第二話「暴君と女帝と侍」 前編
どうも、TKNです。 今まで私の中にあった小説の概念とは異なる小説。
これはこれで、楽しいな。と思いました。
引き続き、読んで戴けると嬉しいです。
雲が水平線に向かってまばらに流れていく、晴れた日の放課後。
俺、一多は、気だるそうに車の排気ガス渦巻く臭い歩道を歩いていた。
車を見ると、ふと思い出すものだ。
細かい事は気にしない。つか忘れる?そんな俺。
左頬やや下にわりと目立つ傷がある。
はて、なんで車を見ると思い出すのか、俺も忘れたんで判らん。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
それよりも・・だ。
反対側の歩道で、同い年ぐらいの男数人が、お年寄りにイチャモンつけて、首根っこを掴んでいるではないか!
腕っ節が自慢の俺だからか、
普通ならそう反応するのか?判らんが、反対側の歩道に行こうと、歩道橋を駆け上がった!
歩道橋の階段を登りつめ、ふと気になったのか、お年寄りの方を見る。
見慣れた小柄な女の子が、あの馬鹿野郎どもに立ちふさがっているではないか!
どう見ても愛する雀ちゃんだ。
彼女もお年寄りを助けようと思う精神を持ち合わせている。
ちょっとした連帯感に幸せを感じるまもなく、俺は戦慄した。いや遠くからツッコンだ!
「あんた達、お年寄りに手を上げるなんて、最低じゃない?」
片手を腰に当て、あるかないか判らん小さい胸(バレたら殺されるだろうな)を張り、
馬鹿野郎どもを指差していたのだ。
いや!そこまではいい!そこまではいいんだ!かっこいいぞ雀ちゃん流石だ雀ちゃん!ますます持って惚れた!!
だが!
爺さん踏んでるよ! ぶにっと踏んじゃってるよ!まるでいつもの校門の俺だよ!!
ダメだろう流石に爺さん踏んだら。ダメだろうヒロインがそんな事したら!
と、ツッコミいれまくりな俺が、慌てて歩道橋を駆け下りようとしたその時!
一人の野郎が、雀ちゃんに殴りかかったのだ! 覚えたぞテメェの顔。ゆるさ~ん!!
「あんた。…地獄行き決定ね。」
判決地獄行き。まるで閻魔様きどりの雀ちゃん。その小柄な体という、圧倒的不利なハンデがありながらも、
同級生以上の男と、互角以上に遣り合える理由が、前回の『くの字』の理由が今明らかに!
殴りかかってきた野郎とは、かなりの身長差があり、体格差もかなりのものだった。
だがしかーし!
相手の殴りかかる勢いを、重さを、なんとそのまま全体重を肘に乗せて、
相手の股間部めがけて、一片の躊躇も無く、カウンターを打ち込んだのだ。
歩道橋の降り口で、反射的に自分の息子を抑える俺!
つか潰れてないか!大丈夫か、野郎の息子!!
その一撃を見た、他の野郎二人。
同時に殴りかかってきたワケだ。これは流石に、ヤバいだろう。
そう確信した俺は、飛び込んだ!
構える雀ちゃんの背後から飛び出し、雀ちゃんに害成す愚か者達を一掃したのだ。華麗に格好良くのはずだったが。
その瞬間俺も、地面に這い蹲っていた。見事な程無様に。
「邪魔よ馬鹿。」
酷いわ!あんまりよ!危ない所を助けたのになんたるっ・・なんっっったる仕打ち!
もうアレ。涙が止まらない俺を横目に、雀ちゃは更にこう言う。
「アレぐらいなんてこと無いわよ。」
せめて礼ぐらいはいってくれない? ホントにツンしかないの?ねぇ。
そんな俺と雀ちゃんのやり取りを、見つつ、さっきの爺さんが立ち上がって礼を言ってきた。
いや、踏まれてたろ? 爺さん雀ちゃんに踏まれたろ!?
俺が正常では無いのか?そんな俺をおいてけぼりにして、会話は進む。
「大丈夫でした?お怪我はありませんか?」
これまた極上の笑顔を爺さんに向ける。
ホント、俺とか悪漢に対しては悪鬼羅刹を彷彿とさせるというのに。
どうして普通の人には、そんな可愛いんだ雀ちゃぁぁぁぁあっん!
涙を浮かべて地面に這い蹲る俺。
再び礼をいって去る爺さんと、それを極上の笑顔で見送る雀ちゃん。
そして、這い蹲る俺を、地面に転がるゴミの様に踏みつけて、去っていく雀ちゃん。
せめてゴミは拾ってゴミ箱に捨てようよ!拾ってよ!拾う価値すらないの俺!?
雀ちゃんの、姿が見えなくなるまで、心の中でそう叫びつつ、無様に這い蹲っていたそんな放課後。
そして、自宅に帰り、ため息を漏らしつつも、夕飯の準備をする。
ああ、一人暮らしなんだよ。家族はいるが、俺みたいな出来損ないは、世間体が悪いらしく、
離れて暮らさせられている。まぁ、上流といかなくても中流。それに近しい家柄である。
まぁ、その分、俺と違い。妹が出来た奴なのでまぁ、跡継ぎは問題無いのだろう。
体よく追い出されて現在に至る。
然し!後悔も恨みもしていない。むしろ感謝!高校生で小さいながらも我が城を手に入れ、
高校生ライフを満喫出来るのだ!すばらしい事この上無い。
そんなこんな、誰に言っているのか身の上話をしつつ、夕食が出来上がり、
夕時のテレビ番組でも見つつ、食っていた。
夕食がどんなものかって?きまっているだろう。
お湯を沸かして三分待てば出来上がる魔法の食材。インスタントラーメンだ!
俺が料理なんて器用な真似が出来るはずも無い。
そんな事は気にもせず、あんまり面白くも無いテレビ番組を見ていると、呼び鈴が鳴る。
嫌な予感。たまにくるんだアイツが。 ちなみに妹が来て
「おにいちゃんごはんつくってあげる♪」
なんて展開では断じて無い事はいっておこう。それならば俺はどれだけ救われた事か!
俺は嫌々入り口に行き、不機嫌をモロに出した口調と顔で、ドアをあけた向こうに立っていた奴に言う。
「あんだよ」
金髪のツインテール。日本人にあるまじき無駄に長いあんよ。
その腕にぶら下げているのは、買い物袋。 毎度の事だが、迷惑だ。
と、思っている俺を押しのけて、まるで我が家に入るが如くに、断りも無く押し入ってくる。
不法侵入だろ?これ不法侵入者だろ!?と毎度思う。
そして、何故か調理道具一式揃った台所と、リビングが一緒、まぁ1LDK。ワンルームだから仕方ないが、
台所からテレビの前のちゃぶ台にのっている素ラーメンを見て、俺にこういう。
「またこんなもの食べて、体を壊すわよ?」
知った事かっつか、何を食そうと俺の勝手だろうっつか帰れよ!うぜぇ!!
と、やはり相手が女なので、そう強く言えない優しい俺。
そして、そんな俺を一瞥して、黙々と料理を作り出す。
そこまではまぁ良い。そこまでは。
旨いモンなら、例え敵国の料理であろうと食べる俺だ。
然しながらに、こいつの料理。いや、料理と言える代物なのか?
毒でも作る研究をしていて、俺を実験体としている様にしか思えないワケだ。
どうやらシチューの様なモノを作っている様だが、
っておいおい!ジャガイモの皮を剥け!つかそんなダカンダカン音を立てながら、ジャガイモを叩ききるな!
他の野菜も肉も豪快に切り分けて、順番もへったくれもなく、沸かしてない鍋の水にぶち込むこの女。
それにとどめとばかりに、シチューのルーを目分量どころか、1箱まるごとぶち込みやがるだと!?
明らかにおかしいだろう!気付け!普通気付くだろ!箱にある調理説明を!
そんな毒殺を目論んでいるかの如くも料理をし続ける天野。 もういやだ。
俺は半ば諦めて、ちゃぶ台の前に座り、大人しく今際の時を待つ。
気分はそう。死刑宣告を受け、十三階段を一歩一歩、登る気分。そんな感じだ。
余り面白くないテレビ番組で気を紛らわせる俺に、天野は、料理を作りつつ俺に話しかけてきた。
「静原雀とはうまくやっているの?」
母親か貴様は。人のプライベートにドカドカ土足で上がりこんで踏みにじる母親かお前は!
流石に厚意には違いないだろう天野に対し、俺はこう言い返した。
「あ?まぁ、見ての通り相変わらずだよ。」
残念そうな声でそれに答えた天野。なんだ、よくある好きだから俺の面倒見ているというワケでは無い。
というのが良くわかる。いや、振りなのかも知れんが、それはさておきとして。
こう、なんとも言えない、異臭・悪臭が俺の鼻に入り、脳にダイレクトにダメージを与えてくる。
何故だ!シチューだろ?野菜と肉切り分けて、鍋にぶちこんでルーぶちこんだら作れるモンだろ!?
闇鍋という言葉が脳裏を過ぎり、そして、眼前に現れた黒ずんだドロドロとした物体。
それを見て、俺の思考は止まる。見た目普通で、食ったら脳の中で富士山が噴火するなんてレベルじゃない!
既に視覚的にも核並みの破壊力と、殺傷能力を備える食品兵器である事を、訴えているではないか!
「さっさと食べてね。片付かないから」
・・・食えと?毎度の事ながら、その類を見ないバリエーションの広い料理兵器には驚かされる。
今回のは例えるならそう、ダークマターをコトコト煮込んで溶かしたそんな物体だ。
食べ物を粗末にする事は、断じてしない俺は、恐る恐る口に運んで見た。
シチューはまぁ、甘いモノだが、これは強烈に甘い。甘いというより糖分の塊の様だ。
一口食べて、俺は天野にこういった。
「お前、シチューにチョコとかいれたのか?」
その言葉に、自慢げに答える天野。
「ええ。チョコレートと、小豆と寒天と・・練乳ね。」
おい!既にシチューではなく、野菜と肉の入った熱いあんみつと化していないか!?
つかなんでそんなものぶち込むか貴様!
「どう?今回結構自信あるのよね。」
人、それを過信という。然し、不味い!などというと折角の厚意を裏切る事になるので、
素直に不味いと言えない俺は、英雄だな。死地に敢えて踏み込める英雄。
「あ、ああ。まぁ、旨いと思うぞ。」
そんな料理兵器を食いきった俺の言葉に嬉しそうに、食後のデザートを持ってくる。
「はい。デザート」
まだ甘いもの食えというのか、黄色いアイスの様なものを持ってきた。どうやら作っておいたモノをもってきたらしい。
それを恐る恐る口に運ぶ俺。 口の中に広がる・・・・・辛味。
何故、アイスが辛い。いや微妙に甘酸っぱい、例えるならそう、カレー味の蜜柑。
「甘いものアトに、ちょっと辛いものたべるとおいしいでしょ?」
いや、まぁ、確かにそうだが、チョイスがおかしくないか、これは。さっきのよりはマシだが。
「さて、私は帰るわね。その小皿だけ洗っておいて。」
と、言うと、さっさと帰ってしまった。毎度の事ながら、不可解な奴だ。
俺は、出て行った事を確認するなり、常備している胃薬を体内に投与する。
最早戦う男の必需品といえる代物と化した胃薬。
そして俺は、酷い胸焼けに悩まされつつ、寝床に着く。
晴れ渡る、まだ冬の名残を感じる肌寒い朝。
またしても、いつもの如く、校門で雀ちゃんを今か今かと、隣にいるカズタと待ち構える。
しかし、いつもなら既に登校してきていてもおかしくない時間になってもこない。
どうした事か、風邪を引いたのか、それならば学校なぞ行ってられるか!
俺が、校門を急いで出ようとしたその時、聞きなれたムカツく声に呼び止められる。
「清水一多、場所は判っているの?」
と、天野の奴が俺を呼び止めた。走り様、雀ちゃんのお見舞いにいく!と言う俺を、天野は呼び止める。
「家にいないわよ。エドが確認したんだけど。彼女最近不良にちょっかい出してなかった?」
ああ、確かに出してたな、つい昨日。俺も巻き込まれたんで良く知ってる。
そんな答えに天野は、地図を俺に渡してきた。
「ここにいるわよ。どうもその不良にバンで連れ去られた様ね。
エドが追跡して、場所は特定済み。急いでいって助けてあげなさい。」
いや、突っ込んでいいか?追跡ってなんだ。エドってお前の家の執事のエドワードの爺さんだろ?
車を追跡する爺さんってどんなだよ!
「早く。」
地図を強引に渡し、ツッコミたい俺を急かす天野。
地図を確認すると、成る程。良く知っている近場にある、小麦粉の倉庫だ。
しかし、どうやってあの雀ちゃんを捕まえたんだ。不意打ちか?想像つかんぞ!
そんな悩みを胸に俺は、一人で近場にある、小麦粉の倉庫へと走った!
第二話「暴君と侍」 前編 これにて終了!
不良に手を出したから仕返し食らった雀ちゃん。
雀ちゃん助ける為に単騎でカチ込む俺かっこいい?ねぇ!!今までの無様を清算出来たらいいなの後編に続く!
キャラクター上、それは無いと思います。<清算
どうもTKNです。第二話の前編を最後まで、読んで頂き有難う御座います。
余りこういうフラグとか判らないので、四苦八苦しつつ頑張っております。
では、どうもありがとう御座いました。