか?そうなのか。と納得する俺。


そして、しばらく見ていると、 そのメイドさんが紙でできた小箱の様なものを持ってきた。

 お持ち帰り? 首を傾げつつも、それを見た。

 そしてメイドさんに頭を撫でられる雀ちゃんを見て悟った。いや、思い出した!


雀ちゃん家貧乏だった! だから多分兄弟でもいるんだろうか、自分だけ良い思いはいけない。

 という凄い家族思いな良い娘なんだろうか。だとしたら素晴らしい。素晴らしいぞ!

そして!それを見て悟ってしまった俺。


恐らく!いやきっと超高級レストランでも滅多にお目にかかれない様な、すげぇ旨いモンだろうこのお菓子。

 食いたいが食えない。そんな葛藤にもがき苦しみ、ふと、ボブとカズタに視線をやる。



「おいしいですね。ものすごく。」


カズタよ。そりゃこんなクソデカい家のトコが出す菓子だ、不味いワケがないだろう。

 いや、一部の金髪ツインテ女の作り出す料理兵器以外を除けば。


「お か わ り ネ!」


遠慮しろ!貴様は遠慮しろ!! 全く外人というのは皆こうなのか!?

 畑を食い荒らすカラスが如く、お菓子食い荒らすボブ。


そして、やはり食べのるのを躊躇う。うんやめた! 

俺もとばかりに一際ゴージャスなメイドさんに声をかけた。

 そして、雀ちゃんのお持ち帰りに追加してくれと頼んだ。

そんな俺を見て、メイドさんは笑顔でこう答えた。


「ご友人思いの良い方ですね。判りました。」


ははは!そうだろうそうだろう!俺とっても友人思い!(雀ちゃん限定)


そういうと、どこからもってきたか、紙の小箱に詰めていく。ちょっと・・後悔しつつも、それを見ている俺。


 いや、もうさっさともってって! 俺の良心が僅かでも残っている内に早く行け!

そんな何か覚えのあるセリフを脳内に吐きながら、俺は雀ちゃんの方へいくメイドさんを見送った。


そして、あえて、いや!恥ずかしくて見れないだけだが、

 確実に何か横から刺さってくる視線を他所に、紅茶だけのんだ!これは持って帰れないからな!!


そしてどっからともなく、いきなり小声で耳元にささやいてきた天野。


「まぁ、合格?」


いや、合格ってなんだ?まさか俺を試すのに、あんなモノだしたのか?お前。

 つか何、何企んでる?またよからぬ事を企んで無いか貴様!


お前はアレか! 仏様か!? 手のひらに俺を置いて躍らせたいのか?!

 ようし踊ってやる!しかし!お前の思い通りに絶対に踊ってやらんからな!…多分。



そんなこんな、準備が整ったのか、執事の爺さんがやってきてこう言った。


「皆様、準備が整いましたので、宜しく願い致します。」


胸に手をあて、深くお辞儀。 ただそれだけの行動。

 然し!凄まじい品格・風格。気品を伴わせた言動。何か知らんがスゲェと思った。

真似しても絶対無理だぞアレは。 これが年季という奴か!



そして、作業場所へと招かれた俺達。

 そして分担箇所を爺さんから教えられた。


「では、ご説明致します。」


執事の爺さんが、順々に説明をしていく。

 雀ちゃんが、小物やらがはいった小さめの箱。そしてそれを乗せる為の、道具。

 アレだ、ちっさいハンドリフトみたいな奴だ。名前は、忘れたどうでもいい!

 力の無い雀ちゃんは妥当だろう。


カズタは本と書かれたダンボール。 凄まじい数だ。 確かに金額に相応しい重労働になるだろう。


そして、俺!あとボブ。 嫌な予感。というより予感する必要も無いワケだが。

 室内の家具一式の移動!



ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。普通の家具ならまだなんとかなるだろうが。

 デケェ! こんなもん二人でなんとなるワケねぇだろ!無茶いうな!

 しかも一個で俺の月のお小遣い何十人分だ?へたすりゃ何百人分はいくんじゃねぇのか?

 と思う様な、豪華なもんばっか!こんなもん素人にさわらせんなよ!無理だろ!



グランドピアノ運べ言われてる様なものだぞこれ!


と、無理だろと絶望しそうな俺の心配を他所に、ボブは早速近い所にあった、本棚から手をつけようとする。

 ひーふーみーよー……6つぐらい連なった本棚。しかも真ん中で分断されておらず、一つのモノ。


でけぇ。無理だろう。 扉も通路もデカい、天井も高いから。当たる心配はないが。

 これはそれ以前の問題だ!見た目の重量的に不可能だろ!


 そんな俺を他所に、雀ちゃんや、カズタは、テキパキと与えられた分担をこなしていく。


…色つけられても無理なもんは無理だろうと、そんな俺にボブはこういう。


「イッタ!早くするネ。」


あ~はいはい。半ば諦めつつ、まぁ本棚の片方をもとうとした。

 …おい。古代の戦士ボブよ。 いくらなんでも無茶過ぎるだろう。


 あろうことか、本棚を背中にかつぐように乗せやがった!いわゆる亀持ちという奴だ。

 亀が甲羅を背負う様に持つアレだ。 つかこいつどんなパワーしてんだよ。


ツッコむ気も失せた俺は、亀持ちしたボブの後ろから、本棚を支えたワケだ。

 支えただけでも凄まじい重量が圧し掛かってくる。

 これ以上のモノを平然と持っているコイツ。…どこかの世界最自由か?



然し、まぁうん。楽ではある。…そこに後ろから、またも突き刺す様な視線。

 今度は天野の視線だろう。これは振り返る必要も無い。

 上がるどころか下げられては困る! 俺は血相をかえて全力で支えた。

 指の感覚がなくなりそうな程に力を入れる。 足もなんかガタガタ震える。


 しかし下げられたら洒落にもならん! 俺は全身全霊を込めて支えた!

  ボブは何か楽しそうにもって歩いてやがる。


こいつ・・まだ余裕あるのか嘘だろ!?どんな超人だよ!一千万パワーでもあるのか!?角隠してるだろ!

 ならば俺は火事場のクソ力とばかりに、気合いだけで支えつづけた。




そんな事が繰り返し、よく耐えたな俺的な2時間程が経過。


 気持ちよさそうに、汗を拭いて、可愛く座って休む雀ちゃん。

 肉体労働向いて無いのに、頑張ってへたり込んでるカズタ。

 全然なんとも無いのか、周りを見て面白がってるボブ。


そして、精根尽き果てた魂の抜け殻と化して、床に倒れこんでる俺。

 もう…だめだ。指一本動かす力も残っていない。

遅い来る眠気…いや意識が飛ぶ。という方が正しいか。

 こう、頭の中の血どんどん下がっていってだんだんと気持ちよく。…ん?


 そんな状態だろうと意地でも雀ちゃんの方向にだけしっかりと、顔は向いている俺。

 目に入ったのは、弁当やらお茶やら持ってきた執事の爺さん。そして手ぶらの天野。持てよお前も!


精根尽き果てた様に横たわる俺を天野は、一瞥して、こういった。


「お疲れ様。少し早いけどお昼の休憩とってね。 まだ量はあるし。無理はしないでゆっくりとお願いね。」


ああ、その通り。無理はいけない無理は。

 だが!若干一名!!自分のキャパシティを遥かに超える物量に!質量に耐えてる奴がいるぞ!ねぎらえ!

  と、既に顔の筋肉すら動かなくなっている俺は、死人の様な青ざめた顔のまま天野に心の中で叫んだ。

 そんな俺の心をまたしても読んだのか。こっちにきてこう言いやがった。


「…無様ね。」


…無様ね。 哀れね。の次は無様ねですか! もうどうでもいい!どうでもいいから近づくな!

 女には手を上げない俺でも…無理だ。その腕が動かない。

 そんな俺の顔の前に、見たくもないモノが置かれる。 弁当だ。

 食い物の匂い。作りたてなのだろうか、ほんのりと肉の焦げた良い匂いが俺の鼻を通り、脳に直撃する。

  普段なら腹をすかせた犬の様に食いつくだろう。がしかし! 今はその匂いがたまらなく嫌だ!

 嗅いだ瞬間俺の脳は、喉と胃に拒絶反応の信号を送った! 

  こみ上げてくる苦味!喉に苦味というよりも焼ける様な痛み! そうアレだ。筆写するべきで無いアレだ。

 

 然し!雀ちゃんの前でそれだけは避けたい!俺は必死で目に涙をためつつ、その苦味と痛みを胃に押し戻した!

  ぐあーっ!痛い!熱い!そして喉と口の中にのこる臭み! …最悪だ。

 身動きのとれない状態。 涙ぐむ俺。世界が灰色となり視界が薄れてきた。

    …燃え尽きちまったよとっつぁん……。


そんなコーナーポストで、

 灰になった俺が、力なくうな垂れてそうな俺の額に何かいい匂いのした柔らかいモノがあたる。

 忘れはしないぞこの匂い。雀ちゃんの匂い。まさか、さっき自分の汗を拭いていたので俺拭いてる!?

  匂いから察すると、確かに雀ちゃんのモノだ。しかし! もう騙されないぞ。

 目を開けたら雀ちゃんのハンカチもったボブだった!というオチが待っているに違いない!

 大体毎回毎回そうだ。主人公に似つかわしくない展開ばっか寄こしやがるクソ作者。

 そんな奴がそんなありがちな展開を使う筈がない! 至極当然、疑心暗鬼に囚われた俺に蜘蛛の糸。


「イッタ…だいじょうぶ?」


てめぇ作者!お前は天野か! こっちが読んだらその裏をかくな!初めから普通に物語つくれ!

 普通にフラグ成立させろ!! 流石にキレちまうぞ俺!


「無理し過ぎだよ。」

更に心配そうに声をかける雀ちゃん。 

 それは天野に言ってくれ!あんな質量的なおかしいモノ持たせる天野にいってくれよ!!

 まぁいい!今回は感謝しておこう。雀ちゃんの匂いのするハンカチに拭われるなんてもう…。


「全然平気っス!」

出た、久しぶりにタメに敬語。雀ちゃんの匂いで不死鳥の如く蘇った俺。

 食いたくもない弁当に手をつけ、一心不乱に食い漁った!味がおかしい!

  疲れすぎて味覚が落ちているんだろう。

 うまいんだろうが旨くない!…いや、普通に不味い!なんだこれは!ギャーッ。


脳内に過ぎった造語。   料理兵器。


肉が!なんか甘い!いやだ!またなんか甘い!しかも焦げすぎ! 真っ黒!

 雀ちゃんに気を取られて、食う前に気づかなかった俺も俺だが。

 ひでぇ!何かなんというか、他の奴等のはしっかり弁当してるのに、

 何か俺の弁当だけ飛びぬけて異空間! ひたすらカオティック! もういやだ!

 もういやだこの作者と天野! 飴と鞭の扱い巧過ぎていやだ! 

 生かさず殺さず!生殺与奪の権利をがっしり!ぐわしっ!!と握りこんでやがる!

 しかし!雀ちゃんの手前無様な醜態を晒すケにもいかず、貧乏な彼女の事だ。


間違いなく!間違いなく食い残したら怒るだろう! …それを見越してのあの質量とこの弁当か?

  お願い!もう外道な複線張るのやめて!もっとこうほら!あるでしょ!?

 読み手が心温まる純愛ラブストーリーに相応しい複線! 

 無駄なとこにそんなどうでもいい才能発揮しなくていいから!! 

もう何?純愛ラブストーリーというか、俺がとこのとんまで責められるドSストーリーになってるよ!

 いやもう!生きてる事がどうでもよくなってきた!


脳内で長文をだらだらと叫写しながら、なんとか異空間を食べ尽くした。

 筆舌に尽くし難いバリエーションの料理兵器を。

ちなみに今回のメニュー。 


塩コショウじゃなくて、砂糖をまぶして(大量に)揚げた(放置し過ぎ)トンカツ。

 ご丁寧にヘタまでついて切った形跡が見当たらない、図太い焼きナス(また砂糖かかってやがる・・・しかも今度は半生)

それに、キャベツの千切りならぬ仏契ぶっちぎり

 マヨネーズかタルタルか。判らんが、妙に練乳の味のする白いドロドロした物体その1。

 それに、水多過ぎだろう。べっちゃりとしたお米。



どうだ!凄いだろう。

紅テングダケやらダンボール肉まん食いきったヲ○ケンなら食えるだろうが、

 常人ならとてもじゃないが喉を通らないモノを食いきった俺凄いだろう!

 ああ、思い出しただけで気分が更に悪く。

 そんな脳内悶絶している俺に雀ちゃんが、ちょっと赤く火照った可愛いほっぺに右手を当てて微笑んでこういう。


「流石に男の子だね。あんな物持ってもまだ元気あるんだ。」


その瞬間俺は立ちあがり、ボブじゃないが、したくもないポージングをして、元気(空)を最大アピール!

 それを見たボブがなんかどこぞの戦隊モノみたいにポーズ合わせてきやがった!やめい恥ずかしい!!


「hahaha! ワタシたちのスタミナはあげぞこでース!」

上げ底!? 高く見せてどうする!? いや今の俺には合ってるかもしれんが、そこは底無しだ!

 底があってどうする! 上げてどうする!!上げたらだめだろ! 上げたら!


「元気過ぎるね!」

いや、元気過ぎるのはそこの古代の超戦士ボブだけだから雀ちゃん。一緒にしないでお願いだから。

 てかツッコミ無いのか雀ちゃん!意外とボケった部分もあったりするのか雀ちゃん!

そんな無理をして体を奮い起こす俺と、無理どころか余裕ぶっこきまくるボブを見て安心したのか、

 自分の居たところにもどり、ちょこんと座った。 

 動き易い服。ズボンを履いているので、パンツどころか、太ももすら見えないのが非常に残念だ。

 そして、限界きたのか、その場にへたり込んでため息を付く俺の目の前に、見たくも無いふとももが現れる。

 天野だ。無駄に長いあんよ。見た目に反してガキっぽいパンツを何故かはくこの女。


「まだまだあるから、最後まで頑張りなさいよ。」


いやだ。いやだよ。もう帰りたいよママン。母親なら優しくしてよねぇ!

 プライベート踏み躙るだけじゃなくて優しくしてよママン!!

そんな俺をを一瞥して、天野は雀ちゃんの方へいく。

 何言う気だ貴様。そんな俺は、全神経を研ぎ澄ませて聞き耳を立てた。


「静原雀、お疲れ様。お昼からもまだ残ってるけど、頑張ってね。」


「うん。もちろん頑張るよ。でも、こんなぐらいであんな大金いいの?天野さん。」


「いいわよ。ちゃんと頑張ってくれてるんだし、分相応よ。」


「うん、ありがと!でも…イッタの奴。ちょっと無茶し過ぎて無い?

  何かもう、今にも倒れこみそうなんだけど。」


すみませーん!もう倒れてます!倒れました! 1ラウンドKOです雀ちゃん!!


「あ~…。まだ大丈夫じゃないかしら。男ってほら、目標があると体力なんていくらでも続くじゃない。」


「目標?」

可愛らしく首をかしげる雀ちゃん。そして俺も目標なんてあったか?と心で首をかしげる。


「うん。静原雀。あなたをデートに誘うから、あんな一番辛い所を自分から名乗り出たのよ。」

「え…。」

え…。いや、素で俺の脳内と雀ちゃんの言葉が、意味は違えどリンクした。

 いや、意外という点では同じだろう。然しだ。これはまた何か良からぬ複線か!?

 また俺を喜ばせて陥れようとする天野の策略か!?

「じゃあ、アタシの為に?」

「それ以外に何があるのよ。アレだけあなたに必死なんだもの。これぐらいはやってもおかしくないわね。」


予期せぬ援軍。例えるなら、戦国時代の戦に後方から戦車。どこの戦国自衛隊だ。

 然し、これは驚いた。飴と鞭といったが、極端に甘い飴がきたこれ。…いや毒かもしれないが。


「うん。ちょっと楽しみ…かな。」

「彼があなたの為に、汗水流して働いたお金だから、ちゃんと受けてあげなきゃダメよ静原雀。」

「うん、わかってる。」


うおーっ!!神様仏様天野様!なんという蜘蛛の糸!蜘蛛が鋼の糸を垂らしてきやがった!

 しかし油断は出来ん。きっちりと対策を練っておかねばならん!


「さ、そろそろ休憩は終わりにして、各自自分の分担こなしてね。

 私は、この後用事があるので、夕方まで留守にするから、わからない事があったらエドに聞いて。」


「ok!エンプレス!」

そういや、ボブお前、天野の本性見たんだよな。然し、見た奴じゃないとあまりわからんぞそれ。

「は~い。」

うわ!可愛い!なにその笑顔と片手あげる仕草! なんかこう…なんかもう抱きしめたい!


「…あ、はい。」

寝てたな!お前静かだと思ったら寝てたなカズタ! どこまで薄い奴。


そして、先に光明を見出した俺は、動くはずの無い体を無理矢理動かして持ち場へボブとともに戻った。

 今思えば、動かなくなった俺を動かす為のものだったのかもしれない。

 そう思いつつ、先の楽しみが俺の体を突き動かす。男ってなんでこんな作りしてるんだろうかと思いながら。


それから夕方。最早文字通り、魂すらもすり減らした俺が、クソ広い通路のクソデカい壁。

 見事な模様の跡が顔につかんとばかりに、寄りかかっていた。いや、倒れこんでいた。

「おつかれさま~イッタ。」


何か嬉しそうに、笑顔でねぎらってくれた雀ちゃん。 うん、この笑顔見れただけでも報われた。

 そして残ったのはデートというとんでもない見返り!

 ああ、楽しみだ。ほんっとーに!この話が始まって初めて楽しみだよ!!

 そして、何か俺に言って欲しい事があるのかと、コッチをじっと見て待っている。

 ああ、お疲れ様いってなかった。と、俺はお疲れ様と言ったが、まだ不服なよう…あ!

 肝心な糸を忘れてた! ほらさっさと掴め俺!とばかりに、言おうとしたが、ちょっと待て。

 あのドSタッグ(天野+作者)の事だ。絶対に何かよからぬ事を企んでいるに違い無い。

 これは間違いない。確実だ。火を見るより明らかだ!

 どうする。…いやしかし。…やむを得ない!くそ!


「あ、そうそう。今度、遊園地でもどう?一人じゃ心配だろうから、天野も誘おうかと思うんっスが。」


 何言ってる俺!今時年頃の女子が遊園地で喜ぶかよ!しかもなんで天野!?

 いや、仕方ない!天野を手元において行動すれば、最悪の事態は避けられる。

 

「え?天野さんも?あ、うん。遊園地いってみたかったんだ。行きたいな。」

あれ?意外な反応。いってみたかったんだ。 あ、そうか。行く余裕がなかったのか。

 ナイスチョイスだったらしい。天野は置いといて、選択肢は間違っていなかったようだ!助かった!!


「いついくのかな?」

「あ~。んじゃ来週の日曜でどうっスか?」

と、適当に答えてしまった俺。 そして、それに頷く雀ちゃん。…助かった。

 そんな俺に軽くお辞儀して、エド爺さんの所に何故かいった雀ちゃん。

まぁいいや、と思いつつボブとカズタに視線を移した。


「やめてくれないか。」

「oh!エンリョいけませんカズタ!」

何か、カズタをおぶっているボブが見て取れる。ざまぁみろ。お前もそのむさ苦しさを味わえカズタ。

 貴様だけ、責め苦を一切受けてない所がムカツくから気分がいい。さぁ味わえ!さぁ苦しめ!!

 ハハハハハハハ!!!気分が良い!


愉快痛快急展開! え?急展開!?


エドワードの爺さんと雀ちゃんの声がちょうど聞こえてしまい。脳内活字が繋がってしまった。

 聞こえた声はこうだ。


「実は、お嬢様が・・・。・・・旦那様の影響力を利用しようと、お嬢様を。」

「えーっ。早く助けないと!」


何。おい作者。一度ならず二度までも拉致ネタか!? しつこいな!

 てかアレか!?俺が雀ちゃんと天野を天秤にかけて計るなんて真似するとでもおもったのか!

そんなもの結果はきまってるだろう。雀ちゃんの方がズドンと下がるにきまってるだろう!

 紙切れと山の重量測るかよ!ふっとんでくよ天野が名前のごとく天まで!!




…しかし、支払うのは天野だ。その天野が………イヤァァァァァァァァァァァァっ!!!!

 だーっもう!もう精根尽き果ててるのにまだ何か続くのこれ?もう寝させて?安眠させて!!


つか優秀なボディーガードっつか一個小隊どうなったんだよおい! 

 なんでそんな簡単に捕まったんだよ!

 もう…いやこんな物語。もういやこんな作者きえてなくなれ!と叫びつつ次回に続く!!



結構長くなりましたが、前編終了です。

 同じネタを二度。しかも長々と使うのはどうかと思いましたが。

今後の展開にどうしても必要なので、あえて使用しました。



では、前編読んでいただきまして、有難うございました。

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